能力使用

「ここが第2寮か。外見は綺麗だけど、果たして……」


「中も綺麗らしいけど、実際に見ないと分からないよね。早速入ろっか!」


 第2寮は6階建てのマンションのようだった。一階につき20室あるので、合計120室くらいある計算だ。いや、一階には食堂なんかの共有スペースもあるし、実際には100室くらいだろうか? そんな事を考えつつ、自動ドアをくぐって中へ入る。


「「おお!」」


 そこには、ホテルのロビーのようなスペースが広がっていた。なかなか清潔そう。良かった。

 キョロキョロと辺りを見渡す俺達。そんな俺達に、一人の女性が近づいてきた。


「新入生かな? それとも侵入者かな? なんてな! あはっはっは! それはともかく、私はこの寮の管理人の畑中よ。学生証は持ってる?」


 愉快な人物が現れた。この人が管理人なのか。楽しい寮生活になりそうだな。


「「はい」」


「読み取らせてもらうよ……。オッケ。確かに二人ともこの寮生で間違いないね。ようこそ、フォルティス=アカデメイヤへ! 歓迎するわ! 早速部屋へ……と言いたいところだけど、先に諸注意を済ませておくわね」


「「分かりました。お願いします」」


「一つ目は、消灯時間について。一応、22時が消灯時間だから、その時までに部屋に戻っておくように。それと、消灯時間こそ22時だけど、20時以降は静かにするように。早めに寝たい人もいるからね」


「「なるほどです」」


「二つ目は共有スペースについて。一階の一部は見てもらってわかる通り、共有スペースとなっているわ。自由に使用して問題ないけど、飲食禁止よ。飲み食いしたいときは、向こうにある食堂を利用するように」


「なるほど、だから共有スペースがこんなにもきれいなんですね」

「飲食禁止ね。分かりました」


「三つめは風呂について。部屋にはシャワー室があるけど、ゆっくり湯船に浸かりたい時もあるでしょう。そういう時はそこの大浴場を使う訳だけど、使用できるのは18時から22時、そして5時~8時よ。当り前だけど、異性の風呂を覗こうとしないように。ふざけて覗こうとした奴に退学処分が下ったこともあるわ」


「「18時から22時、5時~8時」」


 俺たちはスマホを取り出し、メモを取る。


「四つ目はフロアについて。四階五階六階が女子のフロアになってるの。それで、19時~7時の間、男子は四階より上へ行く事は禁止となっているわ」


「19時~7時は女子フロアに行ったらダメっと。分かりました。逆に、19時より前なら、女子のフロアに行ってもいいんですね。男子厳禁だと思ってました」


「複数人で集まってゲームをするとかそう言う事もあるからね」


「なるほど」


「まあ、実際問題、多少は違反してもバレないと思うけどね。だけど、逢瀬をするなら男子の部屋で会うようにした方が安全だと思うわ。分かったかな、二人とも?」


「「?」」


「あれ、二人はそういう関係じゃないの?」


 言われて気が付いた。新入生にもかかわらず、一緒に来た男女。恋愛関係を疑われてもおかしくない。


「いや、彼女とは道で会っただけですよ?」

「ちちち、違いますから! 彼とはそんなんじゃないです!」


「そうなの? それは失礼。後何か言う事はあったかな……。あ、部屋の鍵はオートロックよ。学生証が鍵になってるから、部屋を後にするときは学生証を忘れないように。万が一締め出された時の為に、指紋認証もあるから、登録しておくことをお勧めするわ」


「「はい」」


「以上で諸注意は終わりよ。質問はある?」


「「……」」


「無いみたいね。部屋番号は分かる?」


「「はい、大丈夫です」」


「それじゃあ、今後とも宜しくね! 解散!」



 七瀬さんとはそこで別れ、各々の部屋へと向かった。荷物を下ろした俺は、早速能力調査を行っている場所へ向かう事にした。


「えっと……。第Ⅳ訓練場か」


 この学校はかなり大きい学校なので、パンフレットを持たずに歩くと道に迷ってしまう。と言われているが俺は大丈夫。だってゲームで何度も歩いた道だから。

 さて辿り着くと、男性職員が話しかけてきた。


「おい、そこのお前。新入生か?」


「はい。能力調査ってここであっていますか?」


「あってるぞ。学生証は持ってるか?」


「はい、ここに」


「オッケーだ。じゃあ、向こうにいる職員の指示に従ってくれ」


「分かりました。えーと……」


 場所を移動し、訓練場の中へ。タブレットを持った女性の所へ向かう。


「新入生だね。学生証をかざして」


「はい」


「オッケー。それじゃあ、能力を使ってくれるかな? それとも、まだ使えなさそう?」


 能力試験で陽性反応が出ても、すぐ使えるという訳ではない。多くの人がなんとなく「あ、俺が使える魔法は……」と自覚できるが、稀に自覚できない人もいるみたい。自覚出来ていない人は、先生方のサポートの下、能力を使えるようになるまで練習する必要がある。

 俺はゲームの知識のおかげか、自分の能力とその真価を知っている。それ故か、ここに来る二週間ほど前には自分の能力を自覚出来た。


「はい。僕の能力は、二つあります。一つ目が無属性の魔法、もう一つが味方の魔法を強化する能力みたいです」


「無属性魔法とバフなのね。複数の能力ってだけで珍しいけど、その組み合わせはかなり珍しいわね」


 半分本当で半分嘘。赤木風兎はこのゲームの主人公であり、有している能力も、この程度じゃない。は主人公らしく、かなり強力な能力を有している……のだが、詳しくは後程。

 ちなみに、「無属性」の他に「火」「水(氷)」「土」「風」「光」などの属性がある。無属性以外は、「この魔物に特効」「この魔物に無効」みたいなものがある。無属性は特効も無ければ無効もない。


「無属性魔法から試してもらえるかしら?」


「はい。と言っても、上手く出来るかどうか……」


 街中で魔法の試し打ちなんてできないからな。正直上手く発動できるか不安である。ゲームではキーを押すだけで魔法が出たのだが、リアルではどんな感じなんだろう?


「最初の頃は、不発って事が多々あるし、失敗を恐れずにやってみて。重要なのは自信よ。自分の能力を疑わない心があれば、おのずと能力は発動するわ」


「なるほど、やってみます。……っ!!」


 人生初の魔法発動。緊張を押し殺し、意識を集中させる。 次の瞬間、まるで自分が世界から切り離されたような感覚に陥る。


 いや、違う。切り離されたのではない。


 五感が消えて、何も感じ取れなくなったから『切り離された』ように感じたが、俺は確実にさっきまでいた場所にいる。そして、この状態で、俺が感じ取れるのは魔力だ。朧気おぼろけながら、試験管の女性がいる位置に魔力が存在しているのを感じ取れる。少し慣れてくると、受付前にいた男性の魔力も認識できた。


 そして、だ。意識を自分自身の中に向ける事で、自分の中に存在する魔力も認識出来るようになった。これを撃ち出すイメージでいいのだろうか?


「っ! はあ、はあ」


 魔力を発射するのと同時に、俺の集中力が切れたようだ。今では五感が戻っているし、逆に魔力を感じ取れなくなっている。


「大丈夫?! 無理しちゃ駄目よ!」


「大丈夫です。それより、どうでしたか?」


「自分で見てみるといいわ」


「?」


 顔を上げる。俺から10メートルほど前方に、地面がえぐれた場所が確認できる。これって……!


「俺の魔法で?」


「ええ、そうね。初めてでここまで出来る子は珍しいわよ! これだけで、一年生レベルの試験は突破できると思うわよ。君、素質があるわ?」


「そ、そうですか。良かったです」


「次はバフね。出来そう……じゃないわよね? 明日以降、もう一度来てくれる?」


「いえ、たぶん問題ないです」


「いいえ、無理は禁物よ。今日はゆっくり休みなさい」


「……そうですね。お気遣いありがとうございます。また体力が戻ってからにします」


「お疲れ様」



 後にバフの方も試したわけだが、そちらもすんなりとこなす事が出来た。魔力を知覚できる状態で、味方の魔法を強化するように魔力を注ぐことで魔法が強化されたのだ。



 ここで少しメタい話をしよう。ゲームでは戦闘前にこんな選択肢が現れる。

<

自機を選択してください

・風兎:バランス型

・他キャラの名前:水属性、広範囲魔法。

・他キャラの名前:火属性、高火力型。

……

 ここで、主人公以外を選んだ時はそのキャラを使って戦えるのだが、それでも主人公にお金が入ってくる。この矛盾を取り除くために、「主人公がバフをかけている」という設定になっているんだ。だから、風兎はバフの能力を持っているのである。





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