フォルテの学園~シューティングゲームの世界で恋愛はNG(ダメ)なのでは?~

青羽真

幼少期

生まれ変わったようだ

「赤木君! おっはよー!」

「あ、赤木君! その、おはようございます!!」


「お! おはよ~」


 登校しようとした俺は、寮の入り口付近でクラスメイトの女の子二人と出会った。俺の姿を見るなり、二人が駆け寄ってくる。


「教室まで一緒にいこっか」

「お願いします!」


「もちろん」


 一人が俺の右手を掴み、もう一人が俺の左袖を掴む。両手に花とはまさにこの事。三人で今日ある授業について話しながら登校していると、後ろから誰かが駆けてくる音が聞こえた。


「ちょっと! 赤木君!」


「びっくりした、急に大声を出すなよ! 何はともあれ、おはよ~」


「おはよう! そんな事より、それはどういう状況なのよ!」


 びしぃ!と俺は指さされる。


「どういう状況って……。クラスメイトと登校?」


「そうじゃなくて! 恋人でもないのに、なにベタベタしてんのよ! 不純よ! 先生に言い付けるわよ!」


 うん、正直俺もそう思う。二人の女の子と手を繋いで登校する高校生を見たら、俺だって「何? 修羅場?」と思うだろう。

 とはいえ、俺達の通う学校は男女交際が認められている。万が一、彼女がこの事を先生に訴えても、「あっそ」としか言われないだろう。

 返答に困っていると、俺の右側にいる女の子が代わりに口を開いた。


「男女が仲良くっても、問題ないじゃない。先生に言っても、私達が怒られたりはしないわよ? もしかして、私達に嫉妬してる~?」


「な゛?! そんなんじゃないわよ! そんなんじゃないったら、そんなんじゃないわよ!」


「テンパっちゃって~」


 俺達四人がわいわい騒いでいると、俺のスマホが鳴った。


「すまない、確認させてくれ」


「どーぞどーぞ」


 先輩からメッセージが届いたようだ。内容を確認すると……


「『今日のお昼、一緒にご飯食べよ?』か……。『いいですよ、是非ご一緒させてください』っと」


「誰?」


「先輩だよ」


「赤木君、モテモテだね! 負けないようにしなくちゃ!」

「わ、私も頑張ります!」

「不純よ!!」


 こうして俺達は学校へ向かう。ワイワイとしゃべりながら、俺は心の中で思う。


(この世界って、シューティングゲームの世界だよな? ギャルゲーじゃないよな?)


 俺はこの世界がゲームの世界であると知っている。ただ、そのゲームは魔法をぶっ放して敵をせん滅する、いわゆるシューティングゲームである。恋愛要素なんて皆無の殺伐としたゲームだったはずだ。

 そんな世界に来たはずなのに、どうしてこうなっているんだ。


 シューティングゲームの世界で恋愛はNG(ダメ)なのでは?



 時は七年前に遡る。今の俺が高校一年生だから、当時は八歳だな。


 まず初めにこの世界は現代日本と似て非なる世界である。この世界では魔物と人間の熾烈しれつな争いが起きているのだ。

 今から数百年ほど前、地球に未知の生物、いや存在・・が現れた。既存の科学では説明がつかない組成を持ち、また人間を含めた生物に対して敵対的であることから、それらは『魔物』と呼ばれるようになった。

 奴らは物理攻撃だけでなく、『弾幕』と呼ばれるエネルギー弾を使って我々を攻撃し、生命を滅ぼそうとした。しかも、彼らに科学兵器はほとんど効かず、人類は壊滅的なダメージをこうむった。

 そんな中、人類に変化が生じた。一部の人間が『魔法』と呼ばれる、科学では解明できない能力を得たのだ。能力は千差万別であり、魔物を攻撃する能力、盾を生み出して仲間を守る能力、味方を回復する能力などがある。

 魔法を扱える人間は能力者フォルテと呼ばれ、魔物との戦いに駆り出される事になった。今でこそ、魔物討伐に赴くかどうかは任意ではあるが、かつては能力者に徴兵の義務とか子供を設ける義務があったのだとか。


 今世の俺、赤木あかぎ風兎かざとの両親は能力者フォルテであった。そして、魔物を倒す仕事に着手していた。当然危険が伴う仕事ではあるが、二人は人類の為に戦っていたのだ。


