隠密

「そもそも、隠密ってどんな能力なんだ? 見えなくなる……のか?」


 ゲームで隠密能力を使えば、追尾式の弾幕に追いかけられなくなるという特性があった。また、敵が隠密能力を持っている場合、接近されるまで表示されない仕様だったっけ? それで、一度でも攻撃を与えると、その後は見えるようになったような気がする。


「えっと、確か光魔法が扱う『インビジブル』と違って、気配が消える能力ですよね?」


「そういえば教科書に載ってたわね! 『一度そこにいるって気が付けば、見つける事が出来る』だっけ? だから、二人がそこにいるって分かっている私達には効かないのかも」


「じゃあ、効果を確かめるには、第三者に確認してもらう必要があるな」


「そうね、じゃあみんなの所に戻ろっか」


「それで私の存在に誰も気が付かなければ、成功。面白い、私、頑張る」


 頑張るのはバフしてる俺だと思うのだが、それは言わないでおこう。



「お、赤木! どうだ、なんか見つかったか?」


 佐藤が俺達を見つけて声をかけてきた。


「いや、気のせいだったみたい」


「そっかそっか。薔薇の群生地だったら儲け物だったのにな。ま、ドンマイだ」



(気が付いてないわ! 凄い!)

(ほんとう。まるで私が見えてないみたい。まさにクラスでの私の扱い)

((……))



「確定だな、隠密能力は確かに存在するみたいだ」


「うん。おそらく日常生活の中でも隠密が働いてるのかな? だから影が薄くて、ボッチになっちゃったみたい」


「あ、あはは……」


 どう対応すべきか分からず苦笑いしかできない俺をお許しください。



 その後、神名部さんにかかっている隠密を解いた上で、クラスメイト達に軽く紹介。そのまま俺達のパーティーと一緒に攻略する事になった。


「赤木君の無属性魔法、凄いね。とってもかっこいい」


「お、おう。ありがと。でも、神名部さんのデバフもめちゃくちゃ強力だよな、羨ましいぜ」


「そうかな? でも、地味じゃん」


「地味……か?」


「デバフってぱっと見では分からないから」


「あー、なるほど。特に敵が弱いうちはその効果を実感しにくいよな。あと、睡眠も使えるって言ってたよな? そっちは目に見えて分かりやすいんじゃないか?」


 睡眠とデバフは全く違うように見えるが、実は同種の能力である。つまり、デバフは相手を弱らせる魔法、そして睡眠は相手をヘトヘトにして眠りへいざなうって感じだ。

 ちなみにゲームでは、デバフが通常攻撃で、睡眠は必殺技のような扱いだった。


「うーん、そう言われたらそうかも? でも、あまり連発は出来ないし」


「まあ、『睡眠』を連発出来たら向かう所敵なしなんだけどな。……お、ちょうど雷稲荷が。神名部さん、さっそく睡眠にしてみてくれるか?」


「分かった。いくよ、『眠れ』」


 ZZZzzz


「すごい、動かなくなったわ……!」


「隙だらけですね! これなら私でも……!」


「でも、一度攻撃したら起きてしまうので要注意です」


 これは睡眠の異常状態。攻撃するまでの間、相手の動きを封じる事が出来る非常に強力な能力である。魔法杯で凄く有利に立ち回る事が出来るから、ゲームでは重宝されたな。なお、睡眠に対抗するにはなんらかの魔法やアクセサリーでレジストするか、敢えて毒を飲んで継続ダメージを受けておくという方法もある。


「ともかく、格好の的になって訳だし、宮杜さん。やってみようか」


「はい、『アイスアロー』!」


 コン?!


「おお~一発。凄く強力。このパーティー、とっても強いね。他パーティーから嫉妬されそう」


「ありがとうございます。ですが、赤木君のバフが無いと全く能力を使えなくって……」


 宮杜さんが魔法を使う。ちょろっとだけ水が放出された。


「なるほどなるほど」


「しかも、赤木君以外のバッファーだと効果が無くって」


「なるほど~。不思議。私の隠密能力みたいな感じかな」


「どうでしょう? 神名部さんは隠密能力を自覚出来た今も制御できないのですか?」


「うーん。試そうにも自分じゃあ効果の程が分からないですし」


「なるほど、確かにそうですね」


「じゃあじゃあ、せっかくだし今試してみようよ! 私たちが目を瞑っている間にどこかに隠れてもらって、それを見つける事が出来るか……って感じで」


 七瀬さんがそう提案した。なるほど、妥当な方法だな。


「なるほど。迷惑じゃないなら、ぜひお願いしたい」


「私は全然迷惑だなんて、赤木君と宮杜さんもいい?」


「ああ、もちろん」

「大丈夫です」



 で、試した結果。自由自在という訳ではないが、ある程度使いこなす事が出来ていた。というのも、七瀬さんも宮杜さんも近くにいる神名部さんを認識できていないのだ。とは言え、実際に消えている訳ではないから、「そこにいる」と気が付きさえすれば普通に見えてしまうのが面白い。現に俺にははっきりと見えている。

 というのも、俺の場合は魔力を感じ取ってしまうんだよな。


「赤木君には見えている?」


(うわ、びっくりした!)

(こんな近くにいたんですね!)


「ああ、俺、第六感があるから」


「なるほど。新しい発見。つまり、魔力を感知できる人には効果が無い?」


「そうみたいだな」






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