新たな力を試してみた

 属性表示ジェムマークを赤い火炎にして、満充念フルチャージ引き金トリガーを絞る。

 ひと抱えもある大きな岩が炎に包まれ、数秒経ってから爆散した。


 本当は、銃床ストックで固定して両手で撃つらしいけど、私にはそんな物はいらない。

 無造作に片手で撃つ。

 それでも的は外さない。


「今さらだけど、驚かされる。よくあれで撃てるね」


 トキヤが淡々と驚いているけど……

 なんとなくこうすれば大丈夫って思って、その通りにしているだけなので、どうやって狙っているのかって聞かれても、自分にも分からない。

 だから、私の銃には照準器スコープとかいうものもついていない。

 それに……


「動かない標的だからね」


 不規則に動く標的だったら、こんな簡単には当たらないと思う。


「当てんのもすげぇけど、その威力は何だよ。標的が粉々じゃねぇか」

「威力の事を言われても……。私はただ満充念フルチャージにして撃っただけだし。ほら、トキヤも凄いわよ」


 私の三倍ほど距離が離れた岩に大穴が空き、貫通していた。


 ゴウの銃は、一度の充念チャージで三発撃てて、引き金トリガーを握りっぱなしすれば、シュパパン、シュパパン、シュパパン……と、連射ができる。

 満充念フルチャージすれば氷槍弾アイスジャベリンぐらいの威力になるらしいけど、たとえ氷針弾アイスニードルって感じでも連射をすれば、私が標的にした岩を割ることぐらいはできる。……さすがに爆散は厳しいみたいだけど。


「それに、純粋な威力だけだったら……」


 賢者の衣装をはためかせ、カズハが大きな杖を掲げると、魔法陣が現れ……


「切り裂け! ウィンドカッター!」


 可愛い声が響き渡ると、巨大な岩が十センチ角のブロックに、豆腐のように切り刻まれた。

 それに、サエも、私の胴体ほどもある太さの木を、二振りの剣で難なく切り倒し、切り刻んでいる。


 だったらと、私も剣の試し斬りをする。

 念を込めると、剣がほんのりと光り出す。

 その状態で、サエが切り倒した木に振り下ろした。


「なにこれ、おもしろい」


 面白いように切れるので、丸太をお料理感覚で輪切りにしていく。

 向こうが透けるほど薄く切れたことに満足して、ふぅ~と息を吐くと……

 

「なんじゃ、そりゃ~!」


 ゴウの叫びが響き渡った。




 どういう基準なのか分からないけど、新装備を試し終わると、みんなもストレージが使えるようになっていた。

 荷物は、私が全部預かるつもりだったけど、これですごく便利になった。

 神様は介入できない……はずだけど、何か手を回したのかも知れない。

 そう思って、ナビに確認したけど……


「それはないですよ。神様はルールを管理して見守ることしかできませんから」


 そんなことは分かってる。

 ルールと言っても世界規模の運命なので、個々の人間に介入する事なんてできない。

 でも、たとえば、ストレージの取得条件を変えるとか……

 それもちょっと考えにくいけど、可能性はある。

 変に条件を変えたら、世界の運命が変わっちゃうので、新しく予測をし直さなければならなくなるけど……

 それで、ほぼ影響がない……だったり、好転する……とかだったら、実行するかも知れない。

 そう思ったけど、それもナビが否定した。


「お三方が、条件を満たされただけだと思いますよ」


 その条件っていうのも禁則事項なのか、私には思い出せなかった。

 何にしても、便利になったんだから、いいことだよね……と、納得することにした。


「これは便利だ。手荷物が減るどころか、着替えすらも不要とは」


 トキヤが楽しそうに、手の中で林檎を出したり消したりしている。

 不意にひとくちかじり、消しては出して、かじった跡が残っていることを確認していたりする。

 その横で、ゴウも鞘付きの果物ナイフで試していた。


 どういうわけか、御掃除隊メンバー全員が、私と同じ宿に滞在している。

 ゴウとトキヤは宿舎を出て、行き場が無いから仕方がない。

 でも、お姫様まで来るとは思わなかった。

 当然、お姫様と一緒にメイドもついてくるわけで……


「これは非常に有用ですね。一葉さまを見て、理解していたつもりではありましたけれど、想像以上です」


 メイド姿で、念動短剣シャインナイフを出したり消したりしながら弄んでいる。

 刃物を出し入れする時は、ちゃんと刃の向きを考えて出さないと痛い目に遭うんだけど……。さすが有能メイドさん、もうコツを掴んだみたいだ。

 それに引き換え……


「うおっ、危ねぇ」


 ゴウは、刃の部分を思いっきり握ってたりする。

 鞘が無かったら、血まみれになっているところだ。


「では、お姉様。明日からは、本格的に情報収集ですね」

「そうだけど……。カズハ、その『お姉様』っていうの、やめない? なんだか、やっぱり慣れなくて……」

「えー、ダメなのですか?」

「慕ってくれるのは嬉しいけど、お姫様に『様』って言われると、ちょっとね」


 そりゃまあ、神様だって言っても誰も信じてくれないのに、敬う……ていうのとは少し違う気もするけど、こうして慕ってくれているのだから、嬉しいけど。

 あまり人前で「お姉様」って呼ばれるのは、なんだか羞恥プレイのように感じてしまう。


「ちょっと、そんな悲しそうにしないで。ね。別にカズハの事を責めてるわけじゃないから。ちょっと呼び方を変えて欲しいなって思ってるだけだから」


 う~ん、困ったな……


 見るからに、カズハがしょんぼりしている。

 そんなに「お姉様」って呼び方に思い入れがあるんだろうか。

 何か、この世界の常識に関係があったり?

 ……どうにも分からない。


 視線で助けを求めると、サエが小さくうなずいて、疑問に答えてくれた。

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