迷子
攻略は順調だった。途中で別パーティーの人がモモンタイガーに噛みつかれたり、また別のパーティーがビッグりに轢かれたりしたが、そんな彼らもヒーラーに癒してもらったので安心である。
そして、14層に入ってしばらくした時。俺の魔力探知に何かが引っかかった。
「? 誰かの気配がする」
「どうかした?」
「ああ。なんか、あっちから変な気配がして……」
「向こうから? うーん、私には分かんないけど……。宮杜さんは?」
「わ、私も分からないです。あ、でもここ! 誰かの足跡っぽく見えないですか?」
宮杜さんが地面を指さす。そこには人間の足跡っぽいものが残されていた。
「誰かが向こうに行ったって事か。茨のカーテンでも採取しに行ったのかな?」
「なるほど、その可能性はあるね! 私達も行ってみる?」
「じゃあ、行ってみるか」
他パーティーに一言断りを入れてから、俺達は茂みの方へ向かった。
気配の主がいるのは、大きな岩の陰になっており身を隠すにはちょうど良さげな場所。一体誰がそこにいるのだろうか?
「その岩の後ろから人の気配がする。念のために警戒して」
「わ、分かったわ」
「は、はい」
「よし。ゴホン。誰かそこにいるのか!」
すー、すー、すー。
「……俺の目がおかしいのか? 迷宮らしからぬ光景が見えたんだが」
目を擦ってからもう一度見る。そこには、枕を抱いて寝ている美少女の姿が……! いや、なんで?
七瀬さんと宮杜さんを手招きし、二人にも見てもらった。二人も「?」という顔をしている。
「この子……フォルテメイアの学生よね?」
「だな。というか、どこかで見た事があるような……?」
髪の毛は黒色で、日本人形のようなおかっぱヘアー。えっと……。
「あ、思い出した! 確か同じ寮の子で、名前は確か……神名部さん?」
俺のつぶやきが聞こえたのか、神名部さんは薄く目を開け、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。そして俺達と目が合う。
「男の子に寝顔を見られてしまった」
「「「いや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!」」」
「?」
「いや、何で首を傾げるの?! ここ、迷宮の中だよね? なんで枕を抱いて眠ってるの?!」
「歩くのに疲れちゃって……」
「ええ……」
◆
で。詳しく話を聞いたところ、クラスメイト達と迷宮に入ったものの、みんなの歩くスピードに追い付けず、みんなとはぐれてしまったらしい。
それを聞いて宮杜さんがちょっと青ざめながら尋ねる。
「同じパーティーの人は気が付かなかったのですか? 私だったら一人にされたら何もできずに死んでしまいます……」
「パーティー? ああ、そちらのクラスは少人数のパーティーが集まってる形態なのね。私達のクラスはそう言う感じではなくって。基本的に全員がパーティーで、ボス戦前に適当にパーティーを決める感じ。だから、私がはぐれても誰も気が付かなかった」
「そ、そうなんですね……」
「あと、万が一はぐれても、『挑戦者の為のチョーカー』で入り口にまで帰還できるから、死にはしないよ」
「あ、確かに。え? で、ではどうしてそうしなかったのですか?」
「うーん。ぽかぽかしてて、気持ちよかったから? 寝ようかな~って思って」
「「「ええ……」」」
なんてマイペースな子!
ってちょっと待て。どうしてそんなことが可能なんだ? 普通、一か所にとどまっていたら、ビッグりに襲われるはずだ。なのに、どうしてこの子は誰にも邪魔されずに眠る事が出来たんだ?
「なあ、もしかしなくても隠密系のフォルテとか持ってたりする?」
「持ってないよ? 私が使えるのはデバフ。あ、あと、相手を睡眠の異常状態にかける事も出来る」
「いや、でもそれだとおかしいんだよなあ。何もしなかったら (ガキン!) 今みたいにビッグりが襲ってくるだろ?」
「すご。お見事」
「どうも」
「うーん。なんで私が襲われなかったか。その理由はね……」
「「「理由は……」」」
「私の睡眠の邪魔をする奴を自動的に倒す能力があるから」
「そ、そんな能力があるの?!」
「す、すごいですね! 所謂『パッシブフォルテ』ってやつですよね?!」
二人は納得したようにうなずくと同時に、驚いていた。だがちょっと待ってほしい。
「いや、それが本当だとしたら、神名部さんの周りにドロップアイテムが落ちているはずだろ?」
「じゃあ違ったみたい」
「「嘘だったの?!」」
パッシブフォルテねえ。その可能性はあるかも? ちょっと試してみるか。
「パッシブフォルテで隠密的な能力が働いてるって可能性はあるよな。もしよかったら、バフをかけてみてもいいか? そしたら、何かわかるかも」
「いいよ。秘められた力があるって、なんかかっこいいね」
「それには激しく同意する。では改めて」
魔力感知、アナライズッと。うーん、何も無いように見えるが……。
あ、ここか! 微量の魔力が動いている! アナライズで詳しく見ると、それが隠れる的な意味合いを持っていることが分かった。
その意味合いが崩れないように、俺は魔力の流れを増強、調整する。もっと、強く、もっと強く。
「どうだ? 何か変わったか?」
「特になんにも変わってないよ? 宮杜さんは?」
「私も変わってないように見えますが……」
なん、だと。俺のアナライズでは、確かに隠密能力が働いているはずなのに。どういう事だろう?
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