あっちの花園、こっちの花園
年末、高校ラグビーを観に、生まれて初めて
地区の寄り合いの後の酒席で
「花園行きが決まる県大会っていつあるが?」
「11月の初め頃です」
「そうか、秋祭りと同じ頃やな」
「はい」
「ちゃんと必勝祈願していかんにゃ!」
「はい」
「おう、俺らもみんなして決勝観に行かんなん! なぁ!」
「おう、そやそや、行かんなん!」
「ありがとうございます!」
「もし、代表になったらお祝いもせんなんな。何か欲しいもんあるか?」
「えっ? ホントですか? ちょっとくらい高くてもいいですか?」
「ああ、構わん」
「スクラムマシンが欲しいんですが」
「そのスクラムマシンっていくらくらいするが?」
「高いのと安いのがありまして・・・」
「そんなもん、高い方に決まっとるないか」
「ありがとうございます! 150万です」
「・・・・・・」
「・・・いや、安いのもあります・・・」
「そっちは?・・・」
「・・・・130万です」
「・・・・・・。・・・・なぁ~ん、構わん・・・20万しか違わんないか。どうせなら高い方にせんか?」
「ホントですか!?」
「ああ、嘘言わん。うちらの営農組合、頭数で割れば、1軒15万やないか。大したことないちゃ、なぁ!」
「そやそや、それくらい全然大したことない!」
「ありがとうございます!」
「なぁ~ん、いいちゃ、うん、わかった。・・・そういえば、こないだ、
JAの機関紙の記事にオマエ出とったな。確か、“花園を狙います”言うたがに“花園行きが決まりました”いうて間違いがあったらしいな」
「ええ、あれはボクもビックリしてすぐに次の号に訂正を入れてもらいました」
「おう!シンちゃん!オマエんとこ、その責任とって、なんかせんなんがでないか?」
「えっ?・・・は、はい、・・・わかりました・・・何すればいいですか?
「う~ん・・・横断幕やろ! “祝 花園出場!!” いうてでっかーいが!」
「そやそや!あの建物の端から端まで使ってドーン!といったらんかい!もちろん農協持ちで!」
「・・・わかりました!何とかします!」
「おう、そうか! やってくれるか!・・・おう、良かったないか!」
「どうも、すみません。ありがとうございます!」
「・・・その代りやな・・・ちょっとお願いしたいことがあるがいちゃ・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なんでしょう?・・・・」
「うん、ユニフォームにな、うちらの営農組合の名前入れてくれるか?」
「そやそや! “○○○コシヒカリ” いうがも入れよまいか!」
「すみません! “JA” も入れてもらっていいですか?」
「なぁ~ん、構わん!ユニフォームは賑やかな方が良いに決まっとる! なぁ!」
「・・・あの・・・そういうのは入れられないんです」
「何ぃ? 駄目ながか! そんなもん、誰決めた? おもしょないのー」
「・・・すみません」
「・・・そしたらやな・・・」
「・・・・・」
「オマエんところの高校に学食ってあるか?」
「・・・・はい・・・」
「米、どこから仕入れとるが?」
「・・・いや・・・・自分はよく知りません・・・」
「そうか、知らんか・・・」
「・・・はい、すみません・・・」
「なぁ~ん、謝らんでもいいちゃ。人間誰でも知らんことはある。・・・うん。・・ちょっと事務室か総務行って調べてきてくれるか?・・・どこから仕入れとるか・・・・」
「ボクがですか?・・・いっ・・・それ・・・えっ?・・ちょっと・・・」
「ハハハ、冗談、冗談。そんな困らせるようなことせんちゃ」
「・・・・・」
「そのうち、もっと偉くなって出世してもろて、何も言わんでも阿吽の呼吸で・・・・な!・・・わかっとるな・・・?」
「そんな!ボクそんなに出世するわけないじゃないですか!」
「ハハハ!わかっとる、わかっとる、話やないか」
「・・・あー、びっくりした」
「その代り、10年後、営農組合長兼販路開拓部長やぞ!引き受けてくれるな?」
「えっ!ダ、ダ、ダメです!絶対!そ、そんな!」
「ハハハ!冗談、冗談、話やないか」
「・・・・・」
「県大会もそうやけど、代表になったら花園にも応援に行かんなんな!」
「そやそや、行かんなん!バスに乗って酒飲みながらみんなでワイワイ行こまいか!」
「ありがとうございます」
「その花園っていつあるが?」
「12月の最後の方です」
「最後の方って?」
