初のボス戦、「ベントー」
「10層のボスは何か知ってるかな?」
暁先輩が俺達に聞く。当然俺は知ってるので頷く。二人もちゃんと勉強していたようで、頷いている。
「じゃあ、七瀬ちゃん。答えをどうぞ!」
「はい、10層のボスは……」
10層のボスは「ベントー」。巨大な弁当箱の姿をした魔物である。ここは草原エリアだからな。弁当箱の敵というのは納得だ。
奴の体の上段には各種おかずが入っており、そのおかずをぶっ飛ばす攻撃を放つ性質がある。(でかい)卵焼き、(カチコチの)ハンバーグ、その他諸々。
一定ダメージを与えると、上段が吹き飛んで、下段があらわになる。そこに入っているのは……そうお米である。
お米攻撃には二種類ある。
一つ目はお米を地面に向かって投げて、「ベタベタ領域」を展開する攻撃だ。そこを踏むと、足が遅くなる。おそらく、ちょっと乾いてて、粘着度の高いお米を飛ばしているのだろう。
二つ目が、弾丸のようにお米を飛ばしてくる攻撃、通称「お米バズーカ」だ。当たると物理ダメージを喰らう。おそらく、乾ききったお米を飛ばしているのだろう。
ゲームだと「ふーん、なるほどそう言う攻撃ね」で済むけど、リアルではどう見えるんだろう? ちょっと楽しみだ。
ドロップアイテムは以下の三つ。
・ベントー
N:魔石(小さめ)
R:魔石(大きめ)
SR:弁当箱(内部の時間が止まっている弁当箱。迷宮内でホカホカの弁当が食べたいときに使える。使用回数制限があるので注意)
「三人ともしっかり勉強してるみたいだし、大丈夫そうね! じゃあ、早速行こう!!」
「「「おー!」」」
◆
「「「でっか……」」」
いやあ、分かってはいたけど、やっぱりデカいな。画面で見るのとリアルで対面するのはやっぱり違うなあ。
さて、こいつの攻撃は自機狙いと全体攻撃の二種類がある。
自機狙い攻撃は一番ヘイトの高い敵を優先して狙う攻撃。七瀬さんにひきつけてもらい、宮杜さんに攻撃が行かないようにする予定だ。一方、全体攻撃は無作為に攻撃が飛んでくるので、その時は宮杜さんが氷のシールドを張る事になっている。
え? 俺? 俺は第二形態までは戦わない事になっている。第一形態はバフに徹し、宮杜さんに活躍してもらう。
「それじゃあ、七瀬さん! よろしく!」
「うん、頑張るわ!」
今回は俺が見本を見せていない。いつも誰かが見本を見せてくれるわけじゃないんだからと先輩から注意されたのだ。たしかにそうだよな。初見の敵にどう対処するかを学ぶのも重要だ。
とは言え、ベントーは初めてのボスなだけあって、それほどトリッキーな攻撃はしてこない。今の七瀬さんなら十分対処できるだろう。
七瀬さんが近づくと、ベントーは上段の蓋を少し持ち上げた。攻撃の合図である。後ろにいる俺達に当たらないように気を付けながら、弾幕の向きをコントロールする。良い感じに避けタンクが出来てるんじゃないか?
「きゃ!」
おっと、飛び出てきたイチゴが体に当たって、七瀬さんが顔をしかめる。
だが、すぐに自己回復し、体勢を立て直した。回復魔法もかなりうまくなったな。やっぱり能力研究部で練習した成果だろうか?
「じゃあ、宮杜さん。七瀬さんに当てないよう気を付けつつ、攻撃しようか」
「はい! 『アイスアロー』!」
アイスアローは氷の弓矢を撃ちだす魔法である。無言でも魔法は使えるのだが、誰かと協力している時は、「今からこの魔法を使うよ」と注意喚起する為に魔法名を言う事になっているのだ。
もちろん、ソロ攻略をしている時は無言だし、対人戦では敢えて別の魔術の名前を言う事もある。
宮杜さんが放った氷の矢がベントーにヒットし、ベントーの側面に傷がついた。それを何度も繰り返すうちに、徐々に徐々に傷が増えて行った。
ガタガタガタガタガタ
すると突然、蓋がガタガタと音を鳴らし始めた。全体攻撃の合図だ!
「宮杜さん、シールド!」
「!! はい! 『アイスシールド』」
さっきまでとは全く異なる形に魔力が蠢いた。氷のシールドを生成する魔法である。氷で出来た壁が俺と宮杜さんの前に出現した。そしてそれと同時に……。
ズガガガガガガ!
弁当に入ってそうなつまようじが四方八方に撃ちだされた。
「七瀬さん、大丈夫だったか?!」
「大丈夫! 避けれたわ!」
ここで七瀬さんが戦闘不能になれば、俺がタンクをすることになっていたが、どうやら避け切ったようだ。良かった。
「よし、ここから10秒は動きが止まる! 宮杜さん、さっきまでに付けて傷に向かって集中攻撃だ!」
「『アイスショット』! 『アイスショット』!」
「ああ、硬直が解けちゃいました!」
「でもあと、一周で削り切れそうね」
「ああ。七瀬さん、よろしく!」
「任せて!」
そして、暫くして、再びつまようじ攻撃が。それも無事突破し、その後の硬直時間で傷を狙い撃ちし……。
バ
キ
ン
!
上段が割れた! 第二形態だ!
◆
「俺が前行くぞ!」
「頑張って!」
「頑張って下さい!」
第二形態の物理攻撃「お米バズーカ」は一番近い人を狙う攻撃であり、後衛が狙われる心配は無い。また、「ベタベタ領域」は全体攻撃だが、これは地形変化がメインであり、最悪当たってしまっても問題ない。
だから、後ろで待機中の宮杜さんが怪我を負う心配は無い。
「そんじゃ、小手調べに『カッター』!」
切断攻撃を放つ。いいね、しっかりとダメージが入ってる。おっと、ベントーがお怒りのようだ。これはお米バズーカが来るな。
「『シールド』っと」
万が一にも後衛に攻撃が行かないように、俺はそれを受け止める。カンカンカンカンカンカン!と硬い物同士がぶつかる音が響く。
「『ソード』、ふっ!」
無属性の剣を手元に生成して攻撃する。カッターは遠距離、ソードは近距離の魔法である。先ほど、カッターの魔法で傷つけた部分を切り裂き、さらに深い傷を負わせることに成功した。
ベタベタ領域の攻撃が来るが、これに関してはそこを踏まないようにすればいいだけなので全く問題ない。あ、俺を応援している暁先輩の頭上からベタベタおにぎりが! さっきも言ったが、これは当たっても平気なので、何も問題ない。
「きゃあ! ベタベタが! ベタベタがあ!」
な? 何も問題ないだろう?
というか、ベタベタ領域の上にシールドを張ればいいのでは? 早速試してみよう。わー出来ちゃったよ。ゲームでは出来なかったのに……。
◆
バ
キ
メキ
ビ
キ
!
バ キ ン!
「勝ったぞー!」
「「やったー!!」」
「イエーイ!」
三人でハイタッチ。
こうして、初めてのボス戦は事故なくクリアできたのだった。ドロップしたのは魔石(大きめ)だった。残念。
ちなみに、暁先輩に着いたベタベタは、ボス討伐時に消失するのでご安心を。
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