いや、そんな事聞かれても……

 今日の放課後は能力研究部。いつも通り訓練場に入ると、山本先輩が誰かをボコっていた。


「喰らえ、『光の矢』! 『レーザー』!」


 光の矢は、その名の通り光属性の弓矢を飛ばす魔法だ。ゴースト系の敵にクリティカルを出す事が出来る。

 次にレーザーについて。レーザーと聞くと、SFに登場するような「一瞬でターゲットを粉砕する」ようなものを思い浮かべるかもしれないが、この世界のレーザーは違う。じわじわと熱を与える感じなので、たとえ直撃したとしても、退避すればほぼノーダメージで済む。


「『強化』! 『弓生成』! クッソ、『盾生成』!」


 山本先輩と対戦しているのは、マッチョな一年生だった。素でも強そうなその筋肉をさらに強化して、山本先輩に一矢報いようとしているが、なかなかそうはいかない。

 ……って一年生?! あいつ、一年生じゃないか。なかなか強いなあ。



「紹介しよう、俺の弟の山本リゲルだ」


「山本リゲルと言う。よろしくな」


「おう、よろしく。俺は赤木風兎だ。さっきの戦い、凄かったな」


「いや、兄には一切ダメージを与えられなかったからな。まだまだだよ。改めて、俺のフォルテは『狩人スキル』だ。身体強化に加えて、武器生成、罠生成なんかを行う事が出来る。迷宮攻略で物理アタッカーが必要になったら言ってくれ」


 狩人はゲームでも登場した人気カテゴリーだ。物理アタッカーとしても優秀だが、真価を発揮するのは魔法杯だな。罠設置がすっごく優秀なんだよな。敵にいると面倒だけど。

 あ、魔法杯というのはフォルテの学生同士が戦うイベントで、ゲームではタワーディフェンス的な要素として楽しむことが出来たんだ。



 俺も自分のフォルテについて紹介し、その後で軽く対人戦をやってみる事に。彼は中々の強敵だったが、まだ無属性魔法を見切る事は出来ないようだ。


「やっぱり、見えないってのは強いな。羨ましいよ」


「と言いつつ、そっちだってあちこちに罠を張ってるじゃないか。向こうでは暁先輩が見事に引っかかってるし」


 ジュース片手にやってきた暁先輩。「お、新人君と赤木君が戦ってる?! 近くで見させてもらお! きゃー!」ってなってた。


「あれはなんとも申し訳ない気持ちになったな。というか、なんでお前は全部避けれるんだよ!」


「なんとなく? あれ、ここ怪しい……的な」


 魔力感知状態だと、罠の場所が丸わかりなんだよね……。本当に申し訳ない。


「第六感がもう身についてるのか。羨ましい限りだな。俺も早く身に付けたいな……」


 第六感。地球ではオカルトの一環とされていたが、この世界では普通に使われている言葉だ。俺の使う魔力感知の下位互換のようなもので、なんとなくでしか分からない……らしい。第六感かあ。どんな感覚なんだろう?


「リゲルなら、すぐに身に付けれそうだな。そうなる前に、勝ち星を貰っておかないとだな」


「追いついたら、すぐにでも取り返してやるよ!」


「「さあ、もう一戦行くか!!」」



(男の友情ね。いいわね、ああいうの)


(およよ。もしかしなくても、暁ちゃんもこっち側腐女子?)


(いや、違うわよ?! 純粋に少年漫画みたいだなって思ってるだけだからね!)



 部活後、俺達はショッピングセンターのフードコートへ向かったのだが、暁先輩がやけに静かだ。なんというか……悩んでいるように見える。


(私って腐女子……? いや、違うはず! 「優しい男の子がさえない自分に気をかけてくれて……」みたいなストーリーが好きだし! いや、でも……。うーん、私って腐ってるのかなあ)



「あの、桜葉先輩。 暁先輩に何かあったんですか? さっきからやけに静かですけど」


「私も気になっているのだが。聞いても『大丈夫なんでもないから』って言うだけで、教えてくれないんだ」


「そうですか……。触れない方が良い話題なんですかね?」


「だが、ああも静かだと気になるよな。聞いてみてくれるか?」


「え? 同性が聞いても答えなかったんでしょう? だったら、僕が聞いても、絶対答えてくれないでしょ……」


「いや、もしかしたら、年下には話しやすいって事もあるかもしれないだろ?」


「ですかね。まあ、聞いてみますか」



「せーんぱい。暁先輩!」


「あ、赤木君。どうしたの?」


「どうしたの、はこっちのセリフですよ。先輩、さっきから悩んでいますが、何かあったんですか? 言いにくい事かもしれないと思って触れなかったんですが、その、ずっとうんうん唸っているのを見ると放っておけなくて」


「ありがと、でも大丈夫。深刻な問題じゃないから」


「そうなんですか? ……何かあるならいつでも相談乗りますよ」


「うん。あ、じゃあ、一つだけ質問してもいいかな?」


「あ、はい。なんですか?」


「私って腐って見える?」


 どういうことだろう? もしかしなくても、「お前って性格、腐ってるな」的な事を言われたのだろうか? 先輩にそんなことを言う奴が……?


「そんな訳ないですよ。先輩は面倒見が良くて優しくって。でも、ちょっぴり抜けている所もある、とても親しみやすい性格だと思いますよ」


「あ、ありがと。でも、性格の話じゃなくて……」


「?」


「その、なんていえばいいか……。うーん、性格じゃなくて。せい……、性癖の話!」


「あ、なーんだ。先輩の性格を悪く言う奴がいるのかと思って焦ってしまいましたよ。なんだ、性癖の話ですか。……性癖?!」


 性癖って性格の「性」に「くせ」って書くあの性癖の事だよな? なんつーこと聞いてるんですか?!


「いや、そんな事聞かれても……。俺、先輩の性癖なんて知らないですし……」


 俺氏、ドン引き。いや、待てよ。最近のティーンエイジャーは、男女間でもこういう話をするのだろうか? 若者のノリってやつ? ええーと……。


「ちが、そう言う意味じゃ……」


「「……」」


 冷ややかな目線を贈る、俺と桜葉先輩。あと、周囲にいた先輩もギョッとした目で俺達を見ている。


「そう言う意味じゃなーい!」



 後の説明で、ちゃんと誤解は解けました。

 よかった。暁先輩の名誉は保たれた。……保たれた、のか?




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