日常の一コマ、魔法杯研究会の者共

「よくぞ集まった。今日のサバトでは一週間後にある試験の対策会をする」

※サバト=魔女の集会の事


「「「ははーorz」」」



「なーにバカな事をしてるのよ、さっさと勉強を始めなさい!」


「な! 貴様、我らを愚弄する気か!」

「MTGの前に、その目的に関するコンセンサスを得るのは重要でしょう?」

「そーだそーだー」


「なんでこのサークルには中二病、変に意識高い系みたいな人が集まるのよ! あと最後の人に関しては語彙力0なの?! はあ、もう……」


「今日も君の視線はニヴルヘイムの様だな」

「なるほど、それが君のサジェスチョンですか」

「ご、語彙力あるし!」


「ともかく、魔法杯の前にテスト勉強! 勉強しなさーい!」


……

………


「よし、今日のサバトはここまでにしよう」

「スキーム通りに勉強が進みましたね」

「単語カード、三周した。これで僕のボキャブラリーが増えたかな」



 彼ら、彼女らは魔法杯研究会のメンバー。魔法杯で活躍し、全国にかっこいい所を見せたいと思っている人々の集まりである。


 しかし、それだけならば能力研究会でも出来る事だ。むしろ、能力研究会の方がその目的を達成する近道かもしれない。

 というのも、能力研究会は毎日のように対人戦の訓練をしている戦闘狂の集まりだ。そこに所属するだけで、能力の精度が何倍にもなる事は言うまでもない。実際、所属メンバーは魔法杯で好成績を残している。


 ではなぜ、彼ら、彼女らは新たに魔法杯研究会を作ったか。それは単純、真面目に訓練したくないからだ。なんて言い方をすると、彼らをけなしているように聞こえるかもしれないが、そういう訳ではない。


 能力者フォルテでない人向けに例えるならば、能力研究会は「勉強同好会」、魔法杯研究会は「テスト対策会」のようなイメージだ。

 勉強同好会、つまりテストとは関係なしに毎日勉強する集団は、きっと好成績を収めるだろうけど、効率的ではない。

 テスト対策会、つまり試験対策に特化して勉強する集団は、より効率的に好成績を収める事が出来る。


 話を戻そう。この研究会は、「コツコツ能力を鍛えるつもりはないけど、魔法杯で活躍して全国にかっこいい所を見せたいと思っている人々」が集まっている。だから、中二病やら意識高い系やらが集まってしまったのだ。プライドだけ高い連中ともいう。



「さて、ここからは来たる魔法の祭典で、いかにして我らの才能を発揮できるかについて、意見を言い合う事にしよう」


「アグリーですね。そして、その事について魅力的なサジェスチョンがあるのです。ノーティスを確認して頂けましたか?」


「昨日、闇が支配する時間に送られてきたあれだな」


「その通りです」



「私たちにも分かる単語で話なさい!」



「何を言う、普通の言葉で話しているではないか」


「このくらいのボキャブラリーは持っておいて当然のものですよ」



「普通の単語では・な・し・な・さ・い!」



「はい」「すみません」



「テイクツーよ。はい」



「さて、ここからは魔法杯で活躍する方法を話し合おう」


「ですね。で、これ良いかもって思う提案があるのですが、お知らせを見て頂けましたか?」


「昨晩送られてきたあれか」


「そうです」



「よろしい。で、私もメールの内容は確認したけど、改めてここで発表してくれる? 半数以上が見てないみたいだし」


「分かった。実は俺……というか魔法杯研究会の下に、フォルテ向けの製品の販売を担っている業者『マジックグッズ』から連絡が来てな。曰く、いくつかの輸入商品の宣伝をしてほしいそうだ」


「なるほど、その商品を使って魔法杯で活躍し、『このアイテムのおかげで私たちは勝利しました』と言えばいいんだな?」


 なるほど、という様子で首をひねる二・三年生。そんな中、一年生は理解していないようで。


「すみません、先輩。質問いいですか?」


「どうぞ」


「えっと、そんな事って許されるんですか? もしそれが出来るなら、『高いアイテムを購入した人が勝ち』って事態になりますよね?」


「うむ、一年生なら当然そう思うよな。説明しよう。まず大前提としてだが、魔法杯にアイテムの持ち込みは原則禁止だ。完全に自力で戦う必要がある」


「あ、そうなんですね。知らなかったです」


「うむ。ただ、魔法杯の試合に持ち込めないだけで、試合以外の場面なら使っても問題ないんだよ」


「えっと?」


「分かりやすい例を出すと、例えば『魔法杯で活躍する為に、筋トレしました』って人がいたとするでしょ? この時、『貴様、筋トレグッズを使ったな?! 失格!』なんて事にはならないわよね?」


「そりゃあそうですよね」


「マジックアイテムも同様で、魔法杯以前にアイテムを使うのはオッケーなの。例えばテイマーが『テイム成功率上昇』系のアイテムを使って魔物をテイムしたとして、その魔物と一緒に戦うのは問題ないわ」


「なるほど! アイテムを持ち込めないだけで、訓練にアイテムを使うのはオッケーなんですね」


「去年は栄養ドリンク、一昨年は筋トレグッズのプロモーションがあったと聞いている。それと似たような感覚だろう」

「三年前は研究室の紹介があったらしいな」


「それで、受けるとした場合のリスクは? 誰も勝てなかったら、賠償責任とか負うの?」


「そんな事は無い。万が一負けてしまっても、罰金などは無いらしい。ただし、負けたら報奨金は0だそうだが。要は『勝てばお金を貰える、負けても失うものはない』って感じらしい」


「へえ、それは良心的ね」


「『学生相手に大きな責任を負わせたりしない』と言っていた」



 その後、彼らは業者の提案を受け入れ、幾つかのマジックアイテムを手に入れた。

 その中でも特に強力なアイテムが現在一年生のある生徒に与えられた。もし自費で買うなら1000万円以上するかもしれない超高級アイテム。そんなアイテムを与えられた彼は、大きなプレッシャーを抱える事になるが、無事それを使いこなして大きな力を手に入れる事が出来た。



 彼は風兎のライバルになるかあるいは……。



 フォルテ同士の熱き戦いはすぐそこまで迫ってきている。




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