フードコート
まだ慣れていないからか、能力の使用は想像以上に体力を消費した。はー疲れた。少し休憩したいのだが、その前に荷解きをしておこう。
「といっても、大した量じゃないんだよなあ……」
スーツケース一つ分。それ程荷物は詰まっていない。
・衣服:下着×4、夏用の服×3、冬用の服×3、寝間着×2
・文房具:筆箱、ノート×5
・パソコンとペンタブ(←イラストを描く用。ゲームで使うイラストだな)
・小物(歯ブラシなど)
・バスタオル類
まずは衣服を洋服ダンスにしまう。備え付けの学習机にノート類を置いたり、パソコンとペンタブを設置したりする。小物類の設置を終わらせて、脱衣所にバスタオルを置いたら終わり! 10分もかかっていない。
「ふう。全てが片付くと、今までの疲れがどっと押し寄せてきて……。さっとシャワー浴びてから昼寝しよ。二時間後に目覚ましかければいいかな」
長時間の電車移動、駅から学校までの移動、そして初の魔法発動。それらの疲れがたまっていたようで、俺は深い眠りについてしまったのだった。
◆
「知らない天井だ……」
目覚ましの音で目が覚める。するとそこには見知らぬ天井が。あ、そっか。俺、フォルテメイアの寮に来たんだったな。窓から外を眺めると、辺りが赤っぽく染まっていることに気が付く。夕方になっているようだ。
起きたばかりであまり食欲は無いが、歩いていれば腹も減ってくるだろう。という訳で、フードコートへ向かうとするか。
やってきましたフードコート! いやあ、想像以上に広いな! ゲームでもフードコートの存在は明かされていたが、詳しい事については語られていなかった。まあ、ゲームの本質ではないからなあ。設定など用意されていなかったのだろう。
何を食べようか決めるべく、フードコートをぶらぶら歩くことにする。どんなお店があるのかな? おや?
「あれが、七瀬さんの言っていたクレープ屋か。確かに女子が並んでいる……」
キャッキャという女の子の声が聞こえる方を見ると、店先に大きなクレープのオブジェが設置されているお店が見えた。言うまでもなく、例のクレープ屋だろう。 遠目にメニューを見てみたが、おやつ系以外にも総菜系のクレープもあるようだ。いつか食べてみたいが、あの中に並ぶのは勇気がいるなあ。
それに今は夕飯時。徐々にお腹が空いてきたのでがっつり食べたい気分である。トンカツ定食でも頂こうかな!
さて、この学校は何かと先駆的であり、ここでの食事はキャッシュレス決済できる。スマホに『フォルテメイア公式アプリ』をダウンロードしておけば、スマホを見せるだけで決済できるので、現金を持ち運ぶ必要が無い。また、注文後すぐに受け取れない場合は、用意出来次第呼び出されることになっているのだが、それもスマホに通知が来る仕組み。まさにショッピングモール内のフードコートって感じだな。
トンカツが揚がるまでの時間で、俺は席の確保に向かう。適当な座席を確保して、SNSをボーっと見ていると、トンカツ定食が出来たという旨の通知が入った。
出来たて熱々のトンカツ定食を持って、確保した席に着く。四人用テーブルを一人で占拠している状態であり、優雅な夕食に……うん?
席に座った瞬間、フードコートの騒音が大きくなったような気がした。気のせいか……? いや、気のせいではないな。明らかに人が増えてきている。スマホに目を落とすと……18時15分。確か、この学校の部活は18時まで……。
なるほど、部活終わりの学生が押し寄せてきたのか。うわあ、これは混雑しそうだ。早めに来て、席を確保できてよかったよ。
◆
「すみません、ここの席は誰かが座りますか?」
「? んぐんぐ。いえ、誰かが来る予定はないので、使って頂いて大丈夫ですよ」
「助かります」
人が増えてきたこともあり、相席しないと席が足りなくなってきたようだ。二人の女性が俺の向かい側の席に着いた。二人とも背が高めですらっとした佇まいが印象的だ。七瀬さんが「可愛い」だとすると、この二人は「綺麗」という印象。
「急に混み始めましたが、これって、部活が終わった人が一斉にやってきた感じですかね?」
「そうですね。……もしかして、新入生?」
「はい。入学式もまだなのに、新入生って言うのも変な感じがしますが」
入学前の三月中旬から入寮できるのはこの学校特有……かもしれない。他の全寮制高校がどうなっているのか知らないから、何とも言えないけど。
「そっかそっか! ああ、私達は能力研究部っていう部活をしていてさ。良ければ参加してみない? きっと楽しいよ!」
突然、目の前にいた先輩は、良いカモを見つけたと言わんばかりに俺を勧誘して来た。そっか部活か。ゲームでは部活なんて無かったから、考えてもなかったけど、能力研究部か……。面白そうだな!
「ちょっと、
そんな勧誘先輩を嗜めたのは一緒にいた子。確かに、フォルテじゃなかったら勧誘したところで意味が無さそうだ。何せ
「あ、あはは。あ、僕はフォルテですのでもしかしたら、その部活に入るかもしれません。もしそうなれば、よろしくお願いしますね」
「やった!」
「瑠璃は反省しなさい。新入生君に言っておくと、この学校には沢山の部活があるんだ。で、中にはちょっと怪しげな団体があったりもするっから、気を付けないといけない」
「え゛?! そんな事があるんですか……」
「ああ。で、ちゃんとした団体かどうかは、学校のホームページに載っているわ。ほら」
「学校公認団体の一覧……、なるほど。あ、能力研究部も公認団体なんですね!」
「そうよ! だから……むぐ!」
「瑠璃は黙ろうか。うちはちゃんとした団体って訳だが、他にも色々あるだろ? じっくり考えるのが良いと思う。まあ、だからこそ、入学式以前の勧誘は控えるように言われてるんだ」
「ありがとうございます。色々見て、自分に合った部活を探してみようと思います!」
二人の先輩よりも一足先に食べ終わった俺は、会釈しつつフードコートを去った。
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