第2話『ふたりの距離を感じ取って』
一緒に学校へ行って、学校が終わったら日が暮れるまで一緒に遊ぶ。日が暮れたらそれぞれの家に帰って夜を過ごす。次の日の朝もまた同じように一緒に学校へ行く。この
私の
フェネルが
何かが
もちろん友達と一緒に遊ぶのは楽しい。楽しいんだけれど何かが違う。色々遊んで、楽しんで。それが終わったら別れて自分の家に帰る。それはフェネルと変わらない。何をして遊ぶのかもフェネルと変わらない。でも、ひとつだけ違うことがあった。
他の友達と並んで、歩くことがなかった。
私はいつも友達の少しだけ後ろを歩いてた。その友達にだって友達が居るわけで、その友達の友達は私よりも仲がいいことが多かった。だから、そのふたりから
だけれどフェネルは違う。一緒に移動するときも、集落にある無数の階段を上り下りするときも、フェネルはいつも隣にいた。フェネルだけは私の隣に居てくれた。フェネルが他の友達と一緒に居ても、私の隣に居てくれた。
それに、フェネルと一緒に居ると不思議と何でも楽しかった。
いつもは
私が
そんなフェネルと学校を卒業しても毎日を一緒に過ごす。次の日も、その次の日も。一緒に過ごす。
フェネルはずっと、私の隣に居る。
そんな日々が続くと信じていた。……信じていたかった。
でもそれは長く続くことはなかった。私たちが13歳になる年の
フェネルから『私、
そう告げられた
『私も、
『なんで……? 反対されたのに、寂しいと思ってるのに。なんでそこに行くの?』
『……そりゃあ、きっと楽しいことが待っているような気がするからだよぉ』
フェネルはいつもそうだ。楽しいと思っていることをやりたがろうとする。突っ込んでいこうとする。そして、誰が止めてもやってしまう。私が止めたとしても、それは変わらない。フェネルの意志は強くて簡単には変えられるものではない。それを私はとてもよく知っている。
『もう、戻ってこないの……?』
フェネルが遠くに行ってしまう未来は変えられないし、何を言っても変わらない。
『……絶対、戻ってくるよぉ。いつになるかは、わからないけどねぇ』
――いつかは戻ってくる。
親の反対を押し切ってまで、その
フェネルがいなくなってからの1か月は、心にぽっかりと穴が空いてしまったような
流れゆく日々の中で、新しい日常の中で。私の日常から消えてしまったフェネルという存在は、新しい日常に上書きされて少しずつ
一緒に重ねたはずの、昔の日常も薄れていった。
『いつかは戻ってくる』その言葉だけを強く残して。石に刻んだように私の心から消えない文字として。
でも、その頃の私は何も気にしていなかった。……いや、違う。その時の私は、平穏を取り戻すことで精いっぱいだった。
平穏さえ取り戻せればよかった。
実際にそれで、フェネルが居ないことだけが違うかつての日常が戻ってきた。毎朝6時前に
1年前に、フェネルが戻ってくるまでは……。
○ ○ ○
1年前の
フォレスフォードに戻ってきたフェネルは真っ先に私に会いに来てくれた。今日のように箒で空を飛んできて。
最初は驚いた。だけれど、同時に安心した。フェネルの
その時も今日と同じように一緒に螺旋階段を下りた。その時からだ、この
5年前と何かが違う。何が違うのかわからなかったけれど……。
私が知っているのは12歳までのフェネル。18歳のフェネルがそれと同じ訳ないか。多分、それが違和感の正体なんだろう。そうやって納得した。納得できてしまった。
○ ○ ○
1年前に思った違和感の正体は、きっと間違いだったんだろう。1年前から
この時からフェネルは私の隣に居なかったんだ。ずっと隣に居ると思っていた私は、隣に居ないフェネルに気付けなかったんだ。もう一緒に階段の同じ段を
そう思った私はもう一度後ろを見る。そこには明確に、1段分の
空いた隙間は、どうやって埋めればいいんだろう……?
「おぉー。そういえばこんな場所、あったねぇ」
フェネルの一言で私は我に返る。前を見ると
2人で休憩場所に入るのはいつ
部屋に入ると、フェネルはテーブルに箒を立て
テーブルの上には部屋の光に照らされたランタンが置かれている。それが大切に使われているのはすぐにわかる。
その持ち主の方を見ると、相変わらず窓に張り付いたまま大樹海を
色々と考えて贈ったランタンだけれど、私とフェネルの間に距離が縮まったわけじゃない。大切にしているのはわかるけれど、私はそれ以上のものを求めているのかもしれない。……いや、求めている。
「どうしたら、そこに行けるの……?」
小さな願望と疑問が入り混じった言葉が
フェネルの近くにあるランタンが
私は水泡が生まれ始めた鍋の水を見ながらランタンを作った時のことを思い出す。フェネルに近づくためのヒントが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます