モビルビートルを頂いた
御掃除隊の全員が集まって、再び工房へとやってきた。
工房技師のユメが呼んでいるからって、カズハちゃんとサエさんがみんなを集めたのだ。
全員が戦闘服……ではなく、普段着になっている。
ストレージが使えるようになったことで、いつでも着替えられるので、その時に合わせた服装が自由にできるようになった。
サエさんなんて、隙あらばメイド服に……って、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。
「よう、おぬしらじゃな。先日は忙しくて出迎えもせず、すまんかった」
そう言って現れたのは、工房長にしてユメの祖父、平賀源助だった。
白髪白衣に眼鏡を掛け、これぞ研究一筋に生きたおじいちゃんといった貫禄だった。
「なんせ、急な仕事じゃったからのう。でも、なんとか間に合ったわい。皆、ついて参れ」
そう言って歩き出したお爺さんの背中を見つめていると……
「さあ、お姉ちゃんも、早く来るのですよ」
カズハちゃんが私の手を取り、引っ張るようにして歩き始める。
なんだかすごく機嫌が良さそうだ。
「どうしたの?」
「えへへ……内緒なのですよ~」
「……?」
たぶん、何か知っているみたいだ。
こんなに楽しそうなんだから、きっとすごいことなんだろう。
だから、私も期待に胸を膨らませて、足を早める。
工場の奥、金属製の扉の前で立ち止まった
「ワシと国王からのプレゼントじゃ、遠慮なく受け取とれいっ!」
そう言って扉を開けた。
そこは、広くて薄暗い部屋だった。
壁際には、よく分からない部品や箱がごちゃっと一杯置いてあり、クレーンのようなものや鉄骨のようなものがあり、なんとなく格納庫って感じの雰囲気がしている。
その中央に巨大な何かが置かれていて、継ぎはぎだらけで所々に油染みのような汚れが見える布で覆われていた。
「やあやあ、皆さん、いらっしゃい」
いつもの白衣に眼鏡をかけ、でっかいスパナを担いだユメが、スポットライトに照らされて出迎える。
みんなが──特にゴウが「なんだ? なんだ?」と騒ぐ中、ユメがサッと手を上げると、布に覆われたモノにスポットライトが移動した。
プレゼントって話だけど……
あんまり大きいと運ぶのも大変だし、ストレージに入るのかって心配になる。
拡張されてから、ストレージの限界なんて忘れてたけど……
「おじいちゃん、いつでもいいよ」
「よし、ユメ。構わんぞいっ!」
ユメが、えいっと腕を振り下ろすと、布の向こうで、明るい光が点灯する。
なにごと……と、みんなが身構える中、ヴァサッ! っと、布が取り払われた。
「???!」
えっと……これって。
この世界には自動車に似た乗り物──
タイヤが車輪じゃなくて球体という、不思議な形状をしていたけど、この異様さは、その比じゃなかった。
「すっげぇ……、これ、脚が生えてんぞ」
ゴウの言う通り、この乗り物らしきものは、六本の脚が付いていた。
形状は球の下半分を切り落としたような……、ボウルを逆さまにして置いたような感じだった。
どこかテントウ虫を感じさせる
その一部が瘤のように膨らんでいて、そこが前になるのだろう。その部分に六本の脚が付いていた。
後ろの大きな身体はというと……
下を覗き込むと、半球の下には球のタイヤがたくさん、規則正しく並んでいた。
「どうじゃ! それぞ、平賀工房、渾身の力作! 念機動式装甲野営車、モビルビートルじゃ!」
おおー! ……っと、歓声と拍手が起こる。
私も、よく分からないながらも拍手する。
たぶん……だけど、大きなキャンピングカーってことらしい。
「これを……プレゼント?」
「そうじゃよ。これがあれば旅も安全快適、間違いなしじゃ」
思い描いていたファンタジーな世界とは、どんどんかけ離れていくけど……
自分が作った世界ながら、すごい技術力に驚いた。
あーでも、これに妖精とか精霊とかが宿って、自分の意志で動いたりしたら、それはそれでファンタジーって言えなくもないかも?
……ファンタジーってなんだろ。
だんだん、分からなくなってきた。
「じゃあ、ユメや。あとは任せたぞい。ワシは次の仕事があるからの」
「うん。おじいちゃん、ありがと」
私たちも、慌ててお礼を言って頭を下げる。
ユメがウインクをしながら投げキッスをすると……
それをいい笑顔で受け取った
それを見送ったユメは、こちらを見つめ……
「じゃあ、説明を始めるわね」
そう宣言すると、ひきつったゴウの顔を見ながらニヤリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます