雪印のブレスレット

「お? おお! きたきたきたきたーー!」


 土曜、日曜と雪見だいだいを周回していた俺は、ついに目的のドロップアイテムを入手できた。「雪印のブレスレット」、攻撃に氷結効果を付与するアクセサリーだ。


「ふむふむ、リアルだとこんな見た目なのか……」


 シルバーに輝くリングはそれだけで価値がありそうだ。これって元素的には何で出来てるんだろ? 鉄って事は無さそうだし、やっぱり銀? プラチナ? それとも、ミスリルとかそう言ったファンタジー鉱物? いずれにせよ、貴重そうなのは確かだ。

 そして、そんなリングの表面には、精巧な雪の結晶の彫刻が彫られている。なんだか、クールなイケメンとかが着けたら似合いそうだ。……逆に言うと俺にはあんまり似合わなさそうだが。

 見た目の話はこれくらいにして、さっそく装備してみよう。


「おお! サイズがぴったりになった?! 流石ファンタジー!」


 苦労せずにするっと手首まで通す事が出来たのに、手首の位置に来るときゅっと細くなった。しかも、外そうとすると再び直径が大きくなる。いったいぜったい、どういう原理なんだろう?


「早速試してみたいな、よし!」



 このまま20層まで攻略しちゃいますか!



 当初はみんなと足並みをそろえて20層のボス戦に挑む予定だったのだが、ブレスレットが手に入った以上、先に裏ボスへ挑んでおこうと気持ちを切り替えた。

 さて、20層の裏ボスへ挑む条件は以下の三つなのだ。


・雪印のブレスレットを装備している

・11層~20層まで一時間以内である

・11層~20層までモンスターを一度も攻撃しない


 一つ目の条件は書いてある通りだ。ちょうど今日達成した訳だ。


 二つ目の条件はなかなかにハードな物となっている。11層~20層は山をモチーフにしたフィールドだが、その道中は本来緩い傾斜であり、初心者でも楽に攻略する事が出来る。これは「山が低い」という意味ではなく、頂上(次のエリアへの入り口)まで蛇行しながら登っていくからだ。しかし、これでは60分以内に20層へ到達できない。

 つまり、山道に沿って進むのではなく、頂上まで真っ直ぐ登る必要があるのだ。しかしながら、山道を大きく外れるとモンスターの出現頻度が一気に上昇する。授業でも「絶対に山道を外れないように」と教わった。


 その上三つ目の条件がある。モンスターに攻撃してはいけないという条件、これは参道に沿って歩いている分には楽に達成できるが、山道を外れている場合は非常に厄介。「大量のモンスターに襲われているのに、それに攻撃してはいけない」って訳だ。


 ゲームでは「とにかく頑張って避け続ける、あるいは防御力マシマシで突っ切る」しかなかったが、リアルとなった今はもう少しやりようがあると考えている。つまり……。



「と! は! とぅ! ……っと! やっぱり、木の上を進めばモンスターの心配がないな」


 俺が思いついたのは「木を伝って進む」、というリアルならではの攻略方法だ。ジャングルの中テナガザルが木の上をひょいひょいと進んでいく、のような感じだ。身体強化で、肉体の損傷を即座に回復しているので、多少の怪我も治す事が出来るので、骨折や突き指を恐れずにアクロバティックに山を登っていく。

 この能力をもって地球に戻る事が出来たら、一流のパルクール選手になれるな。そういえば、転生前に「SAS○KEがオリンピック競技になるかも?!」的な話題を小耳に挟んだが、あれってどうなったんだろ? それはともかく。


 10層(正確には11~19層までの9層)を60分で攻略する必要があるから、一層辺り6分。結構ギリギリだ。それを苦痛に感じる事無く進めるのは、身体強化の恩恵以上に、毎朝のランニングの成果であると自負している。



 さて、20層のボスについて話しておこう。まず通常ボスについてだが、20層のボスは雷稲荷の進化系「白雪稲荷」である。雷稲荷同様、体に雷をまとっており接近するのが非常に困難である。そして、魔法による遠距離攻撃も仕掛けてくる点が雷稲荷と違っている点である。

 ただ、2回目のボスらしく明確な弱点があり、水属性に弱いという性質がある。吹雪攻撃とか使ってくるくせに水属性に弱いというなんとも矛盾したボスである。その理由について、プレイヤーの間では『自分の雷に感電するから』とか『雪が解けるから』と言った説が提唱されていたが、明確な理由は明らかにされていない。

 ちなみに、火属性は雷の威力を上げてしまうので禁忌だ。



 続いて今回の本命、裏ボスについて。20層の裏ボスは「粉雪ウナギ」という巨大なウナギである。兎ではない、鰻である。

「ウナギって……、弱そう」

 と思うかもしれないが、残念ながら(?)白雪稲荷の何倍も強い。強い、というかトリッキーなんだよな。

 現実のウナギはその細長い体を砂に埋もれさせて獲物が現れるのを待つ。そして、獲物が近くに現れた瞬間、目にも留まらぬ速さで獲物を丸呑みする。恐ろしい捕食者である。しかも、鰻の体には毒があり、生で食べることは出来ない。ウナギの刺身が無いのはそのためである。獲物が来るのを虎視眈々と待つ捕食者。しかも、その粘液と血液は毒まみれ。何と恐ろしい生き物……!という訳だ。

 粉雪ウナギのサイズは10メートルほど。油断したら、俺達人間は丸呑みされてしまうだろう。粉雪の中に埋もれる奴を察知しながら戦わないといけない。初見では対応するのが難しい敵である。



「とは言ってもなあ……」


 ゲームに登場する主人公よりもハイスペックなこの体なら、余裕で突破できそうだ。なんだかチートを使っているような気がして気が引けるが、使えるものは使わないとだよな。

 俺は魔力感知と隠密・・を発動しながら20層へ足を踏み入れた。




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