マロンマロン

「お、早速魔物のお出ましだ」


「え、どこどこ?」


「ほら、向こう。マロンマロンだ」


 15層に入って一分と経たずに魔物を発見する事が出来た。マロンマロンと言う魔物である。

 日本語で使うマロンはフランス語が語源であり、英語ではない。英語でもマロンを「栗」と言う意味で用いる事もあるが、同時に「オーストラリア西海岸に生息するザリガニ」を意味する英単語でもある。オーストラリア西海岸で「焼きマロン(Grilled marron)」と言われたら、焼き栗ではなくロブスターのことかもしれない。

 という背景から生み出されたこの魔物は、超巨大なザリガニの形をしており、そして全身が茶色い棘で覆われている。近づくとその巨大なハサミで挟まれ、遠ざかると棘を高速発射してくる。


「あ、ホントだ。うわあ、仰々しい見た目ね……」

「怖いです……」

「良い出汁が出そうね」


「出汁ねえ。残念ながらあいつのドロップアイテムは栗・甲羅・眼だから、水産物は手に入らないな」


「残念。どうする? デバフ、かける?」


「そうだなあ……。防御力を下げてもらおうかな」


「分かった、『ディフェンス・ウィークン』」


 ブクブクブクブク!

 防御力を下げられ怒っているのだろうか、マロンマロンは両手(両ハサミ?)を上げ、俺達を威嚇し始めた。


「ヤベ、早速反撃されそうだ。『シールド』!」


 ツカカカカカカ!

 棘が発射されるが、全て俺のシールドで防ぐことが出来た。


 棘攻撃後、約15秒でマロンマロンの棘は再生するのだが、逆に言うと今は無防備。その隙を逃す訳にはいかない。


「早速これの出番だな。『ショット』!」


 俺は「雪印のブレスレット」を付けた状態で、無属性魔法を発射。着弾した場所が変色しているのがここからでも見える。


「七瀬さん、変色してる場所を思いっきり殴ってきてくれ!」


「え、あ、うん! 行ってくる!」


 七瀬さんは地面を力強く蹴って、マロンマロンに急接近。凍結している部分を思い切り殴った。

 メキ!っという音と共に、殻にひびが入る。それを見て、七瀬さんは追撃! 今にもマロンマロンの殻が破れそうになったものの、マロンマロンはハサミを使って七瀬さんに攻撃しようとする。

 能力研究部での対人戦を通じて身のこなしを物にしている七瀬さんにとって、ハサミ攻撃を避けるだけなら容易いが、攻撃のタイミングを失ってしまった。しばし戦況は硬直するも、マロンマロンの棘の再生が始まったので、七瀬さんは戻ってきた。


「ちょっと! さっきの攻撃何?!」

「キラキラってしてて綺麗でした!」

「赤木君、あんな魔法も使えたの?」


「ふっふっふ。実は『攻撃魔法に凍結効果を乗せる』っていうブレスレットを入手したのです!」


 ブレスレットをチラと見せる。


「え、なにそれ! 私も欲しい!」

「なるほど、そういうアクセサリーがあるんですね!」

「それって、かなり高いんじゃない? すごいね」


 神名部さんが言ったように、これと同等のアイテムを買おうと思ったら、相当値が張る。裏ボスからのスーパーレアドロップクラスの物となると、200階層以降の通常ボスで手に入るアイテムと肩を並べるレベルの性能を持つ。つまり、かなり高級品扱いだ。


「少なくとも俺の今の小遣いで買えるものではないなあ。もっと攻略階層が進んで、がんがん稼げるようになってきたら、余裕で買えるだろうけど。っと無駄口叩いてる場合じゃないな。こっちに来た! 宮杜さん、あいつの足を止めて」


「分かりました。『アイスバインド』!」


 宮杜さんは氷を足にまとわりつかせる魔法を使い、見事命中させた。動けなくなったマロンマロンは、仕返しとばかりに土魔法を使う。マロンマロンはザリガニだからな、土魔法が得意なのだ(?)


「『アイスシールド』!」


「お! ナイスだ宮杜さん!」


 突然の事だったが、宮杜さんは咄嗟に氷の壁を生成した。うんうん、分かってきてるね。状況に応じて即座に魔法を使う能力は、努力以外では身につかない。

 しかし、どうしても一人では魔法が発動しないのはなんでなんだろうな? 例えば柏木は「自分自身の魔法に恐怖していた為、魔法の威力を抑えていた」という理由があった。しかし、宮杜さんの場合そういう訳では無いらしいし……。うーむ。


「もう一息だね。『ディフェンスウィークン』」

「『カッター』!」

「『スプラッシュボム』!」


 俺の生み出した魔力の斬撃と宮杜さんが起こした水の爆発が棘を切り落とした。もう一息だ!


「最後は私が! 喰らえ~!!」


 ガキン!


 ブクブクブク……。



 倒しきったぞ! 俺達の勝利だ~!



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