天才技師と大賢者の最高傑作
この
だから、普段は
ちなみに、ユメもストレージが使えるらしく、ちゃんと収納のテストをしたそうだ。
言葉で説明するよりも、実際に見せたほうが早いと思ったのだろう。
大まかな機能だけを説明すると、ユメは
「我、平賀夢は、モビルビートルに、しばしの休息を命ず!」
「装甲機、及び、野営車に対する休眠命令を受諾。準備を開始します」
どこからともなく……ではなく、間違いなく
「この子、話せるんだ……」
私の声を聞き、近付いたカズハちゃんが否定する。
「いえ、違うのです。これは、制御装置の応答機能です」
「そっか、残念。これのこと、カズハちゃんは知ってたの?」
「はい。ずっと開発に協力してましたから。その制御装置も私が作ったのですよ」
「そうなの? さすが大賢者様ね。機械も作れちゃうんだ」
「あっ、そうじゃないのです。私が協力したのは魔導具制作なのですよ」
「…………あっ、なるほど。これって魔導具なんだ」
「そうなのです」
人工知能とか部品を組み合わせて……じゃなくて、魔法の道具ってことらしい。
制御装置だけでなく、この
「準備が完了しました。休眠状態に移行します」
光を放って縮んでいき、あっという間に五センチ角の立方体になって、ユメの手の中に収まる。
その二つの立方体──
「どう? すごいでしょ?」
「うん、びっくりした」
私はまあ、驚いても仕方がないと思う。こんな機械っぽいものが魔導具だなんて、考えもしなかったから。
技術者と魔導士の力が合わさったら、こんなことができるんだ……って感心して見ていると……
この世界にとっても特別なモノだったみたいで、ゴウとトキヤも驚いていた。
「これならストレージにも無理なく入るってわけ」
ユメの手のひらから立方体が消えた。
……と思ったら、視界の隅に呼び出しマークが現れる。
「ナビ、どうしたの?」
口元を隠して、こっそりと囁くと、視界に
「ヒトエさん。人前ですけど、急いで知らせたほうがいいかと思いまして」
「急ぎ? どうしたの?」
「平賀夢が、チーム共通ストレージを解放しました」
「なにそれ?」
そんな機能があるだなんて、初めて知った。
いつものようにストレージを開くと、何やらチュートリアルが始まった。
視界に「チーム共通ストレージを使ってみよう」なんて文字に続き、チームと書かれたタブが現れ、それを選ぶようにと誘導される。
そこへ視線を向けると、ストレージが切り替わった。
ユメが収納したモノに違いない。それを、ここから私も取り出せるってわけだ。
でも、チームって御掃除隊のことだよね……って心の中で考えると、チームメンバーの名前が表示された。
チーム:水上御掃除隊
リーダー:水上一恵
メンバー:八代豪
水分時也
水上一葉
八代冴
平賀夢
「えっ? ユメさんもチームのメンバー?」
私の声に、ゴウとトキヤも驚きの視線をユメに向ける。
すると……
格納庫の照明が暗くなり、再びユメの姿がスポットライトに照らされる。
光の中でユメは、バサッと白衣を脱いで、一瞬にして旅の装いに着替えると……
「お伝えするのが遅れましたが、このわたくし、平賀夢は、水上御掃除隊の一員となり、
ジャジャーンって感じで、ユメがそう宣言した。
「目覚めよ! モビルビートル!」
「装甲機、及び、野営車に対する起動命令を受諾。準備を開始します……」
驚きと歓迎の声が冷めやらぬ中、ユメは再び
入り口は、
その後方側から手すりと階段を使って上り、上部に折り畳まれて開く扉をくぐって中へと入る。
入ってすぐ、右がシャワー室で、左がトイレになっていた。洗面台もここにある。
梯子を上った二階部分には、二人分の就寝スペースがあった。
再び下に戻り、通路を進んで中央部へ。
通路は前方に伸びていて、左右には扉の無い入口があった。
左右の区画には、それぞれ二段ベッドが設置されている。
ベッドは通路側にあり、外壁側には壁に向かって座るテーブル席が。ここで食事などを行う。
外からは分からないけど、中からは外の様子がよく見える。これは、窓ではなく、外の様子を壁に映し出しているだけなので、消すこともできる。
天井や床にも外の映像を映し出すことができるらしい。
だけど、それでは落ち着かないので、今は、車窓の風景って感じにして壁に映し出しているって説明された。
こちら側にも、寝室に繋がる扉の無い入口があった。
更に、こちらからなら階段で二階へと登れるようになっている。
前方の扉を開けると、そこは
入ってすぐの所に、トイレと洗面台が。
真ん中は通路で、左右には壁側に背もたれがある長椅子。
それぞれ三人掛けだけど、広くてゆったりとしているので、詰めれば四人ずつでも座れそうだ。
壁や天井が窓のようになっているけど、これも外の映像を映し出したものだった。
長椅子の向こう、左右に外への出入り口があり、その向こうが操縦席と助手席ってことになる。
操縦席って言っても、特に操縦桿やペダルなんてものは無かった。
指示は口頭や手足の動きで行い、あとは制御装置が判断してくれる。
いざという時は手動でも操作できるけど、そんな機会はないだろうって、笑って言われた。
ひと通り見終わり、一同は夢見心地のまま、
「なんかもう……、すげぇなって言葉しか出ねぇな……」
ゴウの言葉が全てを物語っている。
これで、獣に怯えながら焚火で野宿……とかいう必要はなさそうだ。
それはそれで、すっごく嬉しいけど、少し寂しい気もする。
「これは民間用なのかな。軍用にしては親切で快適な設計だよね」
「まあね。おじいちゃんが、私の為に設計してくれたモノだし。ちゃんとした製品にするなら、もうちょっとコンパクトにしなきゃね」
「そうだね。大型機甲車ほどじゃないけど、
トキヤの声にゴウが頭を振る。
「そういう問題じゃねぇって。脚で歩く車とか、下手をすりゃ化け物扱いされて、こっちが狩られるんじゃねぇか?」
「なんだって……。今、化け物って言った?」
あっ、ユメさんが怒った。
「この愛くるしい姿が分からないなんて、絶対に許さないっ! ゴウ、そこへ直りなさい。まずはコレね」
壁に、この
六本の脚で、器用に崖を駆け上ったり、左右にステップを踏んだり、果ては後方宙返りなんてことまでしている。
「おい、これ。こんな激しい動きをして、中の人は平気なのか?」
「当たり前じゃない。こんなことをしても、コップの水も零さないわよ」
模擬戦だろうか。なかなか激しい砲撃に晒されているけど、巧みな足さばきで、その全てを避けている。
「うそ……だろ?」
「この子なら、このぐら余裕よ。どう? これでもまだ化け物とか、言っちゃうつもり?」
「いや……、こんな動きが出来るって、そりゃもう化け物だろ……」
本音が漏れたようなゴウの言葉に……
「もちろん、アタシと平賀工房の力を結集して生み出された最高傑作なのですから、このぐらい当然なのですよ」
エッヘンと座ったまま胸を張るカズハちゃんの横で……
「まあ、誉め言葉として受け取っておくわね」
そう言って、ユメは矛を収め、代わりに
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