ゴールデンウィーク前日

 ゴールデンウィークが近づき、教室でもゴールデンウィークの過ごし方についての話題が出始めた。おおよそ8割くらいが実家に帰るらしく、やはり一年生は帰る組が多いと再確認させられた。


「梅宮んとこはお兄さんもここに通ってるんだよな? 二人で帰るのか?」


「うんん、私だけ帰る予定。兄貴は『このままじゃ攻略階層がヤバい……』って言ってたから、ゴールデンウィーク中も忙しいらしいの」


「うわあ、やっぱ上級生は大変だなあ」


「ね~。私はああならないように、しっかりコツコツ攻略しないとなあって思ってるわ」


 あー、そういえばいつぞやに先輩達が言ってたっけ「攻略階層は就職先に影響するから、前もってしっかり攻略しないといけない」って。特に1年生の2学期以降は時間割から「迷宮実習」の割合が減らされるから、自主的に迷宮攻略をしないと行けないらしく、それをサボってしまう人が一定数いるのだとか。

 俺からして見れば、「迷宮攻略ってゲームじゃん?! 楽しいじゃん?!」って思うけど、この世界で生まれた人にとってはそうではないみたいだ。


「てかさ~、新幹線の予約が埋まっててヤバいんだけど。どうしよ~! みんなはどうするの?」


「俺は取れたぜ。偶然、一席だけ空いてたんだ」


「そりゃあ、ゴールデンウィークだからめちゃくちゃ電車が混むよな。俺は夜行バスに乗って帰るつもり。ほら、フォルテメイア前から出てる奴があるだろ?」


「ああ~! なるほど、夜行バスかあ。女の子が一人で乗るのは躊躇われるなあ……」


「そう? 学生しか乗ってないし、安全だとは思うけど……」


「かなあ。そう言う、七瀬ちゃんはどうなの?」


「私? 私は夜行バス! 赤木君と向かう方面が一緒だったから、一緒に予約したんだ!」


「あ、良いわねそういうの! 方角は?」


「「東」」


「あちゃー、私実家が香川なんだよね……。うーん、どうしよ」

「私、部活の先輩と西行き乗るんだけど、一緒にどう?」

「え、いいの? それは助かる!」



 なんて話してた時からもう一週間が経ち、ゴールデンウィーク前日になった。フォルテメイア前にバスがずらりと並んでいる様は、まるで修学旅行の時のようだ。


「なんかフォルテメイアに来た時を思い出すなあ。まあ、あの時と違って手ぶらだけど」


 特に持って帰らないといけない物はないから、財布とスマホ、あと勉強道具だけ肩下げバッグに入れて準備完了である。


「あ、赤木君~!」


「あ、七瀬さ……ん? え、スーツケース?」


「あ、あはは。うん、ちょっと持って帰る物があって。服とか」


「へえ……女の子は大変だなあ」


「そうなのです」


 なるほどと納得しかかったが、周りを見てみると他の女子はスーツケースなんて持っていない。あーあれか。お気に入りの枕的な奴でも入っているのだろうか。ま、気にしないでおこう。


「窓際の方が良いって言ってたっけ?」


「うん、いいかな?」


「もちろん、俺はどっちでも」



「え、赤木君、今から勉強するの?!」


「え? だって、ゴールデンウィーク明けにこれ提出じゃなかった?」


「そ、そうだけど、今は忘れたいじゃーん!」


「まあ、気持ちは分かる。俺も(前世では)夏休みの宿題とか後回しにする派だったしなあ」


「そうなの?」


「でも、(転生後は)改心して早い目に終わらせるようにしたんだ」


「赤木君って、子供っぽい所もあるけど、真面目だよね~。なんていうか、少年の心を忘れていない大人、って感じ!」


 う! 図星だなあ。

 精神年齢、人生経験はもう大人だけど、迷宮攻略の時は(こ、これがゲームがリアルとなった世界……!)って思ってワクワクしちゃうんだよね。

 やっぱり、一か月も一緒に行動してると色々見られてるんだなあ。


「そう? うーん、喜ぶべきなのか悲しむべきか分からない評価だなあ」


「あ、嫌な気になっちゃった? ごめん、私的には褒めたつもりだったんだけど。ほら、親しみやすいけど頼りになる人って言うか」


「そう? じゃあ、喜んでおこうかな」


「うんうん! あ、勉強の邪魔しちゃってごめんね?」


「いやいや、七瀬さんとしゃべるの楽しいから。あ、せっかくだし一緒に勉強する? 問題の出し合いとか」


「ふむ、なるほど。赤木君、君に良いことを一つ、教えようじゃないか」


「むむむ? なんですか、七瀬博士?」


「私は、古文単語、全く覚えてません!」


「……でも、小テストは良い点数取って無かった?」


「あれは短期記憶なのです!」


「なるほど。ま、俺も似たような物だけど。じゃあ、この時間にマスターしようぜ? 就寝時間までは1時間もあるし」


「だね~」




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