フォルテメイアを楽しむ

ランニング

 今日も今日とて、俺の一日はランニングから始まる。この日課は、基礎体力をつけると共に、早寝早起きの習慣を身に着けるのに役立っている。


 ただ、今日は俺一人ではなく、一緒に走るメンバーがいる。七瀬さんと暁先輩、桜葉先輩の三人だ。


「おはよ~赤木君。ふあああ」


「おはよう、七瀬さん。眠たそうだけど、大丈夫?」


「うん、走る分には。けど、今日の午後の授業は夢の中かも。特に歴史は……」


「後で俺のノート見せるよ」


「助かる~」



「おっはよ~、赤木君……」

「おはよう、赤木君。朝からランニングとは、なかなか良い習慣だな。誘ってくれて嬉しいぞ」


「暁先輩も眠たそうですね……。桜葉先輩はシャキッとしてますね」


「だってまだ6時だよ? 身支度しない取って考えたら5時半には起きなきゃいけないよね……。うーん、辛い」

「まあ、私は元々、朝から勉強する習慣があるからな」


「我々高校生の最適な睡眠時間は9時間程度とされてて、それよりも長くても短くても体は疲れます。ですから、5時半に起きるなら、8時半くらいに寝るのが良いですかね」


「その時間、私は動画を見て爆笑してた~」


「まだ学生ですし多少は遊んでも良いと思いますが、程々にしましょうね」




「はあ、はあ。あ、赤木君……。身体強化を使ってもいいかな……? もう、限界……」


 最初にギブアップしたのは七瀬さんだった。小柄で歩幅が狭いからか、あるいはただ単に体力がないからか。理由はともあれ、ここで七瀬さんを一人にするのはナンセンスだし。


「うん、それなら使おうか。身体強化の練習も重要だし」


「そうしま~す。うっひょ~一気に楽になった!!」


「でも、魔力を消費し続けながら走るのって意外と大変だからな。覚悟しておいた方が良いぞ~」



「あ、赤木君……。私ももう無理……」


 次は暁先輩だった。100層まで進んでいるだけあってある程度体力はあるようだが……このペースは速すぎたかな?


「ご、ごめん。私もやっぱり無理……。魔力がもうすっからかんだよ……」


 七瀬さんも同時にリタイア。二人は残りの時間ウォーキングする事になった。

 残るは桜葉先輩と俺。桜葉先輩を見る限り、まだまだ余裕そうに見えるが果たして……。



「……」「……」


 無言が続く。ジョギング中だから会話が無いのも当然と言えば当然なのだが、それ以前に桜葉先輩と二人きりで話す機会なんてほとんどなかったからなあ。それに、暁先輩と違って人懐っこい性格でもないしなあ。むしろ、威圧感さえ覚える時がある。

 いや、それは違うか。もしかすると、俺が意図して避けているのかも?


 なんて考えている時だった、桜葉先輩から声をかけてきた。


「赤木君、少しいいだろうか?」


「はい、なんでしょう?」


「走っている最中に聞く事ではないかもしれないが、どうしても気になってだな……。その、君と瑠璃は……えっと、その。お付き合いしてたりするのか?」


「? えっと、前も説明した通り、そういうのは一切ないですよ。もしそうならわざわざ隠したりしないですし」


「いや、だがな。どうしても瑠璃の態度の変化が気になって、君のつぶやいたーと瑠璃のつぶやいたーを見てみたのだ。そうしたら、二人ともゴールデンウィーク最終日に逢魔湖公園の写真を挙げているではないか。しかも、同じような構図の写真もあった」


「あーはい。確かに一緒に遊びに行きました。というのも、前にと先輩で三人にケーキバイキングを奢ったじゃないですか?」


「そんな事もあったな。あれは美味しかった」


「ですね。で、あの時のお礼とお詫びの意味でって言われたんですよ」


 逢魔湖公園でイチゴフェスがあったという話、そしてその後に一緒に散歩したという話をした。


「そうか、なるほどな……。うむ。根掘り葉掘り聞くようなことをしてすまなかった」


「いえ。……桜葉先輩、暁先輩の事を大切に思ってるんですね」


「?」


「今回の事も『お前のような奴に瑠璃を渡すか』的な意味で聞いてきたんですよね?」


「え、いや。そんな意図はないぞ。……むしろ、私的には二人を応援したいかな。瑠璃は私の大切な友人だ、そんな彼女が君みたいに誠実な人と恋仲になれたのなら、先が安心だしな」


「僕、誠実ですかね?」


「少なくとも私の眼にはそう映っているぞ」


「でも……。いえ、その。ありがとうございます」


「まあでも、恋仲ではないにしろ、瑠璃とは仲良くなったのだろう? ただの先輩後輩よりもむしろ友人と言える程度には」


「そう……ですね」


「是非今後も瑠璃と仲良くしてやってくれ」


「? ……あ、はい! 勿論です」




 その後、一周遅れの七瀬さん&暁先輩と合流し、四人で寮に戻った。

 こうして、朝のランニングのメンバーが増えたのだった。





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