絶品のうなぎ
「焼きあがったよ」
「お、了解。こっちも仕上がったぞ」
「おいしそうにできたね」
市販の蒲焼と遜色ない出来栄えである。まずはタレをかけて蒲焼にした方。べっこう色のタレをたっぷりと付けて焼き上げたそれは、香ばしいにおいを振りまき、俺達の鼻腔を「食べたい」の感情で満たす。そしてただの塩焼き。こんがりと焼けて
「じゃあ、早速食べよ?」
「おう、そうだな。コホン。頂きます」
「頂きます」
熱々のご飯と共に蒲焼を頬張る。
「「……!」」
なにこれ、めちゃくちゃ美味い。何というか、今まで食べてきたうなぎが何だったんだと思いたくなる出来栄えだ。厚さも旨味もワンランク、いやツーランクは上だと思う。今まで食べてきたうなぎと違って、このうなぎは「噛めば噛むほど肉汁があふれる」って感じなの。もはや、自分が食べている物が本当にうなぎなのか疑うレベルだ。
何がヤバいって、これがまだ20層の裏ボスって事。ここからさらに深層の裏ボスクラスになると、もっと旨いのではなかろうか? あれとかあれとか。今から楽しみだ。
「おいしかったな」
「うん、とっても美味しかった。ありがとうね」
「俺の方からもありがとう。神名部さん、料理上手いんだな」
「ん、ありがとう」
◆
月曜日。俺は教室で男子と他愛のない話をしていた。
「そういえば赤木は保健室の先生の噂を知ってるか?」
「保健室の先生? 何かあるのか?」
「実はそこにいる先生がめっちゃ可愛いらしい! なんでも、その先生に手当てしてもらったら、体中から力が漲ってくるとか言われてて」
「へえー」
保健室の可愛い先生ねえ。俺も(前世で)高校生だったとき、こういう話をしてたなあ。
「おーい! 赤木君ー!」
「ん?」
「お客さんが来てるよ~!」
「はーい! あれ、神名部さん?」
名前が呼ばれて振り向けば、廊下に立っている神名部さんが目に入った。どうかしたのだろうか?
は! まさかとは思うが、うなぎの出所を聞きに来たとか? そうだったら困るぞ、なんて言い訳したらいいだろう?
「おはよう、赤木君」
「おはよう、神名部さん。どうかしたか?」
「うん、頼みごとがあって」
「頼み事?」
「うん。今後の迷宮実習、赤木君のパーティーに入れてほしい。だめ?」
「……なるほど?」
前提として、一年生のこの時期はクラスメイトとパーティーを組むのが主流であり、別クラスの人と組むのは稀である。というのも、魔法杯で一致団結して協力し合う為に、互いの能力について知っておくべきとされているからだ。
なお、来年以降、攻略スピードに明確な差が出てくると、別クラスの人とパーティーを組むことはあるらしいし、何ならネット掲示板でメンバーを募ってお互い初めましての状態で攻略する事もあるらしい。
「俺としては問題ないぞ。けど、いいのか?」
「問題ない。私が居なくても、気が付かないだろうし」
「それは……。まあ、とにかく。神名部さんの意向は分かった。他の二人とも相談してみるよ」
宮杜さん、七瀬さんに事情を説明。二人とも快く了承してくれた。
◆
そして迷宮実習にて。
「で、今日はどういう予定なんだ?」
「俺達は11層で練習かな」
「こっちは13層まで行くぞ~」
「私達は12層かな」
「私達は14層で練習! がんがん戦うわよ!」
「なるほどなあ。俺達はどうする? 俺的には15層に行ってもいいと思ってるのだが」
「そうね、私は平気……って言っても、最悪赤木君が何とかしてくれるって思って油断してるだけだと思うけど」
「わ、私は赤木君にお任せします」
「うん、私は賛成。一人ならともかく、この四人なら大丈夫だと思う」
15層以降のモンスターも、20層の通常ボスもそこまで強くないし。うん、大丈夫だろう。
「んじゃ改めて。15層以降に現れる新しい魔物について復習しておこう。『角兎』『雷稲荷』『ビッグり』『モモンタイガー』に加えて、次の二つの魔物が登場する」
噛みつきウサギ:角兎の強化版。角兎よりもスピードは落ちる代わりに力は強く、タックルを喰らえば吹き飛ばされる。また、噛みつきを喰らえば、貫通・切断ダメージを喰らうので注意。
マロンマロン:トゲトゲでデカいザリガニ。こんな見た目だがビッグりの強化版とされている。「ビッグりは実は栗ではなく、ザリガニの卵だったのだ~」なんてゲームでもこの世界でも言われているが、真相は不明。体に生えている針を飛ばしてくるので攻撃モーションが見えたら距離を取るかシールドを張ろう。
「では早速、15層へ……レッツゴー!」
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