ボクサーチキン
「それにしても、運がいいね。鶏肉がドロップしたよ!」
「え、ほんとですか?!」
地面の上に一口サイズの鶏肉が鎮座している。シュールだ、シュール過ぎる……!
「え、これ拾って食べるんですか?」
「ちょっと抵抗がありますね」
「い、傷んでないですよね?」
「その気持ちはすっごく分かる! 私も最初は『マジ?』って思ったよ……。でも大丈夫。一年もすれば慣れるから! そもそも、この学園のフードコートで出る食品の大半がドロップアイテムらしいし」
「う、それもそうか」
「そ、そうなんですね……」
「え、本当に食べるんですか? え、ええーー?!」
先輩は地面に落ちている肉を拾って、バッグに突っ込んだ。
「あ、これがドロップアイテムを入れる為の袋ね。中の物は時間が止まるから、腐ったりする心配が無いの。ただし、非生物しか入らないわ」
「わーお、ファンタジー」
「これが噂の……」
「け、結構高いんですよね?」
「これは容量が小さいから、5万円くらいかな? でも、容量が大きい物だと10万、100万、それ以上の物もあるわよ」
「「ほえ~!」」
この辺りの設定はゲームと一緒だな、と俺は一人納得する。
「ところで、この鶏肉は売るんですか? それとも、自分たちで持って帰るんですか?」
「そうねえ。普通は換金してパーティーで分けるかな? でも、持って帰ってもいいよ! これは赤木君が倒したし!」
「なるほど、そうなんですね。それじゃあ、持って帰って唐揚げにでもしようかな。いっぱい倒して、みんなで唐揚げパーティーしません?」
「いいね、それ! よし、ジャンジャン狩るわよ!!」
「先輩が狩ったら意味ないでしょ!」
◆
「さて。それじゃあ、七瀬ちゃんと宮杜ちゃんには連携の練習をしてもらおうかな!」
暁先輩が何かを思い出したかのように声を上げた。連携か。俺も初耳だ。
ゲームは基本的にシングルプレイだからな。連携っぽいことはしたことが無い。
「ボクサーチキンはさっき見たように、まっすぐ走ってくる。その時、一番近くにいる人を襲うの。だから、七瀬ちゃんがボクサーチキンを惹きつけて、宮杜ちゃんが攻撃。どう、できる?」
「う。正直自身が無いですけど、頑張ります……!」
「頑張ります!」
「うんうん。でも、先にお手本を見せた方がいいかな! 赤木君、惹きつけ役、やってくれない?」
「もちろんです。どんな感じに動きましょう?」
…
……
………
「さあ、来い!」
俺がボクサーチキンに近付く。ボクサーチキンは俺を見つけると、ドドドドドと走ってきた。
「ほい」
突撃される前に俺はすっと横にずれる。ボクサーチキンは勢い余って俺の横を通り過ぎるも、急ブレーキをかける。反転して再び俺めがけて突進するつもりだろうけどそうはいかないぞ。
「今!」
急ブレーキをかけるボクサーチキン目がけて、暁先輩が土魔法を発射。ボクサーチキンは一枚の羽毛をその場に遺して消失してしまった。
「流石先輩、ばっちりですね!」
「ふふーん! まあね!」
ちょっと離れた所で、先輩がドヤ顔をしている。そして、二人がすごーいと手を叩く。
「七瀬ちゃんは、ちょっと怖いと思うけど、頑張ってみて! 最悪当たっても、怪我だけで済むから!」
「全然安心できないんですが?!」
◆
最初はおっかなびっくりだった七瀬さんも、何度も繰り返すうちに上達していった。一方宮杜さんはというと、驚くほど完璧にボクサーチキンに命中させており、非の打ち所がない。そこで、水を凍らせて発射する氷弾の練習に切り替えたが、それも使いこなせるようになった。後は、俺無しでも攻撃できるようになれば最高なんだけどなあ。
「二人とも完璧ね!」
「「ありがとうございます!」」
「この後どうしよう? いっそのこと、10層まで行ってボスに挑む? そしたら、チェックポイントをとれるから、次からは10層からスタート出来るようになるんだけど」
この迷宮は基本的に10層ごとにボスが居て、ボスを倒すとチェックポイントを取得できる。チェックポイントを取っておけば、そこから地上に帰る事も出来るし、逆に地上からそこに行く事も出来るのだ。
「そうですね、良いと思います。俺が完全にバフに徹しても、この二人なら倒せると思います」
「ななな、なにを言ってるの、赤木君? ボス? 無理だよ!!」
「わわわ、私達だけでボス戦? 絶対に無理です!」
「いや、私も問題ないと思うよ! もしもの時は私もいるし、挑んでみよ! でも、その前に……」
「「「その前に?」」」
「鶏肉を集めよ!」
鶏肉のドロップ率は15%だ。つまり、ボクサーチキンを100体倒しても、一人四個しか食べれない。しかもこの鶏肉、かなり小さいんだよな。満足いくまで食べたければ、残りの時間をフルに使ってボクサーチキンを倒し続ける必要がある。
「ボス戦分の魔力は温存しないとだから、二人は休憩しながらにしようか。基本的に暁先輩がサポート、俺が攻撃って感じで行きましょう」
そういえば、俺の魔力量ってどの位なんだろう? 魔力切れを起こしたことが無いんだけど……。
◆
二時間ほど経った。いやあ、流石と言うかなんというか、俺の魔力は全然減ってない。
実は俺も知らなかったのだが、この世界において、総魔力量は練習すればするほど増えるらしい。これはゲームでは無かった設定である。(ソシャゲじゃあるまいし、『魔力切れです、もう今日は遊べません』なんて事は無いのだ)
だから、暁先輩は最初、「流石に魔力量では自分が勝ってるだろう」と思っていたらしい。そしてそれが見事に外れてちょっぴりショックを受けていたりした。なんかすみません。
それはともかく。
「いやあ、結構集まるもんですね」
(主に俺が)頑張り続けた甲斐あって、沢山の鶏肉を入手する事が出来た。今日の晩御飯が楽しみだ!
「凄い量ね! 早く食べたい~! っと二人は大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫です! というか、私達ほとんど何もしてないですし」
「私も平気です!」
「あの、俺の心配は?」
「とはいえ、結構な距離を歩いてるし……。そろそろいい時間だしボス戦にしようと思うけど、無理そうなら言ってね? 二人がとも、大丈夫そう?」
「大丈夫です!」
「はい、大丈夫です!」
「あの、俺の……。いやまあ、全然平気ですけど」
「うんうん、三人ともバッチリみたいだね。じゃあ、ボス戦にしよっか! 先に先生に許可を得ないとだけど」
9層にいる先生に、自分たちの実力を見せないと、ボス戦に挑ませてくれないのだ。無茶して怪我を負ったらいけないからな。
「私たちが強いってこと、先生に見せないとだね!」
「頑張らないとですね!」
◆
「一年生にしては上出来だ。ボス戦、頑張って来いよ!」
「「「はい!」」」
そして、俺達は無事、ボスへの挑戦権を得たのだった。
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