降宝之巣
「それで、何か願い事をするんですよね? この湖にお金を投げ入れる感じですか?」
綺麗な泉にお金を投げ入れて大丈夫なのか、と思わなくもないが泉の底にお金が何枚も沈んでいるのが見えるし、ここではそうやってお祈りする風習なのだろう。
「そうね! ま、私はお金じゃないけど、貴重な物を用意してきたんだ! これなら絶対、思いが天に届くはず!」
「あ、さっき言ってたやつですよね。とっておきのお供え物でしたっけ?」
「うん、それがこれ! じゃーん!」
「これは……宝石ですか?」
「ちっちっち。違うんだな、これが。これはなんと……」
「なんと?」
「120階層のボス、『サラマンダー』のSRドロップ、『紅玉の意思』よ!」
「な、なんだって~! って?! え、それってかなり貴重な品ですよね? これ、放り込むんですか?」
「売ったら確実に20万円以上するこれを奉納したら、きっとどんな願いも叶う。そう思わない?!」
「いや、まあ。どうでしょう? というか、パーティーメンバーは納得したんですか? あ、もしかしてソロ討伐したんですか?」
「ソロじゃないよ?! 流石の私でも一人で倒すのは無理よ……。精鋭6人を集めたフルパーティーでなんとかって感じ」
「6人? あ、100層以降は人数制限が4人から6人になるんでしたっけ?」
ボス戦に参加できる人数は制限が設けられているが、100層以降はその制限が緩められる。
「そうだね」
「で、他の5人は納得してるんですか?」
「うん。そもそも、サラマンダーを倒したのって、パーティーメンバーの子が『サラマンダーの革で防具を作りたい』って言ったことがきっかけでさ。サラマンダーの革を全て譲る代わりに、SRドロップは私がもらったって感じ。ざっくりと言うとね」
「なるほど」
「というわけで早速願い事しよ!」
◆
当初の予定では5円を入れようとしていた俺だが、先輩の奉納品を見て500円玉に変えた。だって20万円投げ入れる人の横で5円はちょっとさ……。
「じゃあ、それ! ……20万に気を取られて何を願おうか考えてなかった。えっと、じゃあ……」(暁先輩の願い事が叶いますように)
いつになく真剣な表情をしている先輩が見えた俺は、そうお願いする事にした。それにしても、先輩の願い事って何なんだろう? なにか深刻な状況に置かれてるとか? ……後で聞いてみようかな。もちろん、無理に聞き出すつもりはないけど、もしかしたら手助けできるかもしれないし。
「次は私の番ね!」
先輩が泉の前に進んでいく。そんな彼女の様子を見て、俺はデジャブを覚える。
やっぱりこの泉、どこかで見た気がする。そう、以前にもこの泉に何かを放り込んだ覚えが。
今世は……違う。転生後にこういう事をした覚えはない。じゃあ……前世?
「やっぱり遠くに投げ入れた方が良いのかな?」
腕をぐるぐる回し、準備運動する暁先輩。なんか可愛い。ってそうじゃなくて。
前世の記憶を遡る。美しい泉。SRアイテムを投げ込む。……あ!!
