第23話 一刀斎との決闘

 新右衛門が身なりを整え、自斎の館に1000日行の終了を伝えに行くと、そこには伊藤一刀斎が訪ねて来ていた。


「新右衛門、よくやったぞ! これでお前も免許皆伝だ!」


 自斎は新右衛門が無事に1000日行を終えたことを喜んでくれたが、隣に座っていた一刀斎が口を挟むように話しかける。


「新右衛門、少しは強くなったか? そういえば、小次郎は宮本何某とかに敗れて死んだぞ! あいつもその程度だったということだ。お前も小次郎みたいにならないように俺が腕前を見てやろう!」


 一刀斎は1000日行を終えて鐘巻流の免許皆伝となる新右衛門を打ち負かし、自らの強さを知らしめたいという気持ちで新右衛門を挑発するのであった。


「一刀斎、やめんか! 新右衛門も勝負を受けなくてもよいのだぞ!」


「弟子が弟子なら、師匠も師匠か、臆病者はこれだから好かん」


 一刀斎は性格はともかく、剣の腕前は一流の大剣豪と言って過言がない。

 しかし、せっかく1000日行を終えた愛弟子を自斎は潰されたくなかった。


「一刀斎殿、わかりました。この海岸の近くにちょうどよい無人の島がある。そこで勝負致しましょう!」


 新右衛門の言葉を聞いて、一刀斎はしてやったりとニヤリとし、早速、勝負がしたいと言い出し、自斎を立ち合いにすることになり、三人は島へと舟で向かった。


「新右衛門、一刀斎は口は悪いが、剣の腕は確かだぞ! 今からでも詫びを入れてやめても恥ではないぞ!」

「父上、大丈夫です」


 新右衛門は舟をこぎ、島に着くと、一刀斎に木刀を渡した。


「一刀斎殿、舟が流されぬように岩に括りつけたら、参ります故、先に降りて待っていてください!」


 新右衛門は一刀斎を先に島に降ろすと、舟を岩に括りつけると言って、自斎を乗せて舟を漕ぎだした。


 一刀斎は島に降りると、砂浜で素振りを始めるが、一向に新右衛門が現れないので、海を見ると、新右衛門と自斎が乗った舟は島からどんどん離れていく。


「我が流は無手勝流、一刀斎殿、戦わずして勝つ、これこそ究極の奥義である!」


 新右衛門は島に取り残された一刀斎にそう言うと、大声で笑い、茫然と新右衛門を眺める一刀斎を島に置いて、元来た海岸に向かって舟を漕いでいくのであった。


「新右衛門よ、あんな奥義を極めていたのか」


 そう言うと、自斎も新右衛門を見て、大声で笑った。


「1000日行で『一之太刀ひとつのたち』という奥義を修得しましたが、それを上回る奥義を父上にお見せしたかった。俺はもう一刀斎に勝つということなどどうでもよい」


 自斎は新右衛門が一回りも二回りも成長して戻ってきたことを実感した。


 このあと、新右衛門は有力大名に取り立てられ、剣術指南役を務めた。


 そして、新右衛門が剣術を教える道場の掛け軸の前には、冬になると決まって、椿の花が生けて置いてあったとのことである。


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椿姫(中世の剣豪が異世界で鬼の王女の用心棒に!) 888 @kamakurankou1192

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