唐揚げパーティー

「そういえば、赤木君! 私がベタベタ攻撃を喰らう前に私の方をちらっと見たよね?!」


「ですね」


「なんで注意してくれなかったの~!」


「だって、あれに当たっても怪我しないでしょ?」


「そういう問題じゃなーい!」


「まあまあ。ほら、揚げたての唐揚げですよ。七瀬さんと宮杜さんも食べてね」


「むー! 食べ物で話を逸らそうと思ってるでしょ? そんなに私、チョロくないわよ!」

「ありがとね、赤木君。赤木君の作る唐揚げ……期待!」

「わざわざありがとうございます。私、ほとんどなんにもしてないのに……」


「それじゃあ、頂きますっと。うん、美味い。ドロップした鶏肉を市販の鶏肉のように扱っていいのか不安だったけど……。全く問題ないな」


「はふはふ。美味しい! 美味しいよ、赤木君!! やっぱり、私のお嫁さんになって!」


 暁先輩、とっても喜んでくれた。やっぱりチョロかったようだ。


「すごーい!『外はカリッとしてて、中はジューシー』ってまさにこの事ね! ねえねえ、どうやってるの? 私が作るとどうしてもベタッとするんだけど……」

「あ、それ私も気になります!」


「べチャとするのは水分が原因だな。肉の水分が衣に染み込むからベタベタになるんだ。対策としては、事前にお肉の水分を拭き取っておくこと、高温の油で揚げる事、二度揚げなんかが挙げられる」


「なるほど~! うーん、水分を拭き取る、二度上げっていうのは分かったけど、高温の油っていうのはどうするの?」


「一気にまとめて揚げると温度が下がるから、二~三個ずつ丁寧に揚げる方がいいとされてるけど、俺はそれは面倒だからしてないな。一応、母親には『先にレンチンすると良い』って教わったけど、それにどのくらいの効果を期待できるかは不明だ。どっかのタイミングで研究してみてもいいかもな」


「「「へえ~!」」」



「お、赤木! 美味そうだな、一つくれよ」


「あ、東雲。それに佐藤と柏木も。別にいいぞ、まだまだ余ってるしな」


 においを嗅ぎつけたクラスメイトが集まってきた。この寮は3組が結構集まっているので、こうして寮内でクラスメイトが集まるのは自然な流れである。

 で、こうなる事は想定済みだったので、それはもう大量にボクサーチキンを狩った。魔力感知状態を駆使して肉眼では見えないような獲物を発見したりして……。何が素晴らしいって、迷宮では魔物は基本的に一定時間でリポップするんだよな。だから、乱獲しても尽きる事が無い。


 なお、「じゃあ、牧畜業はいらないか?」と問われると、答えはノーだ。こうして学校のすぐ傍に魔物の巣があるから忘れがちだが、魔物の巣はそうあちこちにある物でもないからだ。例えるなら、「日本には火山が多い、しかし日本中の電気を地熱発電だけで賄えるほど多くはない」と言った感じだ。



「そういえば、柏木は攻略、順調か?」


「一応な。ボスも倒せたし」


「お、いいじゃん!」


「けどな、俺の能力って火魔法だろ? ベントーの弱点だから倒せただけな気がするんだ」


「なるほど、つまりこの先も進めるか不安なのか」


「そういう事。先輩からもお墨付きを貰ったから、一応先には進めるんだけど、暫くは9層あたりをぶらつこうと思ってる。もし困ってたら手伝うぜ?」


「あー実は俺達も今日の終わりにボスに挑んで、無事OKだったんだ。俺に関しては、ソロでもいいって言われてる」


「そういや無属性も使えるんだっけ? 無属性って色々応用できるもんな」


 なお、火属性魔法しか使えない彼は、(遠距離)アタッカーの道しかない。火属性ではタンクを出来ないからな。

 一方俺は、遠距離・近距離アタッカーも出来るし、タンクも出来る。つまり、無属性魔法は応用が利きやすいんだ。



「お、美味そうじゃん! 俺も食べていいか?」


「伊藤か。別にいいけど、一人で他の人の分まで食べるなよ?」


「分かってる分かってる。さっき焼きそば二人前とパフェ、ケーキを食べてきたから、一人分くらいしか食べられないよ」


「「「いや、お前の腹はどうなってんだよ?!」」」


「ま、俺は追加の唐揚げ揚げてくるわ」


「「サンキュー!」」


「何か手伝う?」

「私も手伝いましょうか?」


「あーうん。じゃあ、手伝ってもらえるかな?」


「いいよ、いいよ!」

「もちろんです」


「ありがと、七瀬さん、宮杜さん」



 次の日の放課後。今日は能力研究部はお休みだし、また宮杜さんは西明先生の所で色々な検査を受けるので、俺は一人となった。


「という訳で、迷宮に行こう!」


 放課後まで迷宮攻略を行うのは、高成績を狙う猛者かこのままだと不味い人の二択。とはいえ、まだ一年生の一学期、同級生で迷宮を攻略しに来ている人はいない。

 つまり、1~10階層にはほとんど人がいない。これはチャンスだ。




 さて、昨日はベントーというボスと戦ったが、あれは通常ボスだ。しかし、この迷宮には裏ボスたるものが存在する。一定条件を満たした時だけ登場する強化版のボスだ。


 本来、裏ボスはストーリーの中盤に解禁されるのだが、今はそんなの関係ない。とっととクリアして、あのドロップアイテムを手に入れたい。一発で落ちるかなあ。一発で落ちてほしいなあ。


 俺は身体強化をフルにかけ、全速力で一層から九層へ駆けるのだった。



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