第20話 5月4日 幼馴染み(2)
「ヒナ……?」
俺の下腹部をさする手は震えていて、ヒナの肌からは一気に汗が噴き出していた。
綺麗な白い背中の下には、お尻の形がくっくりと見えているし、両足の間はしっとりと濡れているようだ。
ヒナの女の子としての香りが強くなり、狭いところに二人いるというシチュエーションに興奮してしまう自分がいた。
ヒナの手による刺激が心拍数をあげる。身体の中心に益々血液が集まってくる。
「あっ……さらに硬くなった? ……これっ、タツヤは、私を女の子として見てくれるんだね」
少し嬉しそうに、恥ずかしそうにヒナが言う。
今まで俺たちは、まったく男女の関係を意識してこなかった。
タイムリープ前の今日、俺から告白することでそれがようやく変わったのだ。
変わったのに、そのあとヒナに距離を取られ……寝取られた。
今回は、ヒナの方から関係を変えようとしている。
こんな色っぽい……ハッキリ言ってえっちな体を見て、何も感じない男などいないだろう。
しかも、幼馴染み。一緒にいて苦にならない性格をよく知っている。
裸のヒナを後ろから抱き締めたい。固くなってしまったものを押しつけたいという本能的な欲望を我慢する。
「そりゃそうだよ」
「そうなんだ。全然気付かなかったな」
俺はもう一度須藤先輩との関係を正そうと思った。
前に聞いたときは関係ないと言ったけど、状況が変わったとしたら?
既に須藤先輩と繋がっていて、後で俺を嘲笑うためにこういうことをしていたら?
「なあ、ヒナ……前も聞いたけど——」
俺の声のトーンが変わったことに気付いたのか、ヒナの手が止まった。
そして俺の方を向き、言葉を遮る。ヒナが両腕で隠している胸を見ないように視線をさらに下げた。
「ね、タツヤ。大事な話なら……二人だけになるところに行かない?」
二人だけになるところ? どこだ?
俺の部屋かヒナの部屋か? ただ、家に戻るのはさすがに時間がかかりすぎる。
「いいけど、家に帰るのか?」
「ううん。この近く」
ヒナがハッキリと場所を言わない。いつものノリなら言いそうだけど、どうしたんだ?
ここの近くにはタイムリープ前、ヒナと須藤先輩が一緒に入っていったラブホテルがある……まさかな。
まあいいか、ヒナに任せよう。
「分かった。行こう」
そう言った俺は……視線の先にある、ヒナの水着を見てドキリとする。
自分で選んでおきながら際どい。特に下、パンツの部分が薄く……微妙にヒナのあそこの陰が——。
「あっ!」
俺の視線に気付いたのか、こっちに背中を向けるヒナ。
「も、もう……タツヤ、着替えるから……出てよぅ」
「お、おう」
俺は前屈みになりならが、試着室の外に出る。
☆☆☆☆☆☆
ショッピングセンターを出てヒナと一緒に歩く。
この方向は、例のラブホテルに向かっている。
川を越え、繁華街に入っていく。それを超えたところにラブホテルのビルがある。
「なあ、ヒナ……ここを知っているのか?」
「ううん、初めてだよ。でも……」
ヒナは首を横に振ってそれ以上言わなかった。
相変わらず、腕を組んできて胸があたる。さっきのヒナの裸に近い姿を見た俺は、前屈みにならずに歩くのに苦労した。
……そして。
あの悪夢のラブホテルの前に着いたけど……まさか?
「おい、ヒナ?」
「確かめたいことがあるの。少し前にね、夢を見たの。ここに来る夢を」
ヒナは俺にしがみつくようにくっついてきた。まるで怯えているように見える。
演技……?
いや、違う。
ヒナは今にも泣きそうな表情で、口をきゅっと閉じていた。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん……。その夢で……私は……」
そう言って、俺から目を背けた。
唇を噛んでいるのがわかる。とても辛い夢だったのだろうか?
俺たちは、恐る恐る中に入っていく。
狭いロビーらしき部屋があるけど無人だ。代わりに、20枚くらいのパネルがありそれぞれにボタンがある。
部屋を選ぶのだろうか? パネルとボタンが点灯している部屋と暗くなっている部屋がある。
どれがいいのか、分からないな。
俺たちが立ち止まっていると、一組の男女が入ってきた。
どっちも垢抜けていて、リア充って感じ。近くにある高校の制服を着ていた。
マジかよ。
高校生は入れないところもあるらしい。俺たちは私服だけど、このリア充たちは制服でどう見ても高校生に見える。
このラブホテルは何も言われないのだろうか。
俺たちはパネルの前からどいて、リア充男女に場所を譲った。
男はヒナを見てから俺を睨むようにして「こんなに可愛い子を……チッ」と吐き捨て通り過ぎていく。
やっぱ、ヒナって誰が見ても可愛いんだな。
部屋のボタンを押した。すると、
『201号室に案内します。エレベーターで2階に移動して下さい』
アナウンスが流れ、リア充たちはエレベーターに向かっていった。
く〜〜。リア充はこんなところ当たり前なのか……。
俺たちはパネルの前に戻る。
すると、ヒナは部屋のボタンに手を伸ばした。403号室だ。何かあるのだろうか?
しかし、403号室のパネルは暗くなっていた。空いていないように見える。
「あ……」
ヒナも同じように思ったのだろう。
単純に中に入りたいだけなら、他の部屋でも良いのだろうけど、ヒナは403号室にこだわっているようだ。
「タツヤ、あとで来よ?」
「うーん。ちょっと待って」
よく見ると分かったのだけど、403号室のボタンは暗いとはいえ点灯しているのだ。ひょっとしたらパネルの電気の接触不良?
俺は、フロントと書いてある受話器を手に取った。
「ちょ、ちょっと……タツヤ?」
ヒナが慌てているのを横目に、電話に出たホテルの人と話す。
「403号室って空いてますか?」
「えーっと少しお待ちください……。あ、空いています。パネル下のボタンを押して下さい」
「えと、空いてないように見えますが」
「なぜかその部屋はそんな感じになっているのです。本当に空いていないときは、ボタンを押しても反応しません」
そう言われ、俺は恐る恐る403号室のボタンを押した。
『403号室に案内します。エレベーターで4階に移動して下さい』
俺はヒナに「空いているみたい」と告げると、こくりと頷き、エレベーターに向かう。
不安そうに俺を見るヒナの目は潤んでいた。
ヒナに俺の腕をぎゅっと掴まれながら、エレベーターに乗った。
4階に着くと、廊下の奥に一つだけある扉まで来た。403号室と書いてある所が点滅している。
ここが例の403号室のようだ。
「入るよ?」
「……うん」
ヒナは不安げに頷く。
靴を脱いで部屋に入る。中は広く、ビジネスホテルの一室のような感じだ。
ベッドはもちろんのこと風呂もトイレもある。テレビも備え付けてあるし冷蔵庫まである。
「やっぱり……ここ……夢で見た——」
「ヒナ、どうした? 夢がどうしたの?」
「私、ここで……ここに男の人と一緒に入った……」
そう言うと、ヒナはその場に座り込む。目からぽろぽろと涙がこぼれ出した。
「ここ初めてなんだろ? お、おいっ! 大丈夫か!?」
思わず抱きしめると、ヒナはそのまま泣き出してしまった。
「夢なのに、すごくリアルで……先輩が……私を……いやっ」
「落ち着けって!」
ヒナは頭を抱えて、震え始める。
こんなヒナは見たことがなく、いつも楽しそうに天真爛漫な姿から想像できない。
俺はヒナを抱きしめたまま背中をさする。しばらくさすっていると落ち着いたのか、ヒナが顔を上げた。
涙に濡れた瞳を見ているとドキッとする。
「タツヤ……お願いがあるの……」
「何?」
随分真剣な表情をしている。
ヒナの顔がさらに赤くなったような気がした。
「……キスして……その後……私と……その、ここで……最後までして欲しい……」
「えっ!? どうして?」
「ダメかな? 今日ね、朝、夢で見て。すごくイヤで……でも消えなくて。消して欲しいの。こんなの、タツヤしか頼めない」
「どうして俺なんだよ?」
多分することは出来ると思う。
さっき反応してしまったし、欲望に身を任せれば今からでも。
でもいいのか? と思ってしまう俺がいる。
ヒナは少し躊躇った後、俺の胸に顔を埋めた。そして、囁くような声で声で言った。
「……タツヤなら……いいって思うから。だから、忘れられるまで……して。今日は大丈夫だから」
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