七瀬さんの能力

 ファフワが居たので、宮杜さんの練習を始める事にした。


「「「頑張って!」」」


「はい、頑張ります!」


 宮杜さんが集中する。同時に俺も魔力感知状態に入る。


「っ!」


 宮杜さんの体から魔力があふれ出る。相変わらず凄い魔力量だ。すぐさま俺が魔力を一部奪い、宮杜さんが残りの魔力を制御下に置く。奪った魔力を使ってそれを補助すれば……魔法が発動する!


「「あ、はずれた」」


 残念ながら、一発目は命中しなかったようだ。


「それにしても、かなり強力よね? バフが無いと全くダメなの?」


「はい……。こんな感じで」


 ポタッと一滴だけ水が落ちた。


「なるほどね……。うーん、先輩としてなにか助言してあげたいけど、こういう事例は見た事が無いからなあ……」


「暁先輩は最初から能力を使えましたか?」


「私? 私は使えたわね。って言っても、発動までにタイムラグがあったり、狙いも外れたりと実戦では到底使えない物だったけどね。けど、一年間能力研究部で特訓したら、上達したわ。さあ、あなたも是非、能力研究部へ!」


「ここで部活の勧誘をしないでください、先輩。もう少し宮杜さんの練習をしてから、七瀬さんと交代にしましょうか」


「「「はーい」」」


「ってこういう指示を暁先輩が出すべきなのでは?」


「私ね、思うの。リーダーは一番強い人がやるべきだって」


「一番経験豊富なのは先輩なのでは?!」



「宮杜さん、凄く上手になったわね!」


「命中率も50%くらいあるんじゃない? それじゃあ、宮杜ちゃんの練習はこれくらいにして、次は七瀬ちゃんかな。七瀬ちゃんの能力は、身体強化と自己回復だっけ?」


「はい。前衛を担当するつもりです」


 七瀬さんの能力は二つ……いやある意味一つか。両方、「自身の体に働きかける能力」である。


 実はこの世界において身体強化は回復魔法の一つである。というのも、身体強化のメカニズムは「筋肉をフル稼働し、損傷する度に回復する」という物なのだ。

 あまりに強い力を出すと筋肉の損傷に繋がるので、通常人間は己の力を抑えている。(そして、抑えていた力を解き放つのが、いわゆる「火事場の馬鹿力」というやつだ)

 この「火事場の馬鹿力」を安全に使うのが身体強化である。損傷する度に自己回復をかける事で、常に筋肉を酷使出来るのだ。


 そういうメカニズム故に、身体強化は使い手の筋肉量に大きく左右される。例えば、七瀬さんがいくら身体強化を使っても、筋肉ムキムキのマッチョの力には及ばない。


「アタッカーメインのつもりなの? それとも遊撃って感じ?」


「どっちがいいんですかね? 先生に聞いても『まずは使いこなせるようになってから考えた方が良いと思う』って言われてて……」


「えーとね。うーん。これは先輩からのアドバイスだけど……。こういう時は、強い人にアドバイスを乞うのが一番良いと思うわ! という訳で、赤木君! アドバイスお願い!」


「なんで俺?! アドバイスするのは良いけど、俺の話が全てではないから、まあ『そう言う考えもあるのか』程度に聞き流してくれ。えーと、そもそも身体強化のメカニズムは知ってるよな?」


 勿論、七瀬さん本人は身体強化のメカニズムを知っていたが、他二人は知らないようだ。という訳で、改めてその仕組みを説明する。


「つまり、七瀬ちゃんがアタッカーとして活躍したければ、ジムに通ってトレーニングを積んで、ムキムキマッチョにならないと意味がないって事?」


「流石先輩、その通りです。逆にそれが性に合わないならアタッカーは選択肢から外すべきと俺は考えます。七瀬さん的にはどう思ってる?」


「えーと……。正直、ムキムキになりたくはないかな……。トレーニングとか私、したくないし……」


「なら、残る選択肢は二つだ。一つ目が先輩がさっき言った『遊撃』ともう一つは『回避盾』と呼ばれる戦い方だな。大前提として『筋肉が少ないのに、パワーが出せる』と言うのは身軽ってことだ」


「「「ふむふむ」」」


「つまり、ヒットアンドアウェイを繰り返す『遊撃』、そして敵の前でちょこまかと動き回ってヘイトを集め、攻撃は味方に任せる『回避盾』っていう戦い方が向いているんだ」


「「「なるほど~」」」


「ここからは(この世界では)自分で使ったことが無いから分からないけど、自己回復が苦手なら遊撃、自己回復が得意なら『回避盾』が良いと思う。遊撃のコンセプトは『嫌がらせ』だ。つまり、自分は逃げに徹する訳だな。一方、回避盾のコンセプトは『ヘイトを集める』だ。つまり、自分が敵の攻撃を引き受け、避けるアンド万が一当たっても即座に自己回復って訳だな」


「「「なるほど、とても参考になる……!」」」


「七瀬さんと宮杜さんはともかく、暁先輩は先輩でしょうに?! 感心している場合ですか!」


「いや、自分の能力以外の事なんで、普通勉強しないから……」


「そうなんですか? でも、味方の能力を把握して、助け合う事は重要でしょう? だから、他の人の能力も一通り知っておくべきなのでは?」


「そういうのは真面目なパーティーリーダーがする仕事。頭を使うお仕事は偉い人に任せて、自分は楽する。これがこの学園で生き残る秘訣よ!」


「「なるほど……! 流石先輩、参考になります」」

「なんてこと後輩に教えてるんですか!」



「っと話が逸れた、七瀬さんの能力の話だったよな」


「うん、ありがとうね、色々教えてくれて。今の話を聞く限り、私には遊撃が似合うかなあ?」


「回復は苦手なのか?」


「うん。イマイチ感覚が掴めないのよね。そもそも、練習の為にわざと怪我を負うなんて嫌だし」


「それもそうか。ともかく、回避の練習をするならウォーターリリーを探すべきかな? 先輩、それでいいですか?」


「任せるわ!」




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