日常の一コマ、赤木アドバイザー

 今日も迷宮実習があるのだが、俺達のようなボス戦をクリアしてしまったパーティーは、先輩の指導を外れて学生同士での練習となる。


 俺は柏木達のパーティーに誘われて、9層で練習している。ちなみに、宮杜さんは七瀬さんと共にクラスの女子と行動するらしい。



「えっと、柏木のパーティーメンバーは佐藤と山崎か。柏木の能力フォルテが火属性魔法、佐藤は土魔法で山崎が魔剣術だっけ?」


「「「そうそう」」」


 火属性魔法は火を生み出す能力だ。ファイヤボール的な攻撃を放つ事が出来る。長所は火傷や燃焼の異常状態を付与できる事だな。どちらも継続ダメージを与える事が出来る。短所としては「実体を伴わない」事が挙げられるかな。火に実体はないので、盾を作ることは出来ないし、また物理ダメージを与える事も不可能だ。


 土魔法は暁先輩が使っているような能力だ。土の弾丸を発射したり、土でシールドを張ったり、後は落とし穴を作ったりもできる。長所としては応用性がある事が挙げられ、短所としては広範囲の攻撃に向かないという事が挙げられる。


 魔剣術は属性が付与された剣を生成する能力フォルテだ。近接攻撃に特化した能力であり、敵に接近しないといけないというデメリットはあるが、大ダメージを与える事が出来るというメリットがある。


「全員アタッカー? それとも佐藤はタンクよりなのか?」


「そうだな。俺は基本シールド役を担ってる」


「ベントー第二形態の全体攻撃も、こいつの作った壁で全部防げるんだよ。マジ助かってる」


「なるほど、近接アタッカー、遠距離アタッカー、盾か。良いメンバーだな!」



「で、まずは柏木の相談だったよな。もっと強くなりたいって」


「そうそう。少しずつ上達してる気はするんだけどさ。でも、他の人が使ってる火属性魔法をみて自信無くしてさ。バフありきで練習してみたいなって」


 この世界では、「バフをかけて貰いながら練習する事で、上達しやすくなる」という説が唱えられている。そんな設定、ゲームでは無かったはずなので、リアルならではの設定、もしくは迷信と思う。

 つまり、バフをかけて貰うと、その人本来の能力以上のパワーが出るだろ? それを見て「俺ってスゲー!」と思い込んで、その思い込みが能力を成長させる、的な。プラセボ効果って言うんだっけ?


「了解。じゃあ、取り敢えずバフをかけるぞ……」


「頼んだ。それ! おお、やっぱりスッゲー強化されるな」


 バスケットボール大の炎の塊が発射され、前方に着弾した。


「まだまだやるか?」


「ああ、それ!」


 そうして、暫く練習が続いた。


「よし、そろそろバフなしでやってみたい」


「おう、ガンバ! ちょうど、ディスクホッパーがいるし、あいつを的にしようぜ」


「オッケー! 喰らえ!!」


 こぶし大の火の弾が発射された。バフがある時に比べると見るからに小さい。


「うーむ。普段とあんまり変わってない。はあ」


「そっか。なんかすまんな。てか、そんなすぐに効果って出る物なのか?」


「いいや?」

「そんなすぐ成長出来るなら」

「この学校、必要ないじゃん」


「だったら、そう気を落とさなくても……」


「それはそうだけど。でも、一気に成長出来たらラッキーだろ?」


「まあそうだけど。うーん。あ、そうだ。もう一回バフなしで使ってみてくれるか?」


「? 別にいいけど」


 魔力感知状態になった俺は、数日前に見たあの魔法を再現する。他人の使う能力を分析するあの能力フォルテ。そう、西明先生が使った「アナライズ」だ。あれを使えば、能力の成長を促す事が出来るかもしれない。


(さてと。「アナライズ」……!)



<火属性魔法>

・火種の生成:10%

・温度の上昇:5%

・火の発射:85%


 おお! なんか魔法に関する情報が浮かんできた! なるほど、西明先生はこんな風な結果を見ていたのか。



 ―――――!



 突然、ハンマーで殴られたような頭痛が俺を襲った。 なんだ、くも膜下出血か?!

 あまりの痛みに目を瞑り、魔力感知状態も切る。うううう。


 突然、ふっと痛みが消えた。目を開ける。魔力が見えているので、感知状態が起動しているようだ。だが、さっきまでとは大きく異なる点がある。柏木の操る魔力の「どこが何を担っているか」を把握できるのだ。

 なるほど、中心部に見える魔力の渦が「火の生成」を担っていて、その周囲を回る魔力が「温度の上昇」を行っているのか。


 これは……。まさか能力が進化した?

 いや、むしろ「能力がリンクした」と捉える方が自然かも。つまり、アナライズと魔力感知が一緒になったのが今の俺の能力。そう考えると理解できる。



「なるほどな。なんとなくわかったぞ。どうやったら強くなれるのか」


「マジ?! そんなの分かるのか?」


「なんとなくだけどな。お前、自分の火を恐れてる・・・・だろ?」


「? どういう意味だ?」


「なんとなくだが、柏木が魔法を使う時、『温度を上げる』よりも『火を発射する』のに必死な感じがしたんだ」


「そうなのか? そんな指摘、された事ないが……」


「そりゃあ、俺はお前に何度もバフをかけたからな。なーんとなく、相手の事が分かるのさ」


 と適当なことを言ってみる。


「なるほど。うーむ。よし、やってみよう。バフ無しで使うから、見ててくれ」


「ああ、分かった。(アナライズ)」


<火属性魔法>

・火種の生成:10%

・温度の上昇:25%

・火の発射:65%


 今度は頭痛に襲われなかったが、魔力を正確に把握する事が出来ている。アナライズと魔力感知の間に、明確なパスが出来たみたいだ。


 さて、柏木の魔法だが、「温度の上昇」に関しては実に5%→25%と実に5倍の魔力が供給されている。その分、火の発射は85%→65%と下がっているが、果たして。



「「「おお!」」」


 柏木の発射した弾幕は、大きさは先ほどと変わらなかったが、代わりになんか青っぽい色になっていた。着弾地点では、小規模の爆発が発生した。


「ありがとう、赤木のアドバイスのおかげだ!」

「次、俺のも見てくれるか?」

「俺も頼む。さらなる力を得たいんだ!」



 この時の噂がクラス内に広がって、俺は赤木アドバイザーと呼ばれるようになったとさ。



「宮杜さんのも改めて観察してみるよ」


「はい、お願いします」



<水属性魔法>

・水を生成:25%

・水を消去:25%

・水を発射:25%

・水をその場に留める:25%



「……ごめん、よく分からなかった。前に西明先生が言ってたように、相反する能力が干渉してるみたいなんだけど……」


「そ、そうですか。すみません……」


「いや、俺こそごめん」


 なんか気まずくなった。



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