君は己の能力で何を為す?
「それにしても、赤木君ってすごいね! 運動も出来て、プログラミングも出来て。能力も使いこなせて!」
「ほんと、凄いです……。……私がいなかったら、もっとサクサク進めてますよね。ほんと、迷惑かけちゃってすみません……」
七瀬さんが尊敬のまなざしで見つめてくる。なんだか照れくさいな。
あと、宮杜さんはそんなに謝らないでいいのに。
その後、「赤木君を見て、回避盾っていうのがちょっと分かった気がする」と言って七瀬さんがウォーターリリーに何度も挑戦した。おお! さっきよりも被弾の回数が減ってる! 七瀬さんって、ひょっとしなくてもかなり筋がいい方では?
「はあ、はあ。ちょっと休憩。どうですかね? 私、上手くなってました?」
「うん! すっごくよかったと思う! とってもカッコ良かったよ! 私の友達を超えてるかもしれない!」
「えへへ、お世辞でも嬉しいです! 赤木君、宮杜さんどうだった?」
「ああ、かなり上手だと思う。『誘い出して避ける、誘い出して避ける』っていうのを上手く出来てたと思う!」
「わ、私なんかが評価を付けるなんて烏滸がましいにもほどがあると思いますけど……その、凄かったです!」
「二人とも、ありがとね!」
◆
その後、七瀬さんが休憩中に宮杜さんが魔法の練習をして、逆に宮杜さんが休憩している間に七瀬さんが練習を、というように交代しながら迷宮を進んでいった。
四層になるとウォーターリリーが二本近くに生えていたりするのだが、そこでの練習は難しかった。俺も何度か水が掠ってしまった。うーん、精進あるのみだな。
「って言ってるけど、赤木君って無属性魔法で盾も使えるじゃん。盾を使えば、余裕よね?」
「まあそうですね。でも、それだと練習になりませんから」
より正確には「身体強化の練習になりませんから」だけど、口には出さない。
「ストイックね……。加奈と相性が合いそうね!」
「加奈って……桜葉先輩ですか?」
「そうそう。あの子もすっごくストイックだから!」
そんなこんなで、今日の迷宮実習は終わった。あと数日は先輩の付き添いの下、迷宮に慣れて、それ以降は一年生だけで行動する事になる。ある程度実力が伴えば10層のボスを討伐。討伐したパーティーから、より深層へ行く許可が下りるらしい。
パーティーかあ。今日のは臨時パーティーだけど、今後も二人と一緒になるのかなあ?
いや、流石にそれは無いか。深層の攻略では、時に迷宮内で泊まる必要があるのだが、そういう時に男女混合パーティーは不便だし。
◆
「という訳で、加奈ちゃんと赤木君って気が合うと思うの!」
放課後、俺は入部届を持って能力研究部に顔を出した。他に興味がある部活なんて無いし、なによりこの部活に入れば先輩方の能力を間近でじっくり観察できる。
これは俺にとって都合がいい。俺の能力は魔力を直接操作する事による「ありとあらゆる魔法の再現」だが、それを十分発揮する為には色々な能力を観察する必要があるからだ。
で、無事顧問の先生に入部届を渡した俺は、先輩方の下に行って……こうして暁先輩に捕まった訳だ。
「瑠璃から話は聞いている。自分の能力に奢らずに修練に励む。凄い向上心だな。年下とは思えないよ」
「ありがとうございます。いつまでこのモチベーションが続くかは分からないですけど、せっかく能力が宿ったからには高みを目指したいなって」
「そうか。素晴らしいな。ちなみにだが、一つ質問したい。君は何のために高みを目指すんだ? 君は己の能力で何を為す?」
その言葉に俺は一瞬答えが詰まってしまった。この質問は、このゲームの中で非常に重要な意味を持つ質問なのだ。
さて、どう答えようか。
…
……
………
はあ。もう深く考えなくていいや。
この世界はゲームであってゲームじゃない。どうせシナリオ通りに進むはずもないんだし、迷ったところで意味が無かろう。素直に今思い付いたセリフを言おう。
「俺の両親は俺が八歳の時に、魔物と戦って殉職しました。遺骨すら戻ってきませんでした。だから、当初の目標は両親の敵討ちをする事、それだけでした」
これは、ゲームの主人公としてのセリフだ。ただ、俺の目標とは言えない。
「ですが、ここにきて、その目標は少し変わりました。俺の今の目標は、一度も怪我を負わずに、両親の敵討ちをする事です」
ゲームの『ノーミスクリア』。それをこの世界でも成し遂げるんだ。
「この世界は想像以上に死と隣り合わせです。両親の敵討ちをしようとして、俺まで死んでしまったら、天国にいる両親を悲しませてしまう」
天国にいるかどうかは別として。
「ですから、俺は誰よりも臆病になろうと思っています。『怪我を恐れず果敢に挑む』なんて馬鹿なことはしません。慎重に慎重を重ねて、その上で誰よりも大きなことを成し遂げたいんです。だから、誰よりも強くなろうと思っています」
「赤木君、そんな事があったんだね……!」
「すまない、嫌なことを思い出させてしまったな」
「いえ、両親の事はもう踏ん切りがついてますから。改めて自分の目標を考える事が出来て、いい機会になったと思います」
◆
「こんにちは!」
「し、失礼します」
「「ん?」」
訓練場の入り口から聞いたことがある声が聞こえてきた。この声は……。
「あれ、宮杜さん?」
「それと七瀬ちゃんも!」
「あ、暁先輩に赤木君!」
「こ、こんにちは!」
クラスメイト二人が現れたのだった。
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