従妹

 えーと。今の状況を整理しよう。赤木風兎はわずか八歳にして両親を失い、その後、叔父叔母の家に引き取られることに決まった。のだが、そのタイミングで前世の記憶を取り戻した。



「つまり、僕は叔父と叔母の家族に引き取られる、という事でしょうか?」


 状況説明に困っている叔母を助けるべく、俺は声をかける。


「え。ええ。そうよ。理解してくれてよかった」


「分かりました。改めてよろしくお願いします」


 ペコリ。礼儀正しい子と思われるべきだろうと考え、お辞儀する。これからお世話になる人だ。好印象を持ってもらおうと思う。


「うん、よろしくね。えっと、それじゃあ、さっそく移動しましょうか」


「はい」


 こうして、赤木風兎の人生は、再スタートしたのだった。



 軽く現状を整理する。

 俺は赤木風兎君の体を乗っ取った訳ではなく、あくまで転生したようだ。というのも、ちゃんと俺には赤木風兎としての記憶が残っているのだ。例えば、親の顔と言われて真っ先に思い浮かべるのは赤木風兎の両親だ。むしろ、前世の親はどこか他人のように感じてしまう。


 さて、赤木風兎としての記憶を思い返し、特別仲が良かった人とかが居ないか考える。うーん、引っ越す前に話しておきたい人とかいない……かな?

 それじゃあ、心残りなく故郷を去る事が出来るな。



「従妹の穂香ちゃん……がいるんですよね? 何歳くらいですか?」


 赤木あかぎ穂香ほのか。従妹であり、そしてこれから兄妹のように過ごす事になる女の子である。できれば仲良くしたいものだ。


「風兎君より一歳年下よ。仲良くしてあげてね」


「一歳年下……。分かりました、立派なお兄ちゃんになります!」


「ふふふ、そうね」


「それから……。あ、そうだ。学校はどうなるんでしょう? 転校手続きとかは……」


「もう済んでいるわよ。明後日、月曜日から通う事が出来るわ。と言っても、引っ越しで疲れてると思うし、一日くらい休んでも良いと思うけど……」


「そうですね……。じゃあ、月曜日は休ませてもらいます。(状況整理とかしたいし)」


「分かったわ。風兎君は学校は好き?」


「えーと、そうですねぇ。勉強は嫌いだけど、友達と遊ぶのは好きです。あ、でも、まずは友達作りからですね」


 どうせ勉強なんてしても、勤め先がブラック企業じゃあなあ。いや、ちょっと待て。俺って小学生になるのか? 勉強楽勝なのでは? それはともかく。


「そうね。風兎君なら沢山の友達が出来ると思うわ」


「ありがとうございます」



 赤木家に到着した。集合住宅地の中の家で、四人で暮らすには少し狭いかもしれないという印象。いや、四人の内二人は子供だし、このくらいの広さは十分広いと言えるか?


「お邪魔します」


「あ、風兎君だね。こんにちは」


 男性が優しそうに声をかけてきた。この人は確か、退屈そうにしている女の子を連れて、先に葬儀場を離れていった人のはず。なるほど、俺の叔父だろうな。


「えっと、僕の叔父……ですよね。今日からお世話になります」


「お、おう。移動で突かれているだろうし、ゆっくり休んでくれ。あ、子供部屋に布団を用意しておいたから……」


「ありがとうございます! えっと、子供部屋は……」


「ここをまっすぐ進んで左だよ。子供部屋って書いてあるから」


「はい」


 荷物を下ろすため、子供部屋に向かう俺。精々リュックサックくらいしか持っていないのだが、子供の俺からすると結構な重さなのだ。

 歩いている途中、叔父さんと叔母さんの声が聞こえてきた。


「八歳ってこんなにも落ち着いているものなのか?」


「両親を亡くしたりとつらい経験を積んだから……かしらね。凄く大人びて見えるわね。早くここの生活に慣れて、気楽に接して欲しいわね」


 む。確かに、堅すぎたかもしれない。少し砕けて接した方が良かったかもしれないな。

 さてと、ここが子供部屋か。穂香ちゃんもこの中に居るだろうか。それなら、先にノックした方が良いかな?


 コンコン


「何ー?」


「こんにちは、風兎だけど、入って良いかな?」


「うん」


 ガチャ


「失礼しまーす。あ、穂香ちゃんだね。こんにちは。えっと……俺の事、覚えてるかな?」


「うん。お祖父ちゃんの家に行った時、一緒に遊んだ」


「そうそう、覚えてくれてて良かった。その……これからよろしくね」


「うん」


 可愛い。めっちゃ可愛いぞ! ぷっくりしたほっぺたからはあどけなさを感じ、ぱっちり二重の目からは将来有望だろうなと感じさせられる。肩に少しかかるくらいの長さの黒髪はツインテールに結っており、可愛さを強調している。

 はあー。自分に娘が居たら、ちょうどこのくらいの年齢だったのかなあ。前世の俺は独り身だったし、子育ての経験はない。そんな俺に出来る事なんて少ないかもしれないけど、頑張ってこの子を守ろうと決めたのだった。



 その日の夕食は豪華だった。ピザ・チキンナゲット・オムライスなど、子供が喜びそうなメニューが揃っていた。おそらく、両親を失い意気消沈している俺を励まそうとして用意してくれたのだろう。


「わあ! すっごく美味しそう! 食べていいですか!」


 少し子供っぽく、喜びを表現する。実際、おいしそうなので、テンションも上がっている。前世ではカップ麺とかコンビニ弁当ばっかりだったからなあ……。


「ええ、どうぞ。召し上がれ。あ、それと。風兎君? 別に敬語じゃなくても良いわよ? これからは家族になるんだし、さ」


「そうですか? ……分かったよ。うーん、大人に敬語で接しないのは違和感があるけど、そのうち慣れるかな……?」


「うんうん」



「穂香ちゃん、ほっぺにケチャップが付いてるよ」


「どこ?」


「取ってあげるねー」


 ティッシュでふき取ってあげる。



「ピザ、小さく切ってあげるねー」


「ありがとー」


「どういたしまして」


 大人向けのピザだから、我々からすると、少し食べにくい。半分に切って食べやすいサイズにしてあげる。


「風兎君、立派なお兄ちゃんね」


「そうかな?」


「ええ。穂香とも仲良く出来そうで良かったわ」



 まあ精神は大人ですから。と俺は心の中でつぶやくのだった。



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