ゴールデンウィークが終わって

 ゴールデンウィークが終わった。一週間もあったけど、なんだかあっという間だったように感じる。

 さて、俺はいつも通り登校し、教室の扉を開けてクラスメイトの様子を見る。


「また学校かあ~」

「だり~」

「Zzz......」


 なんだか活気が無いな。まさにブルーマンデー症候群だ。

 程なくしてチャイムが鳴り、朝礼の時間となった。先生が扉を勢いよく開けるも、教室の空気は依然暗かった。


「おはよう、ってお前ら元気ないな?! まあ休み明けだし、テストも近いし、そうなる気持ちは分かる。けど、中間テストが終われば魔法杯でどんちゃん騒ぎだ! 元気出せ! という訳で号令!」


 どんちゃん騒ぎ……? は言い過ぎだと思うが、大規模な体育祭や文化祭と考えれば楽しいイベントと言えるかもしれない。

 そして、朝礼が始まると全員の活気が少しずつ戻ってきた。しかも一限は魔法実習、ダラダラしている場合ではない。



「おっは、赤木! 今日もバフ、頼むわ!」


 バシッと柏木に背中を叩かれた。柏木だけではない、他の友人も手を合わせている。


「任せろ! あ、宮杜さんもこの近くで居てくれるか?」


「は、はい。今日もよろしくお願いします」


「んじゃ、全員同時にバフかけるから」


 目を瞑って集中する。一人一人が使おうとしている魔法に集中、全員の魔法を強化する事に成功する。


「え、全員同時なんてできるのかよ?!」

「すっご!」

「というか、バフの威力、上がってない?」


「ゴールデンウィーク中にちょっとな」


「へえ~。なんかこういうの聞くと、能力の事なんてさっぱり忘れて遊び惚けてた自分が恥ずかしくなるよ」

「俺達も負けてられないな!」

「追いつく……いや、追い越してみせるぞ!」


 思考加速(正確には並列思考)を手に入れたおかげで、ゴールデンウィーク前よりも更なる強さを手に入れる事が出来た。敵と相対するのはまだ先……のはずだし、そう焦って強くならなくてもいいかもしれないが備えあれば患いなしだ。



 そして、変わった事は能力についてだけでない。放課後、能力研究部にて……。


「赤木君~! 一緒に練習しよ~♪」


「あ、暁先輩! はい、よろしくお願いします!」


 例の一件以降、暁先輩との距離がぐっと縮まった。所謂吊り橋効果ってやつだろうか?



……

………



「先輩、俺が氷魔法でとどめを刺すので、先輩はサポートをお願いします!」


「う、うん!」


 こうして100体のサラマンダーを倒す時間が始まった。

 先輩の土魔法もサラマンダーに有効だが、先輩の魔力量を考えるとサポートに徹する方が吉と言えよう。


「それじゃあ、行きますよ。まずは向こうに5体いますので、まとめてぶっ飛ばしましょう!」


「え? え? どこ?」


「こっちです」


「わわ、ちょ、手……」


 先輩の手を引き敵のいる方へと移動する。


「あそこにいますね、ここまで来れば肉眼でも見えますよね」


「うん、1、2、3、4、5体、確認出来たよ。けど、なんで攻撃してこないんだろ、このくらいの距離ならアクティブになってもおかしくないのに……」


「隠密を使っているからですね。一度でも攻撃してしまえば、俺達のいる位置がバレてしまいますが、それまでは見つからないです」


「隠密?!」


「ええ。それじゃあ、今から俺が氷魔法で攻撃します。そうすると一気にヘイトが高まるので、次の攻撃は絶対に『体当たり&尻尾攻撃』になります。そこで接近してきたタイミングで、落とし穴に嵌めてください」


「分かったわ」


「行きますよ、『アイスショット・レディ』……『穿て』」


 グギャアア!

  グルルルルル!

 クルル?

  グギャ!

 シャアアアア!


 ギロッと俺達の方を向くサラマンダー達。


「ひいっ!」


「先輩、落ち着いてください! 大丈夫です、絶対に先輩を守りますから」


「う、うん……! 今! 『落ちろ!』」



 激闘の末、俺達は(休憩を含めて)4時間で倒しきる事に成功した。


「これで終わり?!」


「ええ、そのはずです……。あ!」


 フィールドの中央に光の柱が出現した。脱出のための転移陣だろう。


「ふー。のんびり歩いて行きましょうか」


「そうだね、急ぐ必要もないし」


「……」

「……」


「あのね、赤木君」


「はい、なんでしょう?」


「さっきの『私の恋人になって』っての……。その、忘れてくれないかな?」


「あはは。はい、流石に分かってますよ。無事生き残った以上、あの時の会話は無効です。それに俺も『最期だし仕方なく』で告白された相手と付き合うのはちょっと……って思いますし」


「あはは、そりゃあそうだよね。ゴメンね」


「それにしても、先輩がそんな願い事をしてたなんて意外でした。なんというか、先輩モテそうなのに……。明るくって、人懐っこい感じで」


「! 急に褒めないでよ、もー! でも、ありがと。あー、うん。実を言うと告白されたことはあるんだけどね。でも、私にとってその人達は友達でしか無くって……。結局、恋愛には発展しなかったんだよね……」


「なるほど……。逆に先輩から告白したことは?」


「無いね~。ずっと『そもそも恋って何なんだろう?』『友達でいいじゃん』って感じだったし」


「あはは。そう問われると難しいですね」


「でも、うん。今日、なんだかそれが分かった気がする……」


「?」


「とか言ったら期待しちゃう? ていうか期待しちゃったでしょ?」


「はあ。辞めてくださいよ、男の子の純情を弄ぶのは」


「♪~」


「なんで機嫌よさそうなんですか?」


「な~んでも!」



………

……



「ねえ、赤木君? なんか暁先輩と親しくなった?」

「あ、それ私も思いました!」


「え? あーうん。そうかな?」


「桜葉先輩もそう思いますよね?」


「そうだなあ。元々瑠璃は人懐っこいし気にしてなかったが……。そう言われてみればそうかも?」


「そ、そうですかね?」


 例の場所については他に人には内緒にしているから、頑張って誤魔化す必要がある。……のだが、いつかボロが出そうで怖い。





 なんにせよ、こうしてゴールデンウィークが終わり、いつも通りの日常へと戻ったのだった。



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