その2

「わかった。じゃあ、明日から儂のところへこい。いろいろ教えてやろう」


 あらためて俺を見ながら、ありがたいことを言ってくれた。


 その日の会合は、これで終わりだった。サリー姉ちゃんもそれ以上は何も言わず、そのまま天界に帰る。瞬間移動で簡単に行き来できるんだから便利なお方だ。


 それで翌日。


「人間の姿になる方法なんだがな。変身魔法を使う方法と、魔力で無理矢理に身体を圧縮させて人間の姿になる方法の二種類がある」


 俺が族長のところへ行ったら、さっそく族長が説明をはじめた。


「で、儂は魔力で無理矢理に身体を圧縮させる方法しか知らんから、それを教えるぞ」


「わかりました。――あの、質問いいですか?」


「なんだ?」


「どうして族長様は変身魔法を知らなかったんでしょうか?」


 これを訊いたら気分を悪くするかな、と思ったが、想像通り、族長が少し困ったような表情になった。


「ふたりきりのときはお爺ちゃんって呼んで甘えてくれてもかまわないんだがな」


 質問とは無関係なことを言ってきた。俺が考えていたところとは違う点でおもしろくなかったようである。


「それをやると、正式な会合のときにもうっかりでるから普段から控えておけって親父様に言われましたので」


「硬い奴だな。まあいいか。それで変身魔法の件なんだが、実を言うと、若い連中が魔力を体系化して、術式を組み立てて、効率よく人間に変身する魔法を考えだすよりもずっと前から、儂は魔力で身体を圧縮させて、人間の姿になって社会見学をやっとったんだ」


「あ、そうだったんですか」


 族長のほうが先だったのか。感心して返事をする俺の前で、族長が話をつづけた。


「儂も最初のころは、人間と共存できないかと思っとった時期があったんでな。いまはもうあきらめたが。それに昔、変身魔法で人間の姿になった若い奴と、魔力で身体を圧縮させて人間の姿になった儂とで、軽く組み合ってみたことがあったんだが、そのときの経験で言うなら、魔力で身体を圧縮させて人間の姿になるほうが絶対にいいぞ。変身魔法に頼るより、身体が何倍も頑丈になる。いまは誰もやらんような古臭い方法なんだが、やり方を覚えておいて損はないはずだ」


「わかりました。で、魔力で身体を圧縮させるにはどうやればいいんですか?」


「まずは魔力をあげることだな。だから日光を浴びて、風にあたって空を飛びまわって運動しろ。そうすれば身体のなかが熱くなってくるから」


「――は? それだけでいいんですか?」


 俺はちょっと驚いた。太陽光発電とか風力発電みたいである。身体のなかがそういうメカニズムになってるんだろう。ドラゴンの身体ってのは便利だな、と考えている俺に、族長が笑顔でこたえた。


「時間はかかるかもしれんが、何事もコツコツやっていればできるようになる」


「わかりました」

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