「ホントの最後です。28日くらいからです。いつもうちらが夜警している時期と重なります。はい、そうなったら残念ながらボク夜警に出られないかもしれません。皆さん、寒い中遅くまで大変でしょうがで頑張ってください。ククク・・・」
「ほぉ~、そんな嫌味を言うか? そっか、そのあたりか・・・うん、いいないか!今年の夜警は花園でしよまいか!」
「おっ!それいいねぇ! 拍子木持って花園の町練り歩こまいか」
「じゃあ、ホントの年末警戒どうするがですか!」
「そんなもん、花園から母ちゃんらちに “火の用心” って一斉メールでも送っとけ!」
「ところで花園ってどこにあるが? 京都やったっけ?」
「大阪です」
「大阪! 大阪のどこ? 難波とか近いがか?」
「はい、難波まで電車で20分もかかりません」
「そっか!そんなら、夜警は難波でするか!」
「難波!いいねえ!」
「なあ! 花園でラグビー見て、その日の夜は難波で夜警を兼ねた反省会や!」
「つまり、 “花園ラグビー場” から “夜の花園” に移動するわけですね?」
「おっ! うまいこと言うないか! そういうこっちゃ!」
「ところでチームはいつ大阪入りするが?」
「まだ県大会で勝てるかどうかわかりませんが、もし勝ったら開会式の2,3日前に入って調整すると思います」
「ほう、そうか。子供らを日中の練習で疲れさせて、監督やコーチたちは大阪の夜を満喫しよう!いう魂胆やな」
「そんなことするわけないじゃないですか!ラグビーは紳士のスポーツですよ。夜は冬休みの課題をさせたり、ミーティングや相手チームのビデオ研究とか、することいっぱいありますよ!」
「なぁ~ん、わからん。そんな行儀のいいこと言うて油断させて何しとるかわからん!・・・そや、おらっちゃも前泊しよまいか!」
「前泊?」
「そや、前泊や! 前泊して俺らも事前にラグビーの勉強せんなん!」
「ほう! ラグビーの勉強!」
「そや! 前泊はもう一つの “夜の花園”、北新地や! 紳士の社交場、そこでタックルの練習や!」
「秘密の花園・夜の猛特訓! ちゅうわけやな。なんかだんだん面白なってきたな」
「よっしゃ!それで行こう!みんな、今から毎月積み立てして軍資金たくさん用意せんにゃ!」
「おう! おらっちゃ、こんだけお前のこと心配して応援しとるがいぞ! わかっとるな! 県大会絶対勝てよ! 勝てなんだら夜の花園招待全部お前持ちやぞ! わかっとるな!・・・なっ!」
「・・・・・・・」
ど田舎の夜の宴は明るく、そしてどこまでもバカバカしく下品に盛り上がっていく・・・。
後日談・・・
① 県大会決勝は地元の祭りと同じ日に。以前「みんなで応援に行く」と言っておきながら誰も応援に行かず・・・。監督は、早朝、必勝祈願のお参りをして出陣、試合後は高速に乗って宮司さん、地区の氏子が集まる神社に駆けつけ優勝報告、そのあと祝勝会の会場へと大忙し
② 県代表のお祝いのスクラムマシンの話は誰もとぼけて切り出さず、JAの横断幕の話もどこへ行ったのやら ただ、誰かが動き、行政センターには「祝 花園出場!」の垂れ幕がかけられた
③ 12月21日は地区の師走大祓い。監督と息子二人(選手)が玉串料を供え必勝祈願をしてチームは24日に花園へ出発
④ 行政センター長が音頭を取り、一回戦は応援バスを用意、地元有志もそれに便乗。12月28日 朝4時出発、夜7時帰宅。もちろん難波や北新地の花園には立ち寄らず
⑤ スポニチ(スポーツ新聞)にはホントに「秘密の花園」というコーナーがあって出場ラグビー選手の裏話が記事にされている。お色気はなし!
⑥ 我が県代表チームは1回戦 15-12で逆転勝ち! 2回戦は0-59で完敗
⑦ 新春の地区の寄り合い、その酒席で
「お前な、どうして1回戦勝てたか、その理由わかっとるがか?」
「えっ?ちゃんとお宮さんに参ったからですか?」
「そや!その通り!そんなら2回戦何で勝てなんだがかわかっとるがか?」
「えっ?・・・そんなこと言われても・・・」
「それはなぁ、玉串料が少なかったからじゃ!」
2015年1月
※1 近鉄花園ラグビー場
国内有数のラグビー専用球技場であり、全国高等学校ラグビーフットボール大会の会場としても知られ、同大会は「花園」との通称で呼ばれている。
2015年からは東大阪市が所有、現在は「東大阪市花園ラグビー場」という名称になっている。
※2 難波
通称ミナミと呼ばれる歓楽街
※3 北新地
通称シンチとかキタとか言われる歓楽街
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