 そして、とうとうその日がやってくる。


 両親が任務へと赴いた先に、未確認の魔物が出現したのだ。その魔物は二人が所属する部隊では到底対処できない強さであった。二人は奮闘するも殉職してしまう。



 両親の葬儀が終わった後、叔母が話しかけてきた。


「赤木風兎君ね……。その、これからあなたは私たちの家で暮らす事になるわ」


 両親を亡くした子供と、どう接したらいいのか分からないのだろう。ぎこちなく叔母が話しかけてきた。

 なるほど、葬儀の後大人たちが集まって話していたのは俺の処遇についてだったのだろう。話し合いの結果、叔父と叔母の家に引き取られる事に決まった訳だな。天涯孤独にならずに済んだのは不幸中の幸いと言えよう。


 しかし、当時の風兎は、八歳。理解できずに、首をかしげる。


「えっと……。穂香ほのかって覚えてる?」


「はい。お正月に、お祖父ちゃんの家で遊んだちっちゃい子……」


「覚えているのね。その穂香とこれからは一緒に暮らすのよ」


「そう……なんだ……。うん?」


 両親を失ったショックが原因か、はたまた自分の置かれた境遇が変わったことが原因か。何がきっかけなのかは不明だが、この瞬間、記憶の奥底から様々な情報が流れ込んできた。そして理解したのだ。




 ああ、これはシューティングゲームの世界だ。




 地球に居た頃の俺はニートだった。

 大学卒業後、そこそこ大きな企業に勤める事が出来たのだが、そこがまあブラックだった。給与も多いし残業代が出る分マシなのだが、裏を返すと「金を貰ってるんだからその分働け」という訳だ。肉体的にも精神的にもこれ以上働けないと悟った俺は、仕事を辞めてニートになった。幸い蓄えはあったので、毎日ゲーム三昧の生活を送る事にしたのだ。

 そんな中、俺は一つのゲームにはまった。それが『フォルテの学園』。3Dシューティングゲームである。


 根幹となるストーリーは「両親の死の謎を解く」というありきたりな物だが、それがかえって受けが良かった。また、その作り込まれた世界観に引き込まれる人が続出。コミカライズ版が発売されたり、アニメ化・映画化されたりと一世を風靡ふうびしたゲームである。


 また、ゲーム性も良かった。簡単なモードであるpp(ピアニッシモ)やp(ピアノ)なら初心者でも楽しめるし、ハードモードであるf(フォルテ)ならゲームが得意な人でも楽しめる。f(フォルテ)をノーミスでクリアするとプレイできるff(フォルティッシモ)はマニア向けで、発売当初は「人ではクリア不可能」なんて言われていたが、なんやかんやクリアする人も現れた。


 俺はと言うと、元からゲームが得意だったというのもあるし、また時間がたっぷりとあった事から、f(フォルテ)のノーミスクリア、ff(フォルティッシモ)のクリアを果たした。その様子を動画にしてアップしたおかげで、少しだけ収益を得られるようになった。

 そして俺は、ff(フォルティッシモ)のノーミスクリアを目指すべく、生配信をした。何度も失敗したものの、一年ほどかけてffのノーミスクリアを世界で最初に実現した。その時は投げ銭の嵐になったっけ? 公式からも「おめでとうございます」と投げ銭を頂いた。


 配信後、俺は布団に直行してそのまま爆睡してした。よっぽど疲れていたんだろうな。



 眠ったはずの俺は、いつの間にかPCの前でゲームを起動していた。これは……どういう状況なのだろう? 夢遊病的なやつか? それともただの夢? あー駄目だ、思考がまとまらない。

 ディスプレイを見やると、ちょうどゲームが立ち上がった所だった。すると、何やらシステムメッセージが表示される。


〈アンケートにお答えいただく事で、特殊コンテンツをお楽しみいただけます〉


「マジで? まだ続きがあるのか? まさか、fff(フォルテ・フォルティッシモ)があるのか……?」


 当然俺はアンケートに答えた。年齢、性別、家族構成などを聞かれ、最後の質問が表示される。


〈ありがとうございます。最後の質問です。あなたは、今の人生と特殊コンテンツならどちらを選びますか?〉


「彼女も居なければ、両親はもういない。友達と呼べる人も居ない。俺の今の人生なんて、価値あるものじゃない」


 そう独り言ちて、俺はその選択肢を押す。




 特殊コンテンツを選ぶ




 暫くロード中のマークが表示される。暫くすると、画面に一行だけ文章が現れた。




〈あなたならそうおっしゃって下さると信じていました〉




 それは現実だったのだろうか? 実は夢だったのかもしれない。あるいは、走馬灯だったのだろうか?

 いずれにせよ、これが地球で見た最後の光景だ。




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