砂時計の王子 ~episode of odum〜
まこちー
序章
(このエピソードは『砂時計の王子』本編を読んでからお読みください)
(『砂時計の王子 2』は未読でも楽しめます)
~3020年前〜
進化の先にない生物。それは突然生まれた。
一匹の小さな魚だった彼女は、海の魚たちの声を聞いて、思考を得た。言葉を得た。
「私、陸に行きたいわ」
彼女はある日、海から顔を出した。
「わぁ……」
果てしなく続く、大陸。
彼女は浜辺を足で歩く。腕を大きく広げ、風を感じる。
「すごい!すごいわ!」
大陸には森があり、崖があり、丘があり、砂漠があった。
夢中になって大地を駆ける。小石に足をひっかけて転ぶのも、足の裏が地面に擦れるのも、彼女には新鮮な刺激だった。
「世界って広いのね……」
犬が、猫が、鹿が、狐が、小さな虫が、大きな虫が、木の一本一本も生きている。皆彼女を祝福していた。声が聞こえた。
「オー……ダム……オーダム……。えぇ、私の名ね」
大陸の声は彼女を『オーダム』と呼んだ。
「私はこれから生まれたのよ。だから、これも『オーダム』と呼びましょう」
水を手のひらで掬って微笑む。
「あぁ……なんて嬉しいのかしら!私もあなたたちと同じ、この世界で生まれた、この世界の子なのよ。それがとても嬉しいの」
彼女は大陸でたった一人の魔族として動植物の命と共に暮らした。
彼女は不思議な力を宿しており、動物を撫でただけで傷を癒すことができた。
大陸は彼女に護られ、彼女を護っていた。
彼女が陸に上がってから1000年の月日が流れた。
一隻の小舟が東の浜辺に流れ着いたのだ。
砂時計の王子 ~episode of odum〜 まこちー @makoz0210
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