五人でお出かけ
「なるほど、宮杜さんは能力を使いこなせないのか。それで、どうにかしたいと思って
「そうなんです……」
「で、七瀬さんは自己回復能力を試したいんだね」
「はい。怪我を負わずに回復の練習が出来る方法が無いか先生に聞いたら、訓練場を使えばいいって聞きまして」
部長と、その他暇そうな先輩方が、新入部員候補の二人の話を聞いていた。
なるほどな。確かに、訓練場で怪我を負っても、肉体にダメージが入る事は無い。この便利空間は対人戦以外にも、そういう使い方も出来るのか。
◆
「それにしても、三人は迷宮実習で瑠璃と組むことになったのか。迷惑かけてないか? いや、迷惑かけてるよな。瑠璃の友人として、謝罪しよう。こいつはこういう奴なんだ、本当にすまない」
「ちょっと、加奈ちゃん? それはどういうことよ! 私が迷惑かけてるのが当然みたいな言い方をして!」
「え、違うのか?」
「そんな訳ない……よ?」
「なんだその間は。やっぱり何かしたのか?」
「な、なんでもないよ……。ね、ねえ、三人とも! 私、迷惑かけてないよね?」
俺達三人は顔を見合わせる。
「「「……」」」
「否定して! 嘘でもいいから否定して!」
「『嘘でもいいから』って事は、やっぱり心当たりがあるんだな? さあ、白状しなさい」
桜葉先輩が暁先輩のほっぺを引っ張る。
「いひゃいいひゃい。ほっへひっひゃらにゃいで」(痛い痛い、ほっぺ引っ張らないで)
「じゃあ、正直に話しなさい」
「はい……」
暁先輩は今日の出来事を一部始終話し始めた。
「つまり、瑠璃は泣き落としで、ケーキバイキングを奢って貰う事になったと。先輩として最低じゃないか!」
「しゅみません」
「赤木君。確かに『男性が女性に何かを奢る』というのは有り勝ちなシチュエーションだ。けれど、それは社会人になって、自分で稼ぎ始めてからの話だ。学生の間は、普通に割り勘でいい。むしろ先輩に奢って貰うくらいだぞ? というのも、私達は迷宮攻略で小遣い稼ぎできる。むしろ、後輩に奢ってやるのが普通なんだ」
「あ、その点はご心配なく。ちゃんと自分で稼いだお金です」
「……だとしてもだ。はあ~。じゃあ、せめて私も半分出そう。それでどうだ? 私も今週末は暇だからな」
◆
週末になった。フォルテメイア前から一駅向こうにある「逢魔湖西」という駅まで移動する。
ちなみに、逢魔湖とはその昔この辺りにあったとされている魔物の巣の名前らしい。と、桜葉先輩が教えてくれた。
「『あったとされる』って事は、今は残って無いんですか?」
「そうだな。不活性化したとかではなく、全く残っていない」
「魔物の巣が跡形もなく消える事なんてあり得るんですか?」
「基本的にありえないな。だから、おそらくただの伝説だろう。ただ、中には『無限迷宮に吸収された』という説もある。近くにある魔物の巣同士が融合する事は時々あるからな。ただ、特殊型の魔物の巣が融合した事例は過去にないから、この説を支持する人は少ないな」
「他にも、封印されているっていう説もあるよ! その封印を解いた者には災厄が訪れるとか幸運が訪れるとか言われてるの! こっちの説の方が面白味があって好きかな!!」
「瑠璃が言ってるのは、ただの都市伝説だから真に受けたらだめだぞ?」
七瀬さんと宮杜さんは桜葉先輩と暁先輩の説明を聞いて、興味深そうにしている。その土地固有の伝説とかって面白いよな。
「という訳で、目的地にとうちゃ~く! お目当てのスイーツ食べ放題をやってるお店はここよ!」
「ここ……ですか? え、ここってホテルですよね?」
先輩に案内されてやってきたのはとある高級ホテル。この周辺は自然豊かで、豊かな自然を生かした観光地があるらしく、このような高級ホテルがちらほら建っているらしいのだが……。え? この中にあるの、スイーツバイキングが。
「ちょっと待ってください、それってめちゃくちゃ高級な奴では? 俺、言われた通り2万円しか持ってきてませんよ?」
「大丈夫。ここのホテルを運営しているのが、フォルテメイアの関係者らしくてね。それで、フォルテメイア生には割引があるの!」
「ああー、なるほど。だから学生証が必要って言われたんですね」
「うっひょ~! どれも美味しそう……! ね、ね、ね! 早速食べよ! 早く!」
「こら、瑠璃! はしゃぐのはみっともないぞ」
「暁先輩、あなたは子供ですか!」
「で、でも気持ちは分かるわ……。どれも美味しそう!」
「お、美味しそうです……!」
まあな。これはなかなか本格的なスイーツバイキングだ。どれもこれも、俺のような素人では作れないレベルだ。制限時間は120分。どれだけ食べれるかなあ?
「こ、このタルト、美味しい……!」
「このゼリー、とっても美味しい!」
「とっても美味しいです……!」
「ふむ、この抹茶プリンは絶品だな」
順に暁先輩、七瀬さん、宮杜さん、桜葉先輩の感想だ。
「女の子ってほんと幸せそうに食べますよね。見ているこっちまで幸せになりますよ」
「え、えへへ。そんなに見ないでよ、も~」
「そりゃあ、美味しいは正義だもん!」
「う。はしたなくてすみません……」
「む、私もそんなに幸せそうだったか? なんというか、改めて指摘されると恥ずかしいな」
こうして俺達は楽しいひと時を過ごしたのだった。
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