積極的平和主義

 モリタの父は昭和5年生まれ。時代背景もあるかもしれないが父が家事を手伝っているのを見たことがない。

 男とはそんなもの、と疑うことなく大人になったが結婚して間もなく当然のように徹底的に矯正されることになる。嫁ヨシエのことをよく理解できていなかったモリタは抵抗することが無駄と気づくまで十数年、その間、屈辱感を味わいながらも自問自答を繰り返し、夫婦とは?男女とは?子供に与える影響は?さまざまな哲学的考察を重ねた。

 そんな紆余曲折を経て今年の6月、20周年を迎えることができたことは感慨深いものがある。

 現在では洗い物・料理・掃除、いろいろ手伝っているが、以前のような葛藤はない。甘んじて受け入れるのではない、むしろ進んで取り組んでいる。どのような人生観の変化か?これには二つの本の影響がある。たまたまであるが2冊とも著者は永六輔※1  氏。一つは『二度目の大往生』という本の中で、氏が小学1年の時、お父さんから

「明日から家の前を掃除しろ」

と言われ、早く起きてうちの前を掃除して、ついでに張り切ってお向いの家の前も掃除したらそこのおじいさんに

「おれは毎日お灯明を上げて家ン前を掃除してお茶を飲んでという手順があるんだ。余計なことをするな!」

と叱られた。そこで翌朝は道のちょうど真ん中で区切ってきれいにして水も打ったらそれでも

「この掃除の仕方は気に入らねェ!」

と叱られた。

「もうちょっと俺ンちの方へ寄れ!俺もお前ン家の方へちょっと寄って掃除をする。そうすると道の真ん中は俺とおまえが2人で掃除したことになるだろ?その真ん中のきれいになったところをよそから来た人に歩いてもらおう、とこういうわけだ」

という話。

 もう一つは『夫と妻』という本で紹介されている

「あなたね、女房だと思うから腹が立つんです。どこかの見知らぬ女だと思えばいいんです。どこかの見知らぬ女が、炊事、洗濯、そのうえ、いっしょに寝てくれる。これには頭が下がりますよ」

と誰かが言った言葉。

 この二つの事例が時々窮地を救ってくれた。 すなわち“積極的※2  平和主義”の探求とその実践。

 一つ目は、協定は必ずしも平和と安定を約束するものではないという事。常に境界線付近が紛争の勃発地点になってしまうことは国家間も夫婦間も同じ。決して明確に割り当てをしない、あくまで自主的にというスタンス。

 二つ目は「思うようにならない=我慢する、屈する」という概念から自分を解放してやるということ。人間の中には変わる(変えられる)部分と変わらない(変えられない)部分がある。その変わらない部分にいつまでもしがみつくのは非現実的、非建設的と考える。結果、家事も“自立支援プログラム”と位置付けることで未来が絶望から希望に変わったのである。

 料理ができれば健康管理につながる。掃除ができれば身ぎれいに清潔感を保つことができる・・・ということは・・・一人になっても怖くない。さらに攻めの気概を持てば、将来、今どきの若いオネエチャンとも波長をシンクロさせ再スタートを切ることができるのではないか!?

 世の中にはモリタと同じ境遇のお父さんも大勢いると思う。でも卑屈になる必要はない。感謝しようではないか。そして攻めようではないか!今にみておれ、恩返しだぁー!・・・違った、倍返しだぁー!・・・・・・・お父さんたちのシュプレヒコールが聞こえる。


 先ほどの逆のパターンも作ってみました。質素な頭部、贅沢な腹部、面倒くさい小言に上がらないうだつ、トキメキなんて間違ってもないけれど・・・・・

「あなたね、亭主だと思うから腹が立つんです。どこかの見知らぬ男だと思えばいいんです。どこかの見知らぬ男が、会社勤めをして毎月幾何かの生活費を入れてくれ、時には家や車も買ってくれる。そのうえ、生ごみを捨ててくれたり、高い所にある電球を交換してくれたり・・・・・頭が下がりませんか?・・・」


                                 2014年7月


※1 永六輔

日本のラジオ番組パーソナリティ、タレント、随筆家。放送作家、作詞家。モリタは中学生くらいの時、著書『貴女と二人で』に感銘受ける。


※2 積極的平和主義

防衛官僚の久保卓也が1977年に用いた。

第二次安倍内閣で用いられる「積極的平和主義」

他方、現在、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることや、我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面していることに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、より積極的な対応が不可欠となっている。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。

これらを踏まえ、我が国は、今後の安全保障環境の下で、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。このことこそが、我が国が掲げるべき国家安全保障の基本理念である。


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