嫌われて結構

 実は相当拍車がかかった状況になっている。

 いよいよ12月からは以前にも増して家族と顔を合わせようとしない。全ての食事は深夜の自炊、あるいは外食かコンビニで調達? 洗濯は3km離れたコインランドリー、元旦の朝も部屋から出てこないという完全に家庭内別居。嫁ヨシエのことではない、次男カズヤ(4月から高3)が、である。

 以前も書いたが携帯も小遣いも要らないというのは継続中、今年に入ってからは成績表や学校からの通達を一切見せず、当然、模試の結果も自分で処分してしまうので進路についても何を考えているのやら・・・。

 昨年末にはモリタの父のオー○○イで深夜の外出、それをたしなめても

「反省する気ないし」

とほざき、社内でこのことを打ち明けると

「部屋から“尾崎豊※1  ”が聞こえてきませんか?」

と悪ノリされる始末。

 不良の気持ちは元不良が一番良く解る。社内の“T”に尋ねると

「何を言っても聞かない時期ですよね。親の威厳を見せる時ではないですか?」

「やっぱり取っ組み合いした?」

「素面ではなかなか言えませんが・・・」

「何か変わった?」

「親父を入院させました。そんなことがあってから少し大人になり始めました」

・・・ということは入院覚悟で向かって行けと?・・・でも、勝ったらどうなる?さらに関係が悪化するのでは?・・・つまり、やっぱり、負けることを前提に向かって行くことになる。

 卑怯なことではない・・・向こうの土俵ではなく、こっちのステージにおびき寄せ、勝てる喧嘩をするのは世界の常識。ひるまない、揺るがない、したたかに、しなやかに・・・。テキに腕力という武器があるならこっちは経済・食糧・住居という外交カードがある。さてさてどんな展開になっていくのやら。いつまで、そしてどこまでその了見が通用するか・・・楽しみにしてやろうじゃないか。

 でもモリタの父は悩んでいる。一時は夜も寝られなかった様子。さらにヨシエの実家のお母さんからも心配の電話がかかる。長男ばかり甘やかしたからではないか?お金に厳しいことを言っているからではないか?雪が降っても学校まで車で送って行かないから気持ちが荒んでくるのではないか?・・・言い出したらきりがない。

 さて、日本中で親に不満を持っていない高校生ってどれくらいいるのだろう?事なかれお人よし的な友愛外交が互いの発展に結びつかないことは歴史が証明している。また、いわゆる“世の中で成功している人、尊敬されている人”の共通点が「話の分かる親に育ててもらった」というのも聞いたことがないし、親を見て「こんな人間にだけはなりたくない!」と頑張った人がモリタの周りには沢山いる。

 ずっと以前、ラジオの“小沢昭※2  一的こころ”で聴いた貝原益※3  軒先生の『養生訓』にも 「小児をそだつるは、三分の飢と寒を存すべし」と書かれている。さらに「俗人と婦人は、理にくらくして、子を養ふ道をしらず、只、あくまでうまき物をくはせ、きぬあつくきせ、あたゝめ過すゆへ、必病多く、或(あるいは)命短し。貧家の子は、衣食ともしき故、無病にしていのち長し」とあるが、これは言い過ぎか。

 牙のない人間に育てていつ自立させる?

 嫌われて結構!自分も親を「好き」と思いながら育った時期はない。アレしてくれない、自分をわかってくれない、もっとお金のある家に生まれたかった・・・。

甘えるな。もうそれで進行しているのだからもがきながらでも建設的に前進するしかないではないか。それで道を踏み外すくらいなら、この先、社会のお荷物になるのは必至、会社に入っても「上司が悪い・社風が気に食わない」と好き勝手言うこともできる。

 さらに言えば、世界の中の日本という国に生まれて格差や生まれた環境を社会や家族のせいにするなんて思い上がりも甚だしいことは「世界が※4  もし100人の村だったら」を読めばこれでもかというくらい痛感させられる。

 おそらくカズヤは解っている。モリタの父に「若い時の貧乏は大人になったときの宝物」と言っていたらしい。17年間で浸み込んだ反骨心、自尊心、美学が自らを追い込んでいる、とモリタは推察しているがはたして的中しているかどうかはわからない。


                                 2014年3月


※1 尾崎豊

日本のミュージシャン

10代のころは「社会への反抗・疑問」や「反支配」をテーマにした歌を多く歌い、マスメディアからは「10代の教祖」などと呼ばれた。

1992年、26歳にて死去。


※2 小沢昭一

俳優

ニッポンの中年お父さんの代弁者みたいな人。俳優で早稲田大学で一緒だった加藤武さんと大隈重信侯の銅像前で、将来はお妾さんを持とうと誓い合ったらしい。ストリップとソープランドにも造詣が深い。野坂昭如、永六輔と「中年御三家」を結成し、1974年(昭和49年)の武道館でのコンサートはビートルズ以来と言われるほど盛況だったらしい。

小沢昭一の小沢昭一的こころ (TBSラジオ、1973年1月8日-2012年12月14日)

終盤は色っぽい話が影を潜め、個人的にはやっぱり面白くない。モリタが所有していたカセットブックの第11巻、「霜焼けについて考える」が秀逸。この番組はモリタに多くの影響を与えた。


※3 貝原益軒

日本のアリストテレスと言われた江戸時代の学者


※4 世界がもし100人の村だったら

アメリカのドネラ・メドウス教が1990年、「村の現状報告」と題し、世界をひとつの村にたとえ、人種、経済状態、政治体制、宗教などの差異に関する比率はそのままに、人口だけを1000人に縮小して説明。これがネットを介して、100人に人数が減り流布。

日本では、2001年、中野裕弓が日本語に訳し翻訳家の池田香代子とC・ダグラス・ラミスが再話し、マガジンハウスから出版。









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