ゴールデンウィーク前日
ゴールデンウィークが近づき、教室でもゴールデンウィークの過ごし方についての話題が出始めた。おおよそ8割くらいが実家に帰るらしく、やはり一年生は帰る組が多いと再確認させられた。
「梅宮んとこはお兄さんもここに通ってるんだよな? 二人で帰るのか?」
「うんん、私だけ帰る予定。兄貴は『このままじゃ攻略階層がヤバい……』って言ってたから、ゴールデンウィーク中も忙しいらしいの」
「うわあ、やっぱ上級生は大変だなあ」
「ね~。私はああならないように、しっかりコツコツ攻略しないとなあって思ってるわ」
あー、そういえばいつぞやに先輩達が言ってたっけ「攻略階層は就職先に影響するから、前もってしっかり攻略しないといけない」って。特に1年生の2学期以降は時間割から「迷宮実習」の割合が減らされるから、自主的に迷宮攻略をしないと行けないらしく、それをサボってしまう人が一定数いるのだとか。
俺からして見れば、「迷宮攻略ってゲームじゃん?! 楽しいじゃん?!」って思うけど、この世界で生まれた人にとってはそうではないみたいだ。
「てかさ~、新幹線の予約が埋まっててヤバいんだけど。どうしよ~! みんなはどうするの?」
「俺は取れたぜ。偶然、一席だけ空いてたんだ」
「そりゃあ、ゴールデンウィークだからめちゃくちゃ電車が混むよな。俺は夜行バスに乗って帰るつもり。ほら、フォルテメイア前から出てる奴があるだろ?」
「ああ~! なるほど、夜行バスかあ。女の子が一人で乗るのは躊躇われるなあ……」
「そう? 学生しか乗ってないし、安全だとは思うけど……」
「かなあ。そう言う、七瀬ちゃんはどうなの?」
「私? 私は夜行バス! 赤木君と向かう方面が一緒だったから、一緒に予約したんだ!」
「あ、良いわねそういうの! 方角は?」
「「東」」
「あちゃー、私実家が香川なんだよね……。うーん、どうしよ」
「私、部活の先輩と西行き乗るんだけど、一緒にどう?」
「え、いいの? それは助かる!」
◆
なんて話してた時からもう一週間が経ち、ゴールデンウィーク前日になった。フォルテメイア前にバスがずらりと並んでいる様は、まるで修学旅行の時のようだ。
「なんかフォルテメイアに来た時を思い出すなあ。まあ、あの時と違って手ぶらだけど」
特に持って帰らないといけない物はないから、財布とスマホ、あと勉強道具だけ肩下げバッグに入れて準備完了である。
「あ、赤木君~!」
「あ、七瀬さ……ん? え、スーツケース?」
「あ、あはは。うん、ちょっと持って帰る物があって。服とか」
「へえ……女の子は大変だなあ」
「そうなのです」
なるほどと納得しかかったが、周りを見てみると他の女子はスーツケースなんて持っていない。あーあれか。お気に入りの枕的な奴でも入っているのだろうか。ま、気にしないでおこう。
「窓際の方が良いって言ってたっけ?」
「うん、いいかな?」
「もちろん、俺はどっちでも」
「え、赤木君、今から勉強するの?!」
「え? だって、ゴールデンウィーク明けにこれ提出じゃなかった?」
「そ、そうだけど、今は忘れたいじゃーん!」
「まあ、気持ちは分かる。俺も(前世では)夏休みの宿題とか後回しにする派だったしなあ」
「そうなの?」
「でも、(転生後は)改心して早い目に終わらせるようにしたんだ」
「赤木君って、子供っぽい所もあるけど、真面目だよね~。なんていうか、少年の心を忘れていない大人、って感じ!」
う! 図星だなあ。
精神年齢、人生経験はもう大人だけど、迷宮攻略の時は(こ、これがゲームがリアルとなった世界……!)って思ってワクワクしちゃうんだよね。
やっぱり、一か月も一緒に行動してると色々見られてるんだなあ。
「そう? うーん、喜ぶべきなのか悲しむべきか分からない評価だなあ」
「あ、嫌な気になっちゃった? ごめん、私的には褒めたつもりだったんだけど。ほら、親しみやすいけど頼りになる人って言うか」
「そう? じゃあ、喜んでおこうかな」
「うんうん! あ、勉強の邪魔しちゃってごめんね?」
「いやいや、七瀬さんとしゃべるの楽しいから。あ、せっかくだし一緒に勉強する? 問題の出し合いとか」
「ふむ、なるほど。赤木君、君に良いことを一つ、教えようじゃないか」
「むむむ? なんですか、七瀬博士?」
「私は、古文単語、全く覚えてません!」
「……でも、小テストは良い点数取って無かった?」
「あれは短期記憶なのです!」
「なるほど。ま、俺も似たような物だけど。じゃあ、この時間にマスターしようぜ? 就寝時間までは1時間もあるし」
「だね~」
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