第18話 5月3日 妹のスマホを操作せよ

「ただいまー」


 ゴールデンウィーク初日。少し家に帰るのが遅くなったけど充実していたと思う。

 タイムリープ前は一人で過ごしていたので、随分変わったものだ。


 さて、俺にはミッションがある。中学生の妹、千照ちあきのスマホに家族登録して位置情報を共有することだ。

 このことを千照に話しても良いのだけど、話してしまうと場合によっては居場所を隠そうとするかもしれない。

 タイムリープ前は、何らかの理由で俺に知られたくなくて、何も言わずにああなったのでは?

 だから黙って行う。バレたら正直に説明して、千照を信じるしかない。

 もちろん、問題の5月20日を過ぎれば解除するつもりだ。


 とはいえ、借りて操作するとあからさまに過ぎる。千照から操作させてくれるとありがたいのだが、都合良くそういうワケにもいかず。

 結局、夜になってしまった。

 千照が寝入ってから家族設定を行うと決め、夜遅くまで起きていることにした。


 ……そして深夜。

 そろそろ寝ただろうか? 妹の部屋に行こうと思った時、誰かが俺の部屋に入ってきた。

 誰だ?


「お兄ちゃん、寝てる?」


 千照だ。とりあえず寝たふりをしよう。


「……寝てるんだ」


 何の用があるのか分からないけど、これで寝てくれるだろう。そう思ったのだけど。

 いつまでも出て行こうとせず、ドアを閉める音がした。


 そして、手に持つスマホのライトを頼りに、俺が眠っているベッドに近づいてくるようだ。

 ん? なんだ? 俺にイタズラでもするつもりか?


「よいしょっと……」


 千照は俺の布団に入ってくると、横になりこっちを向いた。

 俺の目の前に千照の息づかいを感じる。薄目を開けると、千照の頭が見えた。

 千照は俺の胸元に顔をうずめていて、足を絡めてきた。俺は下半身はパンツ一枚で、千照も同じなのか素肌が触れあう感覚がある。

 温もりが気持ちいいし、千照の香りがするけど俺は極めて冷静で、身体も全く反応しない。

 まあ、兄妹だし当たり前だな。


 うーん? 前は一緒に寝るにしてもこんな接近することはなかったはずだけど、今日はどうしたんだろう?


「お兄ちゃん……今日だけ……していい?」


 そんな呟きが聞こえた。薄目を開けると、千照の頭の向こう、布団の上にスマホが見える。

 このまま寝てくれるのなら、チャンスかもしれない。


 よし、と思い手を伸ばそうとしたとき——俺の腕が千照に掴まれた。

 あ、起きてるのがバレたか?


「……よく腕枕してくれたよね」


 セーフだった。千照は俺の腕を下に敷き、その上に頭を乗せた。腕枕だ。

 俺は腕枕になった腕に力を込め、ぎゅっと抱きよせる。


「……寝ぼけてる? あっ……お兄ちゃん……の……匂いがする」


 ぎゅっと抱き締めたのは、反対の手で千照のスマホを取るためだ。

 さっきよりキツく、千照の足が絡む。


「お兄ちゃん……」


 それっきり、千照は静かになった。

 俺は、手を伸ばし千照のスマホを取る。


 置いてからそれほど時間がかかってないためか、ロックはかかっていなかった。

 親指で画面をタップし操作していく。


 千秋は俺の胸に頭を埋めたまま。多少スマホ画面のバックライトが気になるが、恐らく気付くまい。

 きっと、千照はもう眠って……ん?


「んっ……はぁっ……んんッ……」


 変な寝言を言っているようだ。俺は気にせず千照のスマホの操作を始める。

 が、俺は画面に映ったものを見て、目を見開く。……なんだこれ?

 思わず声に出しそうになった。


 見ると、俺が素っ裸で脱衣所にいる写真が表示されていた。

 いつだったか、ふざけ半分で撮られたような気がする。うーん、ばっちり股間まで映っていて見苦しい……。

 おっと、こんなのはどうでもいい。位置情報共有設定を進めなければ。


 やり方は家に帰るまでに調べていた。意外と簡単だ。

 操作をして……よし、設定完了。これで、俺のスマホに千照の位置が表示されるだろう。

 俺は元通りにするため設定画面を閉じ、千照のスマホを置いた。

 ミッション完了だ。


 千照だけど、まあ今日くらいは好きにさせてやろう。

 と思ったら、


「………んっ……ちゃん……だめっ」


 千照に意識を移すと、彼女は俺の太ももに素足を絡め、股をこすりつけている。

 ん? この感触……千照ノーパンじゃないか。

 太ももに擦り付けられる感覚から察する。触れている女の子の部分が湿り気を帯び、熱を帯びている。

 なんか変な夢でも見ているのか?。


「あんっ…………あっ……あっ……っ……」


 こいつ、もしかして俺を使って——?

 

 誰かを妄想しながらしているのか?

 それとも単に俺をオカズにしてるのか?

 いや、まさかな。家族なんだしそんなはずは無い。だとしてもこの状況はマズイだろ。起こすべきか?


「あんっ…………もう……いっ……」


 千照は片腕で胸を、もう片腕は下半身に這わしているようだ。

 俺の太ももが温かい粘液で濡れていることに気付く。

 千照の切ない声が続く。


「んっ……ン……いっ……」


 俺は極めて冷静に考えた。

 可愛い妹がこんな風に甘えてきている。とはいえ、兄妹でこれはまずいよな。

 俺は、千照の肩に手を置き、声をかけた。


「千照?」

「あっ……お兄ちゃんッ……? あっ……だめっ……いっ……いくっ……! ああんっ!」


 その瞬間、千照の身体が震え、びくっびくっという腰の動きに合わせて、俺の太ももがさらに濡れたのが分かった。

 ああ、これは、きっと——。


「はーっ……はぁーっ……」


 千照が荒い息をついている。

 俺は一息つき、手を伸ばして枕元の照明を付ける。


 少しだけ明るくなり、千照の紅潮した顔が見えた。

 瞳は潤み、とろんとしていて、口が半開きで息をついている。


「ふぅっ……って! お兄ちゃん!! なんで起きてるの……恥ずかしいよぅ……ふぅ……」


 そういって、再び俺の胸に顔をうずめる千照。


「ふーっ……ふっ……」


 俺はしばらく、千照を抱いたまま息が落ち着くのを待った。



「お兄ちゃん……ごめんね」

「うーん。こういうのは兄妹では控えた方がいいかも」

「そう、だよね。お兄ちゃんは、その、イヤだった?」


 イヤかどうかで言えば、まあ千照の女の子の部分が触れていたところが濡れたくらいでどうってことはない。拭かないといけないのは少々面倒だけどそれくらいだ。

 この液体は愛液ってやつ? 特に匂いも無いし汚いとも思わない。

 千照の肌が俺の肌に触れていたのだけど、心地よさを感じていた。中学生とはいえ、これが家族じゃなかったのなら俺は興奮していたのか?

 千照は可愛い方だと思うし、実際告白などもされているようだけど。


「うーん、別になんとも」

「なんとも? 興奮したりしないの?」

「だって家族だぞ? 妹だし」

「うー」


 突然口をとがらせ、千照は俺の股間に手を伸ばして触れた。


「ちょっ何するん」

「あっ、ちょっと……固くない?」


 そう言われると触れられて分かったけどほんの少しだけ、固くなっているような。でもまあ、上を向く程でもない。すぐに落ち着くだろう。とはいえ——。


「マジかよ……俺は……妹に……欲情したのか? い、いや、これはオシッコしたいときにこうなるんだ。うん」

「ふーん」


 苦しいイイワケに、千照は口を綻ばせたように見えた。


 俺たちはそれぞれ自分の身体を拭く。千照は汗をたくさんかいていた。

 一通り拭き取り俺はまたベッドに横になると、ちゃんと下着を履いた千照が布団に入ってくる。


「どうしたんだ?」

「今日は一緒に寝たいな……。あのね、今日ね……お兄ちゃんがあの高橋さんって人と一緒に歩いているのを見て、不安になったのかな」

「不安って。別に取られるわけじゃないだろ」

「そうなの? だって、あんなに仲が良さそうだったし」

「あのなあ、千照は俺の妹だろ? どうなったってそれはずっと変わらないだろ」


 そういうと、千照は少し考える素振りをして「そっか、そうだよね」とつぶやいた。

 一応、千照としては納得してくれたようだ。


「ねえ、お兄ちゃん……明日ヒナちゃんと遊ぶんだよね? どっちにするの?」

「どっちって、ヒナと優理のことか? 別に俺は、選ぶなんてことはないよ。選択肢なんてないと思っている」

「えっ、それって……どういう意味? 多分ね、ヒナちゃんは……答えを求めちゃうんじゃないかな」


 その意味を、なんとなく俺は察した。

 タイムリープ前は俺から告白した。もちろん、大好きだったから。


「どうだろうね。もう寝よう。千照もさっきので疲れただろう?」

「も、もう! お兄ちゃんの意地悪…………でもね、またこうやって一緒に寝てもいい?」

「俺は良いけど——またするつもりか?」

「えっと……それは……」


 そういって目を逸らす千照。あのさあ、俺のことなんか道具みたいに思ってないか?

 とはいえ、さっき俺は身体が勝手に反応していた。それが恥ずかしく、強く拒否できない。


「……考えておくけど」

「やったっ。よかった」


 そう言って、俺に抱きつく千照。

 人の体温は気持ちよくて。俺はあっという間に睡魔に襲われ、目を閉じたのだった。


 そして。

 タイムリープ前は幼馴染みのヒナに告白した——5月4日がやってくる。

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