フォルティス=アカデメイア

「今更ですが、同級生なんですね。俺はフォルテで赤木風兎って言います。どうぞよろしく」


 フォルテメイアには、フォルテじゃない学生も(少ないが)存在する。将来、魔物に関する研究に携わりたい人なんかが来ているのだ。ゲームでは、ほとんど関わらなかったけどな。関わりがあるとすれば、時折発生するクエストで「僕、研究者志望なんです! ○○の研究をしているのですが、取ってきてもらえません? 代金は多めに支払いますよ」という感じの物があるのだが、その依頼主はフォルテじゃない学生であろう。

 なお、彼には(資金調達と言う面で)凄く助けられ、ゲーマーの間では「社長」とか「招き猫」なんてあだ名が付けられていたが、正確な名前は判明していない。いわゆるモブってやつだ。


 閑話休題。


「私は七瀬ななせアヤ。同じくフォルテです! こちらこそよろしくお願いします! そっか、同級生でフォルテかあ……。同じクラスかもしれませんね!」


「ですね。だったら、敬語って変かもしれませんね。タメ口にしません?」


「いいですよ。じゃなくて、いいよ。改めてよろしくね、赤木君!」


「よろしく、七瀬さん!」



 そして、俺達二人は並んで学園へ向かう。話す話題はやはり新生活への期待や不安について。それしか共通の話題が無いしな。


「フォルテの知り合いは、同級生も先輩も知らないから不安なんだよな……。七瀬さんは?」


「私もいないわ。でも、お父さんがフォルテなの。だから、私の弟と妹もフォルテの可能性が高いかな。兄や姉が居たら色々聞けたかもしれないけど、残念ながら、私が最年長でさ」


「そうなんだ。そう考えると、弟と妹はラッキーだな」


「うんうん。でも、年上の兄弟姉妹がいると、比べられたりしそうだし……。そう言う意味では最年長も悪くはないかも?」


「なーるほど。俺の妹も『お兄ちゃんはどうたら』とか言われてて、苦労してたっけ?」


 小学校位の時、やんちゃした穂香がそんな風に怒られていた時があった。当時は、申し訳なく思ったっけ?


「あはは。あるあるよね~」


「ちなみに、お父さんからは何か聞けないの? 学校の雰囲気とか」


「あー。当時と今とじゃ結構違うらしいのよ。最近ってフォルテメイアに進学する人が減りつつあるじゃない? それを受けて、生徒が快適に過ごせるように色々と尽力してるらしくね。例えば、校内にあったショッピングセンターに、お洒落なフードコートが出来たり」


「パンフレットで見たけど、結構な規模だったよな! 和食、洋食、中華。他にもドーナツ屋とかもあったっけ?」


 そう、この学園には大きなフードコートがあり、学生、先生や研究者などが利用できるそうだ。学生向けの、コスパの良い料理もあるらしく、入学したらぜひ利用したいと考えている。


「あとクレープ屋もあるらしいわ。女の子に人気らしくて、ぜひ私も行きたいって思ってるの!」


「それは知らなかった! パンフレットに載ってたっけ?」


「うんん。『つぶやいたー』でみたの。つぶやいたーって知ってる?」


 当然知っている。前世でも利用していたし今も利用している。今は、作ったお料理やスイーツの写真をアップしている。

 あと、実はもう一つアカウントを持っていたりする。それが、ディベロッパーとしてのアカウントだ。アプリ開発者として自作ゲームを紹介したりするのだが、それがこの前フォロワー75万人を突破したところだ。


「知ってる、知ってる。なるほど。つぶやいたーってそういう使い方もあるのか! 自分の趣味を投稿したり、逆に投稿を見たりする場として使ってたよ」


「『フォルテメイア』で検索したら、先輩方のアカウントが見つかるから、それを見てる感じね。実際の学生生活を垣間見れて、参考になるよ」


「なるほどなあ。それに、先輩とか同級生と繋がれたら、色々情報交換できそうだな」


「そうね」


「良かったら相互フォローしないか? 不特定多数と繋がるアカウントを持ってないなら断ってくれていいけど」


 同級生の知り合いは作っておいて損はない。単純に「この子の連絡先を知りたい」という気持ちも無くはないけど。


「いいよ、いいよ! もし、分からない事があればメッセージを送り合えるし!」


「だな! えっとね。俺のアカウントは『赤兎楓』っていうアカウント。赤い兎のアイコンのやつ」


 お料理とスイーツの写真をアップしている方のアカウントを教える。まさかディベロッパーとしてのアカウントの方を教えるわけにはいかない。

 なお、『赤兎楓』とは、俺の本名を弄った偽名。赤木風兎→赤楓兎→赤兎楓という訳だ。


「赤兎……これ?」


「そう、それ」


「色んな料理を投稿してるね! え……? これって手作り?」


「そうだぞ。なかなか上手だろ?」


「へえ……。えっと、一応確認だけど、男の子だよね?」


「男子だぞ。アカウント名も女の子っぽく聞こえるかもだけど、それは本名を弄ったんだ」


「そうなんだ。へえ……すごいなあ……。わあ! このケーキ、おいしそうね!」


「どれどれ? ああ、それか。初めて作った時は苦労したなあ……。 機会があればごちそうするよ」


「ホント?! その時はごちそうになるね」



 こうして、クラスメイトかもしれない女の子と交流しつつ、学園へ向かう。三月の肌寒さが気にならなくなるほど、楽しい時間を過ごさせてもらった。

 そして、いよいよ学園の正門が見えてくる。……おお! ネットの画像で見るよりも遥かに立派だなあ。

 ゲームで見た光景がこの中にあるのか……。ワクワクする。とてもワクワクする……! まさか、あの名作の中に入れるなんて……!! ヤバい、改めて興奮して来た!

 その興奮を抑え、俺はつぶやく。


「いよいよ、学園だな」


 たった一言だが、この一言にはとても重い意味が込められている。


「そうね。ちょっと緊張してきちゃった」


「俺もだよ……。あ、ちょっと写真を取っていい? 妹に送りたいんだ」


 あと、可能なら地球にいる人に送ってやりたい。まあ、それは無理だろうけど。


「どうぞどうぞ。せっかくだし、門と一緒に写る? 撮ってあげるわ」


「サンキュー! んじゃ……こんな感じで」


 門の間で敬礼してみる。


「いいわね! かっこいいわよ! はい、チーズ!」


 かっこいい? 言葉の綾だとは思うが、そう言ってくれると嬉しいな。


「ありがとう。七瀬さんも撮る?」


「お願いしようかしら。それじゃあ、私も……」


 七瀬さんも、敬礼ポーズを取る。うむ、かわいい。


「いいね、いいね。もうちょっと顎を引いて……。うん、可愛い。 はい、チーズ!」



「じゃあ、中に入るとしよう。まずは、入寮手続きだな」


「そうね。それをしないと、寝る場所がなくなっちゃう。うーん、手続きって時間かかるのかな……? もし時間が空いたなら、能力調査も受けたいのだけど……」


 能力調査。学生がどのような能力を使えるのか学園が把握するために行う。そして、この能力調査で、俺達は初めて魔法を使う事になる。当然、攻撃魔法を街中で試し打ちする訳にはいかないし、そもそも所定の場所以外でむやみに魔法を使う事は厳禁だからな。


「早く魔法を使ってみたいのか?」


「うん! 赤木君はそんな事ない?」


「いや、俺も同感。ただ、それ以上に早く荷物を置いて身軽になりたい欲求が……」


「なるほど。って、私の荷物を持って貰ってるんだ! ほんと、すみません!」


「ああ、いや。イヤミを言いたかったわけじゃなくて、つい。七瀬さんの寮は第何寮? 俺は確か第2寮だったんだけど」


「そうなの? 奇遇ね、私も第2寮よ!」


「そっか! それじゃあ、目的地まで一緒に向かおうか」




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