植物園

 ある日の部活の休憩時間の事だった。


「ねえ、赤木君、宮杜さん。この学校って小さな植物園があるじゃない? 私、行ったことが無いんだけど、二人は行ったことある?」


「グラウンドの横にあるやつですよね? 私は無いです」


「ああ、そういえばパンフレットに載ってたなあ。俺も行った事ないよ」


 校門と第一訓練場の間にある、50メートル×100メートルほどの小さなエリアが「植物園」という名称で紹介されていたはずだ。ちなみに、ゲームでも行ったことが無いし、そもそもゲームではただの雑木林だったはずだ。


※詳しくは近況ノートの地図をご覧ください


「そっか……。じゃあ、今度三人で行ってみない?」


「おおー、いいね! 次の土日がのんびりできる最後の土日だし、行くとしたら今週末かテスト明けだよなあ。どっちがいいだろ?」


「わ、私も行きたいです! 私はどっちでも大丈夫です!」


「私もどっちでも。だけど、善は急げって言うし、今週末で良くない?」


「「了解(です)ー!」」


「あ、それならさ、神名部さんも誘わない?」


 迷宮実習で神名部さんと一緒のパーティーで活動する中で、クラスの垣根を超えた一体感が出来ていた。


「そうだな。そういえば、神名部さんって部活入ってるのかな?」


「「……?」」


 七瀬さんと宮杜さんは互いに顔を見つめ、そして首をコテンと傾けた。どうやら誰も知らないみたいだな。


「それじゃあ、明日の迷宮実習の時にでも聞いてみようぜ。今週末の予定と併せて」



「部活? 入ってないけど……どうして?」


「いや、実はな……」


 植物園に行く事、そして神名部さんも誘おうと思った事を話す。


「なるほど、そういう経緯。うん、ぜひ一緒に行きたい」


「そっか、予定が空いてるようで良かった」

「じゃあ全員同じ寮だし、寮の出口で集合しよっか」

「良いと思います!」


「分かった。休みに同級生と出かけるなんて、はじめて」


「「「……」」」


 時々挟まれる返答に困るセリフ、何とかならない? ならないよなあ。だって、この子、素で言ってそうだし。


「そういえば、三人は能力研究部に入ってるんだよね? どんな感じなの?」


「お、興味ある? 活動内容としては魔法実習と同じ感じだけど、授業と違って対人戦もしてるんだ」


 その他、活動日について、ノルマがあるかなどの質問に答えていく。


「そっか、楽しそう。ノルマも無いなら、ちょっと覗いてみようかな」


「見学だけでも来てみたら良いと思うぞ! ついでに勝負する?」


「赤木君と勝負しても勝ち目が無いし、それは遠慮する」



 そして土曜日、午前10時に寮前で集まった俺達は植物園へと向かった。


「ここが植物園! 分かってはいたけど、やっぱり小さいな」


「うん。けど、小学生が遊ぶには大きいと思う」


 フォルテメイアには、小学生以前に能力を発現してしまった子を保護(という名目で隔離)するための施設がある。隔離と言うと悪い印象を受けるが、これは社会の、そして本人の為に必要な事でもある。というのも、まだ小さい子がフォルテに覚醒してしまった場合、能力を暴走させてしまう事があるのだ。その時、周りに一般人しかいなかったら誰も暴走を止める事ができず、本人や周囲の人に危険が及ぶ可能性があるから、フォルテメイアで生活させるのだ。

 なお、今では広い公園、プールと言った小学生が楽しめる場所が作られているから、小学生は毎日楽しそうに過ごしている。あー、だからゲームには無かった「植物園」って要素がこの世界には存在するのかな?


「なんだか癒されますね~! 植物園というよりも、庭園って言われた方が納得です」


「分かる! 老後はこういう庭がある豪邸でのんびり暮らしたい!」


 宮杜さんが言うように、この場所は「庭園」という言葉がよく似合う。

 そして七瀬さん、君まだ若いでしょうに、老後の事なんて考えるのはちと早いのでは?(前世で社畜からニートになった人が言っても説得力0だな)


「でも、植物園らしい面もあるみたい。ほら向こう」


 神名部さんが指さす先を見ると、「食虫植物」と書かれた立て看板が目に入った。なるほど、確かに植物園らしいな。


「小中学生の教育の為に植えてるのかな?」


「ああ、なるほどなあ」



「すごーい! 私、実物は初めて見ました!」


「私も~! へえ、本当にカップ型なんだね! どう進化したらこうなったのか気になるね!」


 興味津々と言った様子の二人の横で、神名部さんはじーっと説明文を読んでいた。


「これ、アマゾンだと人間も食べるサイズになるんですね」


 嘘だろ? いやでも、ここって一応地球じゃないし、向こうでの常識は当てはまらないか。そう思って神名部さんが読んでいた立て看板を覗き見る。なになに、『人間には無害です』らしい。やっぱりウソかよ!

 けど、純粋な宮杜さんと七瀬さんは、神名部さんの嘘を信じちゃったようで……。


「え?! そうなんですか?!」

「あ、それ私聞いたことある! 大きい物は哺乳類も食べるって聞いた!」


「見事に引っかかった。ごめん、さっきのは嘘。ちなみに、『哺乳類も食べる』は半分あってて、ネズミをも捉えるサイズの物が時々発見されるらしいよ。けど、人間を食べる事はない」


「な、なんだ~。びっくりしたじゃないですかー!」

「引っかかったー! 『それ聞いたことある』とか言っちゃったじゃん~!!」


「あはは、まさか神名部さんがそういう冗談を言うとは思ってなかったからな。俺も危うく引っ掛かりそうになったよ……。食人植物と言えば迷宮の320階層以降にいる『ハングリートレント』とか『デバウワーフラワー』だけど、どっちもウツボカズラっぽい形では無いし……」


「「「うん?」」」


「……? あ」


 そういえばこの世界の無限迷宮って300層くらいが最高到達階層だっけ。


「ごめん、320階層はおかしいな。でも、220階層でもないし……。ごめん、記憶が曖昧だ」





 俺達のパーティーが320階層に到達する前に、今日の会話を忘れてくれてるといいな……(汗)




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