ゴールデンウィーク、一日目
「ふひ~やっと着いた……」
東京まで夜行バスで送って貰った後、自宅の最寄り駅まで電車移動しなくてはならない。朝一番にも関わらずかなり混んでいる電車を乗り継いで、やっとの思いで実家の最寄り駅に到着した。
「お兄ちゃん~!!」
「穂香! 迎えに来てくれたのか!」
「もっちろん! 疲れたよね? 荷物、持つよ!」
「いや、荷物ってこの鞄だけなのだが……」
「……」
「……」
「と、取り敢えず、お父さんが車を出してくれたから、こっち着て!」
「っと。ちょっと引っ張るなって……」
◆
「それでそれで? クラスメイトとも仲良くなったのね?」
「まあ、うん。ああ、そうそう。伊藤と言えば、いっつもすっごい大食いでさ~。例えば昨日は……」
「へえ、それは凄いわね……。食費が凄い事になりそう」
「ああ、実際、食費はめっちゃかかるって言ってたよ」
「やっぱり若い内はすごいなあ。俺も高校生の時はラーメン大盛りとかガツガツ食べてたけど、今は一人前も食べれないよ……」
「え、父さんも昔は結構大食いだった感じ?」
「まあ、陸上部に入ってたからな。部活帰りにみんなでラーメン屋行く、みたいな?」
「へえ~。そういう高校生活って想像できないや」
俺が(前世で)高校生だったときは、ほぼ毎日まっすぐ家に帰って勉強していた。そうしないと、親がグチグチと叱るからな。……なんか前の人生の俺って空しいな。就職するまで必死で勉強し、就職したら今度は仕事漬け。心身が追い込まれて、退職し、そのままニートに。はあ。
「お兄ちゃん、大丈夫? 急に寂しそうな顔して……」
俺の隣に座る穂香が俺をのぞき込んできた。ああ、幸せ。うん、そうだよ。今が幸せならそれでいいじゃないか!
「穂香~!」
「ふえ? 急に抱き着かないでよ、びっくりするじゃない……」
と言いつつ受け入れてくれる穂香。
(なあ、俺達は何を見せられてるんだ?)
(そっとしておきましょ。仲がいい事は良い事じゃない)
(そうだけど……。ま、まあ。二人が幸せならそれでいいか……)
◆
ブランチ(朝食兼昼食)を食べ終えた俺は、部屋でのんびり寝転んでいた。そんな俺の隣にちょこんと座る穂香に、俺は問いかける。
「今日の予定ってある? 先に言っておくと、俺は特に何も考えてない」
「私も特に考えてない……。なにか考えておくべきだったかな?」
「ん~いや。特に思いつかないなあ。フォルテメイアに行く前は、こういう時、何してたっけ?」
「ん~? そう言われると、特に何かしてたわけじゃないよね~。よし、取り敢えず私もゴロゴロしよっと! 頭なでて~」
「……懐かしいなあ」
「……うん」
「「……」」
こうして一日目は、特に何もせずに終わ……らなかった。
「あ、そういえばお兄ちゃん」
「ん?」
「ケーキ作ってくれるって約束したよね? この連休中、何か作ってくれる?」
「……そういえばそんな約束をしたな。うし、思い立ったが吉日。早速何か作るか!」
「え? いいの?! でも、お兄ちゃん疲れてるでしょ?」
「いや、帰ってきてから5時間くらい、こうして寝転んでた訳だし、そろそろ体を動かそうかなって」
「そう? じゃあ、一緒に作ろ?」
「だな! 材料はあるかな?」
その後、材料を確認したり、足りない分を買いに行ったりした。準備も整ったところで、調理開始だ。
・バター
・ビスケット
・クリームチーズとヨーグルト
・砂糖
・イチゴジャム
・レモン汁
・ゼラチン
・イチゴ
「クリームチーズとヨーグルト、砂糖を混ぜておいてくれるか? 俺はビスケットを砕くよ」
「合点承知だよ!」
…
……
………
「出来た!」
「ありがと。じゃあ、ここにレモン汁とイチゴジャム、ゼラチンを入れっと。あ、このバター、溶かしてきて」
「はーい。これをビスケットと一緒にこねたらいいんだよね?」
「Yes」
「OK~」
…
……
………
「出来たよ~! ビスケットが良い感じにしなしなになった!」
「じゃあ、これの底に詰めてくれるか?」
丸いケーキ型の底に、ビスケットを砕いたものを敷き詰める。後は、このイチゴ味のレアチーズケーキの元を流し込めば……。
「おお~! レアチーズケーキの完成だね!」
「だな。だけど、もうひと手間かけるぞ」
「え? そうなの?」
「取りあえず、これをそっと冷蔵庫に入れてきてくれる?」
「はーい」
それじゃあ、いったんキッチンを片付けてっと。暫く待機!
◆
ふと視界に入ったボードゲームで遊びつつ、2時間ほど経った。
「そろそろ固まったかな?」
「まだ奥の方までしっかり冷えてないんじゃない?」
「それで大丈夫。ここからもうひと手間加えるぞ~!」
「?」
大量に買ってきたイチゴを、それぞれヘタを取ってから半分に切る。というのを俺がしつつ、穂香には余っているゼラチンを溶かしてもらう。
「切ったイチゴをケーキの上に並べて……」
「並べて?」
「上からゼラチンをかけると……」
「おお……?! すっごく美味しそうだね!」
一番下がクッキー、二段目がレアチーズケーキ、三段目がイチゴの入ったゼリーという、三段構造のケーキが完成だ!
「今日の晩御飯の後、食べようね!」
「あー、一日ほど固めないといけないな」
「そ、そんなあ……」
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