魔法杯ってなあに?その1

 それはゴールデンウィーク三日目。特にする事も無くって、なんとなくテレビを点けた時の事だった。


「あれ、これってフォルテメイア?」


 テレビに映っていたのは、我らが高校の校門だった。やっぱりかっこいいよな、この雰囲気。こう……「ここから先は世界物語の中心だ」という雰囲気が出ている。


「特集でもするのかな? 最近、フォルテメイアへの進学率が減ってるし……」


「あーかもな。『フォルテメイアってこんなに明るい学校なんですよ~』って所をアピールしたいのかもな」


 こんな生々しい話をするのもどうかと思うが、フォルテとして働けば結構な大金を手に入れる事が出来る。だから、フォルテメイアに入学すれば、はっきり言って就職に困る事は無い。

 そうだなあ、前世(地球)で言う所の医学部みたいな? よっぽどするべきこと(フォルテメイアなら訓練・医学部なら勉強)を疎かにしない限り、ある程度の収入は保証されているのだ。

 それでも、フォルテメイアに入学する人は少ない。それはそもそもフォルテが少ないって事も理由の一つだが、それ以上に「過酷」というイメージがあるからだろう。


「でも、今日の番組は違うみたい。ほら」


「ん? へえ~! 魔法杯の特集か」


 大アリーナで行われるクラス対抗戦『魔法杯』は俺達の成績にも関わるビッグイベントである。 大アリーナ内で戦っても、怪我を負う事はあり得ない。すべてのダメージは仮想なのだ。これは何度も述べている通りだ。だから、テレビで映してしまってもグロテスクな映像が流れる心配はない。

 なるほど、だから魔法杯は一種のエンターテイメントとして放送されているのか。前世で言う所のe-Sports的な感じかな?


「楽しみだなあ~!」


「そっか、次の魔法杯にはお兄ちゃんが戦ってるところが映るって事だよね?!」


「そうなるな。あ、ここにも書いてるぞ『今年度の魔法杯の様子は6/15日に生放送予定』だってさ」


「お兄ちゃんの雄姿、しっかり見ておくね!」


「おう、かっこいい所を見せるぜ!」



「ところで……魔法杯ってどういうルールなの? 詳しい事は全然知らないんだけど……。お兄ちゃんはもう習ったの?」


「いや、授業では教えてもらってないなあ。でも、内容は知ってるぞ。先輩から聞いたし(、それにゲーム時代は何度もプレイしたし)」


「そうなんだ! じゃあ、教えてよ!」


「オッケー。まず大前提として、この大アリーナは縦横400メートルある」


「うーん、パッとイメージできないけど、それってかなり大きいよね?」


「めっちゃデカいぞ~。で、そのフィールド内で4チームが戦う訳だ」


「ふむふむ」


 紙と鉛筆を取り出して正方形を描いた俺は、それを四つの正方形に分割した。


↓こんな感じ

□□

□□


「出場クラスはこの四方角のどれか一つが『領地』として渡される。あ、各領地の間には20メートルの隙間があるから、領地の大きさは190メートル四方だ」


「190+20+190で一辺400メートルって事ね」


「そうそう。各領地の端、つまりアリーナの四隅にはクラスの『拠点』が設置される。拠点のサイズは一辺20メートルの正方形だ」


「拠点って何か建物みたいなものが建ってるの?」


「いや、そういうのはない。ただの範囲だな」


「なるほど」


「拠点の中心には直径5メートルほどの物体、通称『杯玉はいぎょく』が設置される」


「なるほど、それを死守する訳ね!」


「ま、そういう訳だ。ただ、この杯玉は『絶対守るべきもの』という訳ではない。これは後で話そう」


 うん。今までの話をまとめると

・領地とは、各クラスに割り当てられる一辺190メートル四方のエリア。

・拠点とは、領地内の端に設置される一辺20メートルのエリア。

・杯玉とは、拠点の中心に設置されるデカいオブジェの事

 って事だよね?


「そういう事。じゃあ、用語の話をしたところで、次は大会の始まる直前の話をしよう」


「直前?」


「ああ。大会の始まる直前30分間は、領地を好きに弄っていいことになっている。落とし穴を掘ったり壁を作ったりできるんだ。ただし、誰も乗り越えられないような高い壁とか、深過ぎる穴を掘るのは禁止されていて、1メートル以上の高低差をつけてはいけない」


「なるほど。あくまで障害物の設置って感じなのね?」


「そういう事。まあこれに関してはオマケみたいなもので、一番重要になってくるのが『地形オブジェクト』の配置だ。これは10メートル四方の範囲を好きな地形に変える事が出来るマジックアイテムだ」


「?」


「例えば、『泥沼』っていうオブジェクトを配置したら、そのマスは泥沼へと変化する。『凍った地面』っていうオブジェクトを配置したら、そのマスはツルツル滑るようになる」


「うわあ。どっちも嫌だね……」


「試合開始後は地形オブジェクトを動かすことは出来ない。だから、今後の戦闘を見据えて慎重に設置しないといけない。自分たちで設置した地形で自分たちが苦戦するなんて事になったら駄目だしな」


「なるほどなるほど。使える地形オブジェクトの数に制限はあるの?」


「ある、けどその数は試合開始直前に決められるんだ。だから、事前に考えておくことは出来ない。30分の間に考える必要がある」


 事前におおよその作戦を立てておくことは出来ても、完璧なプランを用意する事は不可能だ。


「厄介なことに、この『地形オブジェクト』は復元効果があるんだ。例えば泥沼に火魔法を当てると、泥が一時的に乾いて通行可能になる。けど、1分くらいで何事も無かったかのように泥沼に戻ってしまう」


「え? そうなんだ!」


 なお、地形オブジェクトを設置できる範囲は拠点以外の領地内、つまり19マス×19マス-2マス×2マス=357マスである。



 つまり、試合開始前についての話をまとめると

・領地内は好きに弄る事が出来る。ただし、高低差は1メートル以内でないといけない。

・地形オブジェクトという物を使って、マスの地形を変化させる事が出来る。

・使える地形オブジェクトの数は直前に教えられるから、急いで戦略を立てる能力が試される。

 って感じかな?


「そういう事だな。じゃあ次に、魔法杯の得点制について話そうと思う」


「よろしくお願いしま~す!」



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