どいつもこいつも

 長男テツオ(大2)がまたやらかした。地区の婦人会で、この夏、隣町の大学生が軽トラを田んぼに落としたことから、同世代の子供を持つ母親がそれぞれ我が子の運転に不安を抱いた。そういえば、昨年、4ヶ月もかけて自動車学校を卒業したテツオが車を運転したいというのを聞いたことがない。

「本当は免許まだ取ってないがでない?」

と同級生のお母さんがつっこむ。

「まさか~」

とその場では言ったが、ふと頭を過るものがある。翌日、嫁ヨシエが友達に会うついでにテツオのアパートに立ち寄る。

「保険の関係で免許証のコピー必要やからちょっと貸して」

「・・・すみません・・まだ取っていません・・・」

 最後の運転免許センターでの試験に1度失敗してそれきりになっていた。さらに単位を3つ落としていることも発覚、帰ってくるなり、

「大体アンタが自己責任やちゃ、なんか言うとるからこのザマやよ!どーするがけ!4年で卒業できなんだらどーするが!」

 そのあと友達と会い10時から16時までファミレスで散々愚痴ってきたからこの程度で済んで助かった・・・。

 久しぶりの我が子のアパート、そろそろ寒くなってきたからと自宅からこたつ布団を積み込み、賞味期限の長い食品と野菜を紙袋に入れ、その上今月末には友達と北海道に行くと言っていたので1万円札の入った封筒をバッグに忍ばせていた。このバカ息子にここまで気を遣っていたアタシがバカだった。もちろん封筒はしまったまま、それどころか、アパートを解約して自宅通学をさせようかという話になる。さらには勉強する気がないなら退学してもかまわない。

「こんなあほらしいヤツに授業料振込むこっちがバカやわ」

 それにしてもテツオにはあきれた。自分を律することができていない。聞くところによると、最近のお母様方は毎朝電話をかけて子供を起こしたり、夏の準備、冬の物資をこれでもかというくらい宅配便で送る。たまにアパートに寄れば冷蔵庫が一杯になるくらい食料を入れてくるらしい。アホか!と思っていたが、どうやらゆとり世代はここまでしないと落ちこぼれていく輩が多いのかもしれない。

「わかった?アンタ! ウチ以外はみんな子どもに手間かけとるが。ウチは異常なが!どっかアンタの周りのお母さんたちにも聞いてみられ!」

「・・・はい・・・わかりました・・・・・そういえばやっぱりそうかも知れんわ。オレの知っとるとるピアノの先生、毎日五時半に起きて子どもの弁当作っとる言うとったもん。冷食なんか食べさせんがいと」

「・・・なんけ!アンタ、私の作っとる弁当になんか不満でもあるがけ?・・・あん?」

「・・・イヤ・・・そう意味ではなくて、どこのお母さんも一所懸命や、いうことを・・・・」

「その話と弁当と何の関係あるがけ!」

「・・・・イヤ・・・・別に・・・・いえ・・・・」    

「テツオばっかりでないよ、カズヤ(次男高3)もそろそろどうにかせんにゃ!本当にどこ受験するつもりながかも知らん親なんかアタシらだけやよ!ちゃんと向き合って話せんなんがでない?」

 先日、書店の平置きで話題の「学年ビ※1  リのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(坪田信貴著)を見つけパラパラと立ち読みした。アイツにこの素直さの十分の一でもあったら・・・。

 同じくらいの才能ならより効率よく学習した方がいいに決まっている。みんな“合格”を手に入れるために環境が許す限りの手段を使い、もがき、髪の毛一本でも抜け出したいと思っている(モリタは髪の毛一本でも抜けたくない・・・失礼しました)。

本当にその大学に行きたいのなら学校の先生が嫌いでも、親子の確執があっても利用できるものは全て利用すればいいではないか。余程買ってカズヤの部屋の机にそっと置いておこうかと思ったが・・・待て待て、親が揺れてどーする。せっかくここまで静観しているのに今動いたらそれこそ積み重ねたプレッシャーが全て崩れるのでは?

考えてもみよ、当たり前だが、この本が出版される前にも志望校に合格した人は数えきれないほどいる。つまり、この本を読まなければ合格できないというわけではないが、中にはこの本との出会いが良い方向に向かうケースもあるかもしれないという程度だ。やめた、やめた!落ちるなら落ちろ!

① 知識や品格で摂理を悟ることができる人がいる

② 失敗することでしか悟れない

③ 失敗を重ねないと悟れない

④ 失敗を重ねても悟れない。

所詮我が家の系統は③か④・・・、大人をナメているカズヤにも必要な試練だ。受験まで、いや、合否が出ても静観すると決めた。

 最近はヨシエも走っている。「カズヤも頑張っとるがいから(部屋に明かりが点いているだけでどこまで集中しているのか疑問はある)アタシも頑張らんなん」と言っているがじっとしていると愚痴しか出てこないのでそれを紛らわすために汗をかいているとしか思えない。

 モリタも負けてはいられない。よーし、今年の冬こそはスキーの大会で上位入賞を目指す。短時間で負荷をかけるためランニングマシンも傾斜をつけ、そのあと筋トレで全ての部位を鍛える。子供の受験に負けず、モリタもきっちり狙いを定め過去最高の成績を手に入れよう。その地道な後ろ姿こそ子供たちにとって最高の発奮材料になるはず!と言ったら、

「誰もアンタの後ろ姿なんか見とらんし!」


                                2014年11月


※1 ビリギャル

2014年、年間ベストセラーランキング総合4位になり映画にも。

高2の夏に学年ビリ、学校からは人間のクズと罵られていたある女の子が、ひとりの塾講師に出会い、偏差値70の超難関・慶應義塾大学現役合格を目指すことになる物語。

2015年5月映画公開


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