「先輩ダメだ!!」
「え?」
先輩に向かってダッシュ。紅玉の意思を投げ入れるのを阻止しようとするが……。
「「あ?!」」
俺の接近に驚いた先輩は紅玉を離してしまった。そしてそのまま、コロコロと転がって……。
「赤木君?!」「しまっ……!」
紅玉を追おうとするが、間に合わない。紅玉は泉の水面に触れてしまい……。
キーン……
不思議な音と共に、俺と暁先輩の足元に魔方陣が現れる。
「え?!」「ああ……手遅れだったかあ」
◆
「赤木君?! いる?!」
「はい、隣にいます。よかった、同じ場所に転送されたみたいですね」
転移型トラップならパーティーメンバーをバラバラにする(ゲームではランダムなメンバーの能力が使えなくなる)が、これはトラップではないからな。同じ場所に転送されたみたいだ。
俺と赤木先輩が転送されたのは山の中、しかし11~20層にある山とは違って植物が全く
「ここって……。火山フィールド? 無限迷宮101層~120層の。まさか、あの泉にアイテムを投げ入れたら迷宮に連れて来られるの?!」
「……そういう事みたいですね。ただ、俺の勘が正しければ、これは無限迷宮ではなく……」
「そ、そんな……。どどどど、どうしよう、赤木君? ごめん、私のせいで大変なことになっちゃった……!」
「落ち着いてください、先輩! 大声を出したら敵が集まってきます!」
「そ、そうよね。ごめんね、取り乱しちゃって。安心して、赤木君。私、この階層は熟知してるから! 赤木君は私が守るわ! 痛い!」
「先輩?! あ、足……」
ヒールのある靴でそこそこの距離を歩いた上、山道も進んだのだ。しかも、途中で怪我もして……。
「だ、大丈夫。このくらい、なんとか」
「嘘は言わないでください。ほら、そこに座って靴を脱いでください。靴擦れ起こしてるんでしょ?」
「……はい、おっしゃる通りです。ごめん……」
「なんで先輩が謝るんですか。俺の方こそすみません、全然気づいてませんでした。あの時、引き返すように言ってれば。もう少し早く泉の正体に気付いていたら。こうはならなかったのに……」
「赤木君は謝らないで! 私が全部悪いんだから……」
「いえそんなことは……! ってこんな事言い合っても意味が無いです。今はこの場所を脱出する方法について話しましょう」
「そ、そうね。えっと、赤木君はこの場所のことを知ってるの?」
「えっと。おそらくって感じですが。実は迷宮に関する論文で読んだのですが……」
ゲームでお金を効率よく稼ぐために用意されていた「降宝之巣」。100階層以降にいるボスのSRドロップを奉納する事で行く事が出来る、特殊な魔物の巣である。まさかリアルでも存在していたなんてな……。
さて、「降宝之巣」は驚くべき性質がある。なんと、この場所に現れる敵を倒すと50%という超高確率でSRドロップを落とすのだ! 「宝が降る」という名前通りのダンジョンである。
今回、サラマンダーのSRドロップを奉納して、火山エリアに飛ばされたことからも分かる通り、奉納したアイテムに応じたフィールドに転送される仕組みとなっている。
というのを、「論文で見た」という体で暁先輩に伝えた。
「なにそれ、すっごいじゃん! そんなのがあるんだったら、みんな大金持ちになれるじゃん!」
「と思いますよね。でも、そうは問屋が卸さないんですよ。夢のような場所ですが、それ相応のリスクがあります」
「と言うと……」
「まず、無限迷宮と違って途中離脱が出来ません。正規の脱出方法でしか、脱出できません」
「なるほど、無限迷宮じゃないものね。挑戦者の為のチョーカーが使えないのは納得ね」
「はい。ですから、普通に死ぬ可能性があります。で、肝心の脱出方法なのですが、このフィールド内にいるすべての敵、合計100体を全て倒す必要があります」
「100体?! それは確かに大変そうね……。だって、100層にいる魔物って、一体倒すだけでも1分以上かかるよ?! それを100体って一時間以上かかるよね!? しかも、今は二人……。むむむ、無理よ! そんなにも戦えない!」
「まあまあ。慌てるのは早いですよ、先輩」
「? もしかして、状況を打破する方法があるの?!」
「いえ。残念ながらさらに恐ろしい話です。まだ降宝之巣、最大のリスクを話していません」
「……え?」
「あ、さっそく敵が現れました。二体同時に」
グルルルルル
シャアアアア
俺達の視線の先には、二体の巨大な爬虫類が居た。体に火を纏った奴らの名前は……。
「サラマンダーが二体?!」
「はい。降宝之巣のリスク。その最大のポイントは、登場するモンスター100体全てがボスという事です」
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