テツオ×高3の夏

 長男テツオ(高3)の部屋は2階の西日がまともに差し込む場所。昨夏エアコンが故障したとき、いくらなんでも暑かろうと親心で新調したところ、部屋の照明と冷房をつけっ放しにしての熟睡を何度も繰り返す。それも机にうつ伏して鉛筆をにぎったままの姿勢なら温情も湧くが、机の上はスベスベ、本人はベッドで布団をかぶっているというありさま。今年の1学期の成績も涙が出るほど情けなく、頭にきたモリタは、このままではいけないと一計を思いついた。

 本当に目標をもって勉強している高校生は自分に厳しい。自宅ではついつい怠けたり誘惑に負けたりするので夏休みでも制服に着替え自主的に学校の教室や図書館で勉強することで自分を追い込む。

 そうだ、布団が※1  あるから寝るのだ。テツオがいないうちにベッドを処分する。それだけでは床で寝てしまうので空いたスペースに画びょうをばらまく。遅れを取り戻すにはこれしかない!と受験生を育てた人に打ち明けると

「ちょっと、いくらなんでも・・・」

と言われ大幅に譲歩して、この夏エアコンの使用を禁じ、そのコンセントを抜きリモコンを取り上げた。

 しかし、冷静になれば所詮自分の子ではないか。できる子に育つワケがない。そして、こんな仕打ちをすることが成績向上や自戒、自立に効果があるわけではないことは百も承知だが、たとえ父子関係が崩壊しても天誅を下さねば気が済まない。

 案の定、当人は拠点を比較的涼しい1階の広間に移し、相変わらず緊迫感がなく、高3だというのに夏休み中もゴロゴロしている。


 そんなある日の夕食、

「そうそう、モトヒサ(甥・高1)こないだの模試の偏差値56やったと」

「へぇ~、このままキープできれば国立の○×大くらい狙えるね」

「うん、頑張っとるね」

「ごちそうさま」

「何 急にいそいそしだしたが」

「はぁ?食い終わったから広間に行くだけやろ。そっちこそ何言うとるが。うっせー、ババァ!」 

 このように母子関係はさらに悪循環に向かうが、ヨシエも頭に浮かんだことは口に出さずにはいられない・・・。 

 親子の確執は当分続きそう。


                                 2012年8月


※1 布団があるから寝る

これは作家の中谷彰宏さんが高校生の頃、ほとんどベッドで寝ないで机で寝ていた、と本に書いておられたのを引用。。

『中谷彰宏の時間塾』

サンマーク出版

38頁参照

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