カズハの思い
何百年、何千年……
もしかしたら、何万年になるだろうか……
この地が水上と呼ばれる遥か昔から、人類に伝わる伝承。
──この世に災厄が満ちる時、天より使者が舞い降りる
その名はミナカミ
其は、大いなる力にて、災厄を祓うものなり
人類が存亡の危機に瀕した時、幾度となく神が降臨して、救いの手を差し伸べたという。
さらには、大昔の偉大なる預言者が……
──次なる危機には、神の現身が降誕なされるであろう
そう伝えていた。
神が降臨された地のひとつが、このミナカミであり、この地を人類の手で守る為に水上の国が造られた……という。
預言者は五百年ほど前の人物で、この国は千年以上前に建国されたというから、神の降臨はそれよりも前ということになる。
水上の王家は、この神聖なる地を護りながら、いつか降誕なされるであろう、神の現身──天の使者をお迎えし、手助けをすることを使命としている。
とりわけ男児は、この地を護るために政治や軍事を学び……
女児は、使者にお仕えし、使命を手助けするべく日夜修業に明け暮れる。
お役目が叶わなかったとしても、そのスキルを会得することで、国に貢献ができるし、嫁ぎ先でも大切にされる。
むしろ、伝承よりも、そちらを目的とする者が多かったりもするけど……
第三王女である
天才だの神童だの持て囃されたのだが、伝承を信じて本気でお仕えすると心に決め、人一倍努力をし、
とはいえ、一葉は、年齢を重ねた知恵者をイメージする「ワイズマン」という呼び名を嫌い、神秘的な意味を備えた「セージ」と名乗っているが。
頭脳だけでなく、身体のほうも鍛えているのだが、こちらのほうは突出していなかったようで、常人よりも動けるほうだが、平凡の域を越えなかった。
身長も伸び悩んでいるが、そこは十五歳なので、まだ諦めてはいない。
今回、国王である父上から、お役目を果たす時が来たという連絡を受け、待ち望んでいた時が来たと、すごく喜んだ。
それと同時に、少し不安にも思った。
というのも……
これまた昔の話だが、使者様を騙る男が現れ、国を乗っ取ろうとしたした事件があった。
最終的には事なきを得たが、それを教訓として伝承と共に伝えられている。
なので、男の人だったらどうしようかと不安だったが、自分と変わらない年頃の女性だと聞いて歓喜した。
一葉は第三王女ではあるが、二人の姉とは歳が離れていて、一緒に過ごした記憶がほとんどない。
それどころか、顔を合わす機会もごく僅かなまま、嫁いで行ってしまった。
だから、歳の近い、一緒に過ごしてくれるお姉様に憧れていた。
「ですので、尊敬と親愛の情を込めて、お姉様と呼んでおられるのですよ」
そう言って、サエが話を締めくくった。
様々な思いが詰まった上での「お姉様」だと聞かされ、どうしたものかと苦悩する。
しかも、その代案が「聖女様」なのだから、もっと困る。
「カズハも十五歳だったんだ」
小さな賢者はコクリとうなずく。
まあ、私の場合、見た目で決めた仮の年齢だけど。
「私のことを姉だと思って慕ってくれるのは嬉しいけど、親愛を表すのなら、やっぱり名前で呼び合った方がいいと思うな。ほら、お姉様とか聖女様って呼ばれたら、何だかよそよそしく感じちゃうし」
「ですけど、御名を呼ぶのは……」
「御名も何も、もうみんな、私の事をヒトエって名前で呼んでるし、そんなこと気にしなくてもいいよ。そうね……じゃあ、私も、これからカズハのことを『大賢者様』って呼んでもいい?」
「そんな、……困ります」
「でしょ? だったら、ほら、ヒトエって呼んで?」
「分かったのです。……ヒトエ」
どうしようかって迷ったけど、私はカズハを引き寄せて、ぎゅっと抱き締めた。
「カズハ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくなのです。ヒトエ」
最後は力技で納得させたみたいになったけど、これで何とか、私の中に残っていた最大の問題が解決した。
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