日曜の丑
粉雪ウナギとの戦闘を終えた俺は、けがを治してもらう為にダンジョン横にある保健室へと向かった。ここにある保健室は「保健室」と呼ばれているが、普通の学校にあるような物とは違ってヒーラーの人がダンジョン内の怪我を治す事に特化した物となっている。普通の保健室はまた別の場所にある。
「すみませんー」
「はあ~い。あら、新入生ね。どうかした?」
「ちょっとダンジョン内で怪我しちゃって」
「あら、それは大変?! すぐに治してあげるわね~。怪我したのはどこ?」
「ここです、肩の辺りを」
「分かったわ~。ヒール!!」
ぽわわわーん。
って感じの音とエフェクトが出て、痛みがすっと引いた。すげえ、これが純粋な回復魔法! 身体強化に伴う自己回復は「自分の回復能力を向上させている」のに対して、今回受けた純粋な回復魔法は「無理やり怪我を治している」感じがする。分かりやすく言うと、自己回復は「ああ、癒される~」って感じで、今回の回復は「怪我が、治っていく?!」って感じ。……余計分かりにくくなってしまったな。
「どうかしら~?」
「はい、おかげさまですっかり痛みも引きました、ありがとうございます」
「は~い。でも、今後は無理な攻略はしちゃ駄目よ?」
「心得ています。今回はちょっと油断しちゃって。改めて、集中力の大切さを痛感しました」
「文字通り『痛感』した訳ね~」
「……はい。文字通り『身に染みて』実感しました」
「あら~! 上手い事言うじゃない~」
なんかこの人としゃべっていると、ペースを乱されるな。
改めてお礼を言ってから、俺は保健室を後にした。
◆
一方その頃、保健室では。
「もー、怪我もしてないのに来る人が多くて困っちゃうわ~」
先生は大きな勘違いをしていた。
「まあ、いいんじゃないですか? それだけ先生が魅力的って事ですし。実際、私の同級生も『保健室の先生可愛いよな』『付き合いたい』って言ってましたし」
若い女性の
本来、保健室では怪我の詳細を聞く必要がある。どの階層で、どういう状況で、などなど。こうして集まった記録を基に、授業内容を更新していくのだ。
当然の事ながら先生目当てでやって来た生徒は、詳細を話すことは出来ない。そういう状況が続いた結果、今では明らかな大けが以外は詳細を聴かないようになっていた。
これは風兎にとってラッキーだった。何故なら彼も「怪我した場所の詳細を話せない」人だったから。他の人とは理由が違うけれども。
「はあ~。でもね~ああやってやって来る子だって、どうせ魔法杯の後夜祭にはクラスメイトの女の子に告白したりする訳じゃん~? で、なんやかんやあって付き合う事になった暁には、クリスマスデートなんてするでしょ~。それに引き換え、私は……。う、うぅ……」
「なんかすみません……」
◆
粉雪ウナギを倒した事で手に入れたうなぎの開き。早速今日の晩御飯で頂こうと思う。日曜日に食べるうなぎ、これぞ「どようの丑」ではなく「日曜の丑」、ってな。
※土用の丑の「どよう」は土曜日と言う意味ではない。
と意気込んだはいいものの、生のうなぎを調理するなんて機会は今までになかったから、どうやるのか詳しく知らないんだよな。ちょっと調べてみよう。
「なるほど、関東では蒸してから焼く、関西では直接焼くのか。関東風の方は柔らかい仕上がりが特徴で、関西風の調理法は香ばしさが特徴。悩むな。まあ、取りあえず先にタレから作ろうかな」
砂糖、料理酒、みりん、醤油。和食は取りあえずこの四つを入れておけばいいと母から教わった。で、これをそのまま煮たら市販のソースのように濃くて香ばしい物が出来上がる訳だが、俺的にはもう少し薄味にしたい。
そこで使うのが昆布だし。昆布だしをベースに先程の四つを加える事で、ただ薄味にするのではなく、旨味も加えることが出来るのだ。ちなみに、昆布だしと言ったが、迷宮学園にはもっと便利な物が撃っている。それが「ダシデール」というアイテム。「キングコンブ」のレアドロップである。キングコンブはその名の通り、昆布の王様(?)であり、一反木綿のような挙動をする。
「お、香ばしい香りがして来たな。食欲がそそられるいい香り……! そういえば、うなぎって結構臭うらしいけど、ダンジョン産のってどうなんだろ?」
うなぎは川魚であり、どうしても泥臭いにおいがする。それを美味しく食べるために、濃厚なたれと山椒をかけている……という話を聞いた事がある。では、ダンジョン産のうなぎは? もしかしなくても、臭みがほとんどなかったり……?
取り出してみてにおってみる。くんくん。そんなに臭くない……!
「そう考えると、既存の方法とは全然違ったうなぎの調理法があったりして。例えば、塩焼きとか。うーん……」
共同キッチンで一人、うんうん唸っていると、魔力感知に気配が引っかかった。こんな感じで、最近は魔力感知状態に入らなくてもかなり正確に気配を感じ取れるようになっているから、とても便利である。
「やあ、神名部さん」
「む、気が付かれちゃった。こんにちは、赤木君。何を悩んでるの?」
「ああ、実は訳あって鰻を手に入れたんだけど、それがほとんど臭みの無い奴でさ」
「なるほど。それで、タレをどうするかどうか悩んでいた、って感じ?」
「そうそう。それか、もういっそ塩焼きでもいいんじゃないかって思ったりしてさ」
「良いと思うよ。実際、場所によっては塩焼きを提供してるお店もあるみたいだし」
「そうなの?」
「ってテレビで言ってた。私は食べた事ないけど」
「そっか……悩むなあ」
「大きさはどのくらいなの? 大きいなら両方試してみたら?」
「大きさか。そこそこ大きいぞ」
太さはもちろん、長さも凄く立派。さっき計ったら1メートル近くあった。
「すごい……! それなら全然両方作れそう」
「だな。うし、両方やるか」
「何か手伝う?」
「え、いいのか?」
「代わりに、私にも味見させて?」
「なるほどな。もちろんいいぞ。あ、アレルギーとかは?」
「ない。好き嫌いもないよ。赤木君は?」
「俺もない。じゃあ、まずは……」
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