2022年12月30日金曜日

母が家を去ってからもう十年が経つ。母が家を出て以来、ミックスフライデーは訪れなかった。父は相変わらず忙しく、今日は家にも帰ってこない。父の会社の同僚から電話があり、どうやら飲み過ぎたので近くのホテルで一泊するらしい。滅多に酒を飲まない父だが、今日だけは記憶を泡にしたかったのだろう。僕もこの日になると母との思い出が微かながらに浮き出てくる。ただ今回は、そんなことどうでもよくなる程楽しいことが起きるのだ。


友達が、僕の家に泊まりに来る。


僕は父が帰らないことを利用して友人を一人誘ったのだ。友人の名前は佐藤隆太。高校一年生の時に同じクラスになり、お互いなんとかクラスの中で孤立しないよう必死だったので、自ずと引き寄せられた仲だ。それでも話せば意外と気が合い、少なくとも家に遊びにきて欲しいと思うくらいには好いていた。


「失礼しまーす」


午後7時頃、隆太が家にやってきた。


「ごめんね、急なお誘いでこんな夜からになっちゃって」


「いいよいいよ。泊まれるだけで充分楽しみだからさ」


隆太は物珍しそうに家の中を眺めている。隆太の家は一軒家なのでアパートのような小さな家に憧れがあるらしい。秘密基地みたいでかっこいいんだそうだ。

僕は自分の家が褒められたことなんて無かったので少しいい気になっていた。


「ここが僕の部屋だよ」


僕は隆太に自分の部屋を紹介した。元々は母と僕の寝室だったが、母がいなくなったことで空きができ、勉強机などを置けるようになったのだ。

隆太は棚を物色したり、飾ってある写真を眺めたりしていた。するとある写真の前で隆太は足を止めた。


「なあ、この写真の女性誰?」


「それは僕の母親だよ」


「……そうか」


隆太は少し目を伏せると、慌てた様子で僕に話しかけてきた。


「わりぃ!俺今日用事あるの思い出したわ。今日は泊まれねえ」


「わ、わかった」


「……ごめんな、折角誘ってくれたのに」


「大丈夫。また一緒に遊ぼうね」


隆太は「おう!」と元気良く言って家から出て行った。僕は部屋の中で肩を落とした。もう家が空く日なんて訪れないかもしれないのだ。何故隆太が突然泊まれなくなったのか、その時色々と考えてみたが、どれも推測の域を出ないので冬休みが終わってから学校で聞くことにした。





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