魔法杯ってなあに?その2

 ここまでのまとめ。


<大前提>

・魔法杯で使用される大アリーナは400メートル四方の正方形型である。そこで4チームが戦う事になる。


<基礎知識>

・領地とは、各クラスに割り当てられる一辺190メートル四方のエリア。

・拠点とは、領地内の端に設置される一辺20メートルのエリア。

・杯玉とは、拠点の中心に設置されるデカいオブジェの事。


<試合開始30分前の「準備時間」で出来る事>

・領地内は好きに弄る事が出来る。ただし、高低差は1メートル以内でないといけない。

・地形オブジェクトという物を使って、マスの地形を変化させる事が出来る。

・使える地形オブジェクトの数は直前に教えられるから、急いで戦略を立てる能力が試される。



「魔法杯は点数制で勝敗が決まる。計測はアリーナに搭載されているマジックアイテムが行うから、審判はいない」


「すごいよね~。VAR判定も顔負けの謎システム!」


「だな。で、最も基本となる点数の稼ぎ方は、敵を戦闘不能にする事だ。『キル』なんて呼ばれるな。なお、キルされた学生は一分間のクールタイム後、拠点にリスポーンする」


「1分なんだ。結構短いね」


「だな。だから、キルされることはそんなに大きなペナルティーではない。ガンガン攻めるのが良いとされているんだ。メタい考察になってしまうが、こういうシステムにしておけば成績をつけやすいだろ? 『運悪く最初にキルされた生徒は活躍の場が無いから成績無し』なんてかわいそうだ」


「ああ~。運動会とか体育祭とは違って、ここでの活躍が成績に直結するのかあ」


 そそ。『魔法杯は遊びじゃない、テストだ』って事を忘れちゃ駄目……って先輩が言ってた。


 ま、それはともかく。肝心の敵をキルした時に入る点数なんだが、

・自チームの拠点内に侵入した敵をキル→0点

・自チームの領地内に侵入した敵をキル→5点

・領地外で敵をキル→20点

 となっている。


 要は『防衛の一環として敵を倒しても、手に入る点数は低い』『領地を出て、攻めの姿勢で敵を倒せば、高得点』って訳だ。


「うーん。このルールだと、湧き潰しをする人が出てきそうだけど、大丈夫なの?」


 湧き潰しとは、リスポーンした敵をノータイムでキルする行為の事だ。対戦系のゲームでは迷惑行為として取り上げられることもある。


「そこはちゃんと対策されていてな。リスポーンした人、というか自軍の拠点内にいる人はダメージを負わないんだ」


「そうなの? じゃあ、自分の拠点に引きこもっていたら、キルされないって事?」


「そういう事。だけど、拠点内で攻撃されても全く問題なし、という訳では無い。拠点内で攻撃されたら、自分に入るはずだったダメージが杯玉に入るんだ」


「出てきた、杯玉!!」


「ああ。拠点内に引きこもっていたら、いつか杯玉が壊されてしまう。そうなると、一気に点数差をつけられてしまうから、攻防のバランスを意識して戦闘に挑む必要があるんだ。という訳で次の話題は点数の稼ぎ方2つ目『杯玉の破壊』について話そう」



 杯玉には人間100人分程度のHPが割り当てられていて、時間経過以外の方法で回復しない。で、杯玉のHPを減らすには『拠点内に留まっている敵に攻撃する』もしくは『杯玉を直接攻撃する』の二つの方法がある。


 杯玉が破壊されると、杯玉に与えたダメージに応じて三クラスに点数が与えられる。ちなみに、破壊された杯玉はHPが2倍になって復活する。


「つまり、Aチームの杯玉が破壊された場合、B、C、Dチームに貢献度に応じた点数が入るって事だよね?」


「そゆこと」


「時間経過で回復するって言ったけど、その場合貢献度はどうなるの? 例えばBチームが99%HPを削ったものの、そのあと時間経過で全回復されて、その後Cチームが杯玉を壊した場合ってどうなる?」


「その場合、Bチームの貢献度は0になってしまうな。ちなみに、時間経過での回復は毎分10%だ」


「なるほど。つまり、杯玉を壊して点数を稼ぎたいなら、集中攻撃しないと駄目なんだね!」


 まさにそういう事だな!

 で杯玉を壊した時に入る点数なんだが、これがかなり大きい。『破壊されたチームのその時点の点数』が分配されることになっているんだ。


「……え? それって凄いね! なるほど、だから試合開始直後はキルを狙うのがメインで、後半は杯玉を狙う試合展開になるんだね。試合開始直後は全チーム0点だから、敵チームの杯玉を壊しても点数は入らない。点数を稼ぐためには敵をキルするしかない。けど、後半戦になると、杯玉を壊して一気に得点を稼ぐのが得になるんだ!」


 そうなんだよ! そこがこのゲームの面白い所なんだ!

 例えば途中経過が


Aチーム:1500点

Bチーム:1300点

Cチーム:1000点

Dチーム:600点


 だったとする。この時、B、C、Dチームが協力してAチームの杯玉を破壊したら


Aチーム:1500点

Bチーム:1300+500点

Cチーム:1000+500点

Dチーム:600+500点

※貢献度が1:1:1だった場合、1500点が3チームに等分される


 こうなって、Bが一位、CチームがAチームと並ぶんだ。


 要は魔法杯は最後までどのチームが勝つか分からない! これが本当に面白いんだ!



「でも、これだとAチームが可哀そうだよね。なんというか、せっかく頑張ったのに一気に逆転されちゃって……」


「じゃあ、穂香がAチームのリーダーだったらどうする?」


「え?」


「3チームが攻めてこようとしています。不安そうな顔をするチームメイトに、穂香はどういう作戦を伝える?」


 う、うーん……。え~っと。『倒されても、すぐに逆転してやろうぜ!』的な?

 この場合、次に狙われるのは1800点になってウハウハのBチームだよね? そしたら


Aチーム:1500点→2100点

Bチーム:1800点→1800点

Cチーム:1500点→2100点

Dチーム:1100点→1700点


 こうして、AチームとCチームが同率一位になる。


 ここでAチームの杯玉は、一度倒されてHPが二倍になってる。だから、AチームよりもCチームを落とす方が楽だから、次の矛先はCチームに向くよね。

 で、次にCチームを倒したら


Aチーム:2100点→2800点

Bチーム:1800点→2500点

Cチーム:2100点→2100点

Dチーム:1700点→2400点


 って感じでAチームは一位になれる! どうかな?


「うんうん。そう、魔法杯は逆転しやすいんだから、一度負けても気を落とす必要はないよな。けど、これだと途中で試合終了になったらBチームかCチームに負けてしまう可能性がある。だから、俺なら他の方法をとるかな」


「どんな?」


「Dチームに掛け合って、『逆転したBチームを潰そうぜ』ってそそのかすかな。


 つまり最初の時点

Aチーム:1500点

Bチーム:1300点

Cチーム:1000点

Dチーム:600点


 この時にDチームに言うんだ、『なあ、Dチーム。BとCチームが俺達Aチームを落とした瞬間、Bチームを叩こうぜ? 貢献度はそっちが多めになるようにするよ』って


 そしたらこんな風になる

Aチーム:1500点→1500点→2075点(+575点)

Bチーム:1300点→2050点→2050点

Cチーム:1000点→1750点→1750点

Dチーム: 600点→ 600点→2075点(+1475点)


※Aチームの杯が破壊されている隙に、A、DチームはBチームに攻撃開始。Aチームが落とされた直後に、Bチームを落とす。


 こうなったら、AチームとDチームが同率1位になれる。DチームはAチームと手を組んだ方が得って訳だ。だからDチームはこの話に乗るだろう。どうだ?


「うわあ、よくこんな作戦思いつくね。お兄ちゃんって策士なんだね……」


「ふふん。もっとお兄ちゃんを褒めたまえ、妹よ」


「お兄ちゃんかっしこーい! お兄ちゃん素敵~!! ぎゅーー!」



「なるほど、すっごく分かりやすかったよ。これを知った上で魔法杯を見たら、楽しめそう!」



 そして俺達は、去年の魔法杯の様子を見ながら「ここはこうした方が良いと思うなあ」とか「私だったらこうするかな?」とか意見を出しながら、楽しく観戦した。有意義な一日になったよ。





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