フォルテメイアへの入学
衝撃的な出会い(物理)
「まもなく~、フォルテメイア前~、フォルテメイア前~です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。フォルテメイアの次は、逢魔湖西に停まります。Ladies and gentleman. We will soon make a brief stop at Fortimeia Mae. Please remember to take all your belongings with you when you get off the train. After leaving Fortimeia Mae, this train will stop at Oumagako Nishi」
電車を乗り継ぐこと五回。やっとのことで学園の最寄り駅に到着した。平日の昼間という事もあり、移動中は座る事が出来たことが救いだな。
「くぅううう! 腰が痛い! ずっと座っているというのも、疲れるな……っと。さて、降りるとするか」
電車がホームに停まり、扉が開く。俺は、スーツケースを左手で引きずらせながら、プラットホームに降り立った。そのまま、ガラガラと音を立てながら、改札を出て、学園へと向かう。ここからは徒歩で20分ほどだ。やや上り坂になっているので20分かかるが、逆に学校から駅までは10分~15分程度だそう。
「晴れててよかったよ、ほんと。日差しが無いとキツイ季節だしなあ……。お、梅が咲いてる。記念撮影しておこっと」
なんて事の無い日常の風景。でも、この一枚は、俺がここへ来た日の思い出となってくれるだろう。梅の木単体でパシャ! ついでに自分の顔も入れて自撮り!
穂香に「無事、駅に着いたよ」と報告してっと。完璧だ。
◆
スマホをポケットに仕舞い、再び歩き出そうとしたところで、ガラガラガラー!という何かが転がっていくような音が聞こえた。この音……まさか俺のスーツケース?! 足元を確認するも、スーツケースはそこに鎮座していた。よかった。俺のが勝手に転がって行った訳じゃなかったようだな。
だとすると、この音は一体? しかも、さっきから音が大きくなってきているような……?
「待てーい、私のスーツケース! 止まりなさーい!」
「おっと!」
坂の上からピンク色のスーツケースが転がり落ちてきた。咄嗟に手を伸ばし、スーツケースを止める。
「ひい、ひい、ひい……。止めてくれてありがとうございます……! 助かりました……!」
「!」
スーツケースの持ち主と思われる女性が走ってきた。必死で走ってきたのか、膝に手を置き肩で息をしていたが、直ぐに俺の方を向いてお礼を言ってきた。
背は俺の胸の高さぐらいとちょっと低目。髪は肩に少しかかる位の長さで、明るい茶髪だ。金髪まではいかないかな?
目はくりくりとしていて、その髪の色と相まってテディーベアのような愛くるしさがある。
この子、凄い可愛いな。ついつい顔をマジマジと見つめてしまう。
「どうかしました?」
「ああ、いや。ごめんごめん、つい見惚れてました。坂になってるから、スーツケースの取り扱いには気を付けないといけませんね……って! 後ろ!」
「み、見惚れてた!? え、えへへ。……え? 後ろ?」
後ろから、もう一つスーツケースが転がってきた! ガラガラと音を立てて、俺達に迫ってくる。
「きゃあ!」
スーツケースは勢いそのままに、女の子の背中に激突! その衝撃で彼女は前に倒れ……
「「ぐへ!」」
俺に向かって倒れ込んできた! そして、俺達は盛大にこけた。
「痛って……。え?」
「あいたたた……。っ!」
目を開けると女の子の顔が目の前にあった。地面に仰向けに転がっている俺の上に、女の子が乗っているような形だ。改めて近くで見ると、綺麗な瞳だなあ……。
「「……」」
暫し俺達は見つめ合っていた。それは一瞬だったようにも感じるし、随分と長かったようにも感じる。そういえば、「10秒間見つめ合えたら恋人になれる」って噂があったっけ? なんて思っていると、女の子は再起動し。
「ごごごごご、ごめんなさい! 大丈夫ですか? お怪我はありませんか?!」
と慌てて謝る。
「だ、大丈夫です! そちらこそ、怪我はないですか?」
「おかげさまで、私は大丈夫です。本当に大丈夫でした? コンクリートに頭をぶつけたりしてませんか?!」
「心配してくれてありがとうございます。でも、本当に大丈夫です」
「そ、そうですか。良かった……」
「えっと。ただ少しお願いしたいことが……」
「はい? なんでしょうか?」
「どいて頂けません?」
女の子は未だ俺の上に座り込んでいる状況だ。この格好は色々と不味いので、出来ればこのまま……ではなく早くどいて頂きたい。
「あ。ごめんなさい、ごめんなさい! すぐにどきます!」
◆
「ご迷惑おかけしました」
「大丈夫、大丈夫。ところで、二つ目に転がってきたスーツケースもあなたの物ですか? そうじゃないなら、持ち主探しに尽力しなくちゃいけないですけど……」
「はい、私のです。一つ目のスーツケースを追いかける野に夢中で、二つ目の物を上に放置していたみたいで……。後から転がってきたようです。ほんと、すみません……」
「いえいえ、もう謝って頂かなくて大丈夫ですよ。ところで、君もフォルテメイアの新入生ですか? もしそうなら、校門まで一緒に行きません? スーツケース、片方持ちますよ」
俺は最低限の荷物でこっちに来たから一個のスーツケースで済んだけど、彼女は大きなスーツケースを両手に引きずっている。服とか入っているのだろうか? まあ、中身は何であれ、手伝うのが男ってもんだろ。
「はい、フォルテメイアの新入生です。でも、荷物は気にしないでください!」
「そうですか? でも、少し考えてみてください。大きな荷物を一生懸命運ぶ女の子と、その近くで軽そうな荷物を呑気に運ぶ男子。周囲から見たら、俺ってひどい奴に見えません?」
「む、むむむ……。確かに?」
「もちろん、『こんな奴に触れさせるとか、マジ勘弁!』って感じでしたら、手伝えないですが……」
「そういう訳ではないですよ! それじゃあ、お言葉に甘えても良いですか?」
「もちろん。任せて」
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