ユメの思い

 ゴウとトキヤは、王国兵ではなくなったので兵装も全て返却している。

 だから、どうせなら、戦闘用の服も購入しようって流れになった。


 それならばと、工房技師ユメさんが提案して、ファッションショーをすることになった。


 まずは、ゴウから。


「どうだ? なかなかイケてんだろ?」


 バンダナに、黒革装備一式。

 少し小さめの新しい銃、念動連撃銃シャインスパローを構えている。

 なかなか様にはなってるけど、兵士って感じはあんまりしない。

 それはともあれ、本人は大喜びだ。


「悪くないね」


 トキヤのほうは、ベレー帽に迷彩装備。

 長くてスマートな銃。念動狙撃銃シャインフェニックスを肩に担ぐ。

 これは、どこからどう見ても兵士だった。


、覚悟してくださいね」

「こ、怖ぇーって」


 髪を後ろでまとめて、暗緑色の戦闘服を着こんでいる。動きやすそうな分、身体の線が出てしまうけど、サエの姿はとても綺麗だった。

 武器は念動小剣シャインブレード念動短剣シャインナイフ

 構えたポーズがカッコイイけど、なんだか暗殺者アサシンっぽく見える。


「えへへ、お姉様どうでしょうか」

「うん、すっごくカッコイイよ」


 カズハは前に見た賢者服のままだけど、念動長杖シャインスタッフ──大きな宝玉のついた、身長を超える杖のおかげで、偉大なる……って雰囲気になっていた。

 若干、カッコイイよりカワイイが勝っているけど、本人はカッコイイを目指しているので、それは内緒にしておく。


「えっ、ストレージ?」

「はい」


 どうやらカズハもストレージが使えるようで、早着替えを披露した。

 スカートの戦闘服って珍しいけど、可愛い雰囲気がすごく似合っていた。

 足はしっかりと防護タイツで守られている。

 手には、魔法少女が持ってそうな可愛い小さな杖、念動短杖シャインワンドが握られていた。

 そして……


 さすがに高位聖職者ハイプリーストの衣装で、銃を撃ちまくるのは……たぶん、この世界でもダメだと思う。

 旅人の服でも良かったんだけど、支度金が出てるからと、ほぼ強引に新しい服を選ぶことになった。

 最初の服は、カズハには好評だったけど「遠足かっ」のひと言で却下された。

 最終的にはサエの見立てで、薄手の革スーツにノースリーブのジャケットを重ねた姿になった。

 長めのジャケットは腰のベルトで絞るとミニスカートっぽく見える。

 私の銃は、念動制式銃シャインファルコンっていう物らしい。

 標準的な銃で、これといって特徴はないものの、いろんな場面で使える。

 それに、念動剣シャインソードまで頂いてしまった。

 

 満足そうに、うんうんとうなずくユメ。


「みんな、すっごく似合ってるよ。姫様もすごく可愛い」


 それじゃあ……とばかりに白衣を翻して、ユメが説明を始める。


「この新装備の画期的な所は、念動石ジェムの濃度を極限まで高めることで実現した、念動変換機ジェムコンバーターによる念弾ジェムバレットの省略化。これによりわざわざ大量の念弾ジェムバレットを持ち歩かなくても継続的に使用可能に。もちろん、欠点もあるよ。チャージの時間によって威力が変わってしまう点。それに念動石ジェムにも限界がある。一万回も使えたらいいほうかな。それに……」

「ちょっと、待て待て。なんつった?」


 いきなり早口で説明を始めるユメに、たまらずゴウが声を上げる。

 だけど……


「あー、やっぱり不安だよね。忘れたころに弾切れってなったら困るよね。だけど、大丈夫。みんなの銃は、ちゃんと念弾ジェムバレットにも対応してるハイブリッド型だからね。弾の入手状況によって、そこは切り替えるといいと思うよ。普段はチャージに慣れておいて、困った時に弾を使うとか。逆に弾切れになった時だけチャージに頼るとかね」

「いや、うん。すげぇのは分かったけど、もうちょっとゆっくりしゃべってくれないと、全く頭に入らねぇって」

「分からなかったら、何度でも説明してあげるから。遠慮なく聞いてね。それで、お手入れの仕方なんだけど……」


 技師の性なのか、話し始めたら止まらないユメだったけど、そこはちゃんと考えてくれていて、後でちゃんとマニュアルを渡してくれた。


「ふぅ……終