第9話 5月2日 泣かないために(3)
恥ずかしくて両手で顔を覆っている高橋さんが可愛い。
つまり、付き合ってもない俺にキスしたくなった、と。
キスとかの経験や知識が殆ど無いのに。
寂しいときに、フラッといっちゃうあれか? あれなのか? まだチョロいところが露呈してしまったんだな。
高橋さんみたいに可愛い子に迫られたら世の中の99%の男は勘違いしたりガオーってなっちゃうだろ。
俺は踏みとどまったけど。
もし、その相手が須藤先輩だったら……俺は考えただけでぞぞっと鳥肌が立ってしまう。
「高橋さん、俺なんかとしたら後悔するだろうし、危なかったね」
「……後悔……? うーん?」
あ、分かってない感じだこれ。俺は苦笑いをするしかなかった。
「まじ気をつけてね。あんなことしたら絶対に勘違いしちゃう」
「かっ……勘違い?」
あれ? 高橋さん急に頬を膨らませたぞ。なんでだ?
勘違いって高橋さんが先に言い出したのに。
「そうだよ。あんなことされそうになったら、最後までOKとか思っちゃうよ。イヤでしょ?」
「むー。西峰君だったらイヤじゃないもん」
雪野さんも言ってたけど、ピンと来てないのかな。
「最後って、エッチするってことだよ。俺とそうなってもいいの?」
「えっ……あっ——」
高橋さんは自分の想像に恥ずかしくなったのかどんどん顔が赤くなる。何かを思い出しているのかな? まさか俺の裸、股間見てたし……ってそんなわけはないな。
でも、分かってくれたみたいだ。隙を見せちゃダメ。それが次に気をつけるところかも。
「た、確かに……いけないですね」
「でしょ。男に近づきすぎないように気をつけてね」
よく考えると、経験も無いし学校で教えて貰ったくらいの知識しか無いのに好奇心があったり、キスしたくなるって、高橋さんの身体……えっちなのかな?
いやいや、ダメだそんなことを考えたら。前屈みになってしまいそうになるので、俺は邪念を振り払う。
「うん……付き合ってもないのに、そういうことをするのはダメですね」
「そだね。だから、お試しというのもダメだよ」
分かってくれたのならいいのかもしれない。
付き合う相手はちゃんと好きな人じゃないとね。須藤先輩みたいなのがいる限り。
「そうですね——」
そして、高橋さんが何か呟くように言ったけど、俺にはよく聞こえなかった……。
「……西峰君だったら、付き合って最後まで——」
☆☆☆☆☆☆
その後、二人で授業時間が過ぎるのを待った。
外から差し込む陽差しが温かく、俺たちがいる踊り場を照らしていてぽかぽかとしていた。
「ね、西峰君、明日からゴールデンウイークですよね。何か用事ありますか?」
「そういえばそうだね。3日は特にないかな」
その次の4日は……幼馴染みのヒナと遊ぶことになっている。タイムリープ前はこの日に告白した。それを思うと、少し気が重くなるな。
「西峰君、もし時間があったら……クロちゃんに会いに来てくれませんか?」
「いいけど、どうしたの? クロに何かあった?」
「ううん。ただ、その、お風呂の入れ方を聞きたいかなって思いました。クロ、洗ってくれましたよね? それと、猫グッズ買いに行きたいから一緒に行ってもらえると嬉しいです」
まあ、明日は暇だし問題ない。
あ、でも……。こわーいお父さんがいらっしゃるんだよな。
「家には誰かいるの? 挨拶しないといけないね」
「ううん……お父さんもお母さんもいないから……」
一瞬、寂しそうな表情を見せる高橋さん。
土日も仕事とか、その関係なのだろうか。あんな広い家に一人だと寂しいよな。
「そっか……分かった。いいよ。猫グッズも買いに行こう」
「ほんと? やったっ」
嬉しそうにはにかむ高橋さん。ちょっと素が出ているのかな?
俺も暇が潰れて良かった。そうだ、俺が読んでいる漫画や小説持っていってあげようかな。高橋さんが喜びそうなやつ。
そんな話をしていると、あっという間に授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「じゃあ、戻ろうか」
「はい」
俺が立ち上がり、高橋さんに手を差し伸べる。
「西峰君の手のひら、温かくて好きです」
ああ、また高橋さんが勘違いさせることを言ってる。
そう思ったものの、まいっか、と思った。
「だよね。高橋さんの手、しっとりしててひんやりしてて気持ちいい」
「そ、そうですか?」
なんかそう言って立ち上がったのに手を繋いだままで猛烈に恥ずかしくなってきた。
お互いにそうだったみたいで、どちらからともなくぱっと手を離し歩き始める。
俺たちが休憩時間を迎えた教室に戻ると、俺に強烈な視線が集まった。
痛い。視線が突き刺さるのが痛すぎる。
その一方で、雪野さんが俺にグッと親指を立てた拳を向け、ウインクしてくる。
これだから陽キャってのは……。
高橋さんの方へは困惑を含む視線が向けられていたが、彼女は気にしていないようだった。
ざわざわという声に、
「事後だ……あの二人……事後だ……」
という声が混じる。
いやいや、そういうのじゃないんだ。勘弁して欲しい。
「高橋さん、参っちゃうよね」
そう訴える俺に対して、高橋さんは、
「そうですか? 私は気にしませんよ」
そういって、嬉しそうに微笑む。
もちろん俺はその笑顔に視線を持って行かれるのだった——。
明日からは連休ということで、足取りも軽く家に帰った。
それに、明日は高橋さんと一緒に出かける。これって……デートだよな。
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