第19話 5月4日 幼馴染み(1)

5月4日(木・祝日)


 朝目覚めると、千照ちあきが俺に抱きついて眠っていた。

 千照はあれ以上おかしなことはせず、普通にして眠っているだけのようだ。


 前言撤回。千照の右手には、朝の生理現象を迎え固くなった俺の一部が握られている。

 なぜ?


「千照、起きて」

「ん〜お兄ちゃん……おはよう……ん? ……これ……あっ?」


 そう言千照は顔を真っ赤に染めると、慌てて俺から離れた。

 わざとなら一緒に寝るのはもう辞めようと思っていたのだけど。

 違うようだ。きっと偶然なのだろう。


「お、おはよーお兄ちゃん」

「ああ、おはよう」


 千照は俺に何か隠している様子も、トラブルに巻き込まれている様子もない。

 このまま元気にしてくれるといいのだけど。


 それから身支度をし、朝食を食べ終えのんびりと家を出る。ヒナとの待ち合わせは午前11時。少しゆっくり目だ。

 待ち合わせの駅に時間通りに行くと、すでにヒナがいた。


 今日は普段着ではなく、ちょっとオシャレしている感じに見える。オフショルダーのシャツにスカート姿でとても似合っている。

 タイムリープ前の今日と比べると少し垢抜けているように見える。

 胸の膨らみの上端から肩にかけて白く綺麗な肌があらわになっている。鎖骨も見えているし、背中も結構開いている。う、ちょっとえっちだ。


 ヒナってこんなに女の子らしかったっけ?

 身体のラインは子供のそれじゃなく、クラスの女の子たちと差がない。いや、むしろ胸が大きい分、より女性らしさがある。


「どうしたの? そんなに見られると照れちゃうんだけど……」


 少し頰を赤らめながら言うヒナにドキッとした。いや、こんなの。内面を知っていて、そこに魅力があることも知っていて、その上で可愛いと思う。

 過去の俺が好きになるのは分かる。というか、今のヒナは前以上に可愛らしく感じるのは気のせいだろうか? ヒナの何か変わったのか?

 例え、二股されて捨てられたとしてとしても、そう簡単に気持ちは切り替わらない。

 もっとも、この世界ではまだ、二股などされてないのだけど。


「ごめん。つい見とれちゃって」

「ふふ、ありがと。お世辞でも嬉しいな」

「お世辞じゃないよ。可愛らしくて本当に似合ってるし、大人って感じもする」


 俺の口から、するすると褒め言葉が出てきたことに驚いた。いや、特に褒めようとしているわけじゃなく本心でそう思う。

 優理には「私服かわいいな」くらいしか言えなかった。恥ずかしさの方が勝っていた。

 でも、ヒナには気兼ねなく言えてしまう。これが幼馴染みという関係なんだろうな。

 で、こう言うとヒナはバシンと俺の背中を軽く叩く。そして「またそんなこと言ってー!」っと笑うのだ。


 ——しかし。予想に反しヒナは顔を赤らめ俯き、瞳を潤ませた。


「えっ、あ、ありがとう……」


 んんっ? ヒナがおかしい。まるで恋する乙女じゃないか。

 タイムリープ前と比べて俺とヒナとの関係はほとんど変わっていないはずだ。メッセージもいつも通りだったし。

 違うとすると、昨日、モールで優理と一緒にいる所を見られたくらいだ。だけど、あの時は普通に話していた。

 俺はいつも通りのつもりだから、調子が狂うな。


「じゃあ、今日はとりあえずご飯食べて、その後はどうする?」


 そういえば、タイムリープ前はヒナの買いものに付き合って、いくつかのショップに出かけた。


「今日はね、服を買いたいのと、その後タツヤに一緒に着いてきて欲しいところがあるの」

「ん? そうなの? どこ?」

「えとね、そのときに言うね」


 イタズラ心で言っているのでは無く、俯き、言いづらそうにしている。

 気になるけど、その時まで待った方が良さそうだ。何か悩みがあるのかもしれないし、そのことが須藤先輩のことならなおさらだ。


 昨日は寝取り魔である須藤先輩との接触は無かったはず。だとしたら今朝何かあったのだろうか?

 だとしたら……慎重にヒナの様子を観察しないといけない。


 ☆☆☆☆☆☆


 俺たちは、駅近のショッピングセンターに入った。ここは昨日優理と行ったモールとは別の場所だ。

 市内にあり、建物は古いものの俺たち学生はよく遊びに来る。


 店内は俺たちと同年代の人が多い。家族連れも見かけるけど、やっぱり高校生が休日遊ぶ場所といえばここだ。

 ただ、やたらと視線を感じる。


「おい、今の子可愛くない?」

「チッ男連れかよ」

「あーあ。いいなあ、あの男」


 優理と一緒の時も視線は集めていた。でも、あっちのモールは家族連れが多かったのでここまでじゃなかった。

 やはりヒナは客観的に見ても可愛いのだろう。スタイルもいいし、モデルでも通用すると思う。

 そんな視線を浴びながら、フードコートで食事をとる。

 何気ない話をした。お互いの近況や出来事など。不思議と優理のことは聞かれなかった。


 お互いに食事を終え席を立つ。


「じゃあヒナ、ショップに行こうか」

「うん」


 ヒナは俺の腕を組んできた。ぴたっとくっついてくるので腕に温もりと柔らかな感触が伝わってくる。

 今日はやたらと距離が近い。わざと胸を当てられているような気がする。

 気を抜くと、いろいろ反応してしまう。こうやって意識してしまうところは妹と違う。


 そのまま腕を組まれたままエスカレーターに乗る。目的の店は二階にあるようだ。

 腕を組むと、さらに周りからの視線がキツくなったような気がする。


「……えと、ここ俺も入るの?」

「そうだよ。大丈夫、男の人も普通に入るから」

「マジ?」


 ヒナに連れてこられたのは、昨日からオープンしたという水着の専門店だった。

 夏の間限定でやっているらしい。

 ヒナと一緒に入ったのは女性用水着だけが置いてあるエリアだ。


 タイムリープ前は、服屋に行ったはずだが……。心境の変化なのだろうか。

 水着売り場となると恥ずかしくて外で待っていたいと思ったのだけど、ヒナの言うとおり男もちらほら見える。といっても、皆カップルと思わしき女性と一緒だ。


「ねえ、タツヤはどれが好き?」


 さすが専門店。色とりどりのビキニタイプからセパレートタイプ、タンキニなどの露出の少ないものまであった。

 色や柄も多種多様だ。値段もピンキリというか、なんか高く感じる。


「どれも似合うと思うけど……。これ?」


 俺はちょっとイタズラ心を出して、少し際どい黒のマイクロビキニを指差す。

 てっきりヒナは無理! と言うのだと思ったけど、


「へえ……これかあ……。分かった」


 意外にもあっさり受け入れた。しかも結構ノリ気に見える。

 試着室に入ると、早速着替え始めたようだ。カーテン越しに衣擦れの音が聞こえてくる。

 俺は背中を向けて腕を組み待っていると、チラチラ視線を感じた。

 なんとなく恥ずかしくなる。っていうか、これ腕組み彼氏面ってやつじゃないのか?

 俺は目のやりどころに困り、スマホを弄り始めようとした。そのとき、


「ねえ、タツヤ、ちょっと……見てもらっていいかな?」


 試着室の中から俺を呼ぶ声がする。


「う、うん」


 俺はヒナの姿を誰にも見られないように注意しながら、中に入った。

 そこには、後ろ向きのヒナがいる。うなじが見え……その下には何も付けてない背中が見えた。


「ちょっ……ヒナ?」


 さすがに下は水着を履いているものの、ほとんど裸同然の姿だ。両腕で隠すようにして胸を抱いている。

 俺は思わず息を飲んだ。ヒナの白い肌はきめ細かく艶があり、それでいて柔らかそうな曲線を描いている。

 俺の視線に気づいたのか、ゆっくりと振り返るヒナは頰を赤らめていた。


「あのね、ホックを留めたいけど、どうしてもうまくできなくて……」


 俺に留めろと?

 なんだか緊張する。ヒナの裸は小学校の頃に見たことがあったけど、もうそれとは全然違うし。


「お願いできるかな……」

「あ、うん」


 断る理由もなく、俺が代わりにホックを留めてあげることになった。


「じゃあいくよ……」


 だらんと垂れ下がったブラの紐を手に取り、そっと引っ張って留め具を合わせるようにする。

 俺の指が、ヒナの背中に触れた。温かく、柔らかい。


「んっ……タツヤ、くすぐったい……」

「ごめん、サッと付けるから」


 といいつつも、何だこれは? 単純な留め金ではなく、透明なプラスチック部品をどうにかして繋げるようだ。

 意外と難しいな。手先が器用な方だと思っていたのだけど、なかなか上手くいかない。


「んん……やんっ……」

「……こ、こうかな?」

「あっ! んくっ」


 うまくできない。焦るたび、ヒナの背中に指先が触れる。

 そのたびに、ヒナの口から声が漏れた。


 指先にはしっとりとした肌の温かさを感じる。ヒナは汗をかいてきているようだ。

 女性特有の香りが、鼻の奥を刺激する。頭がクラクラしてきた。


 というか……ほぼ上半身は女の子の裸という視界、指に伝わる肌の温もり、そして鼻をつく香りと、ヒナのくぐもった声。

 こんなんで反応しないわけがない。


「もう……あんっそこっ……」

「……」


 もうダメだ。これ以上は理性が飛びそうだ。ようやく仕組みを理解した俺は無言でホックを止め終える。


「はい終わりっ」

「んっ……ありがとう、タツヤ」


 なんとか平静を保つことができたが……試着室は狭く、身動きが取れない。

 振り返り出ようと思ったのだけど、ぞわりとした感覚が下半身から伝わってきた。


「えっ?」


 俺の股間に触れるものがある。

 視線を下げると後ろを向いたまま胸を隠す必要がなくなったヒナの右手が、俺の股間に触ていた。


「固くなってる……よ?」


 恥ずかしそうに甘えた声で言うヒナにドキッとする。

 こんなこと、今までして来たことは一度も無い。

 それどころか俺を異性として見ていなかったはずだ。なのにどうして?



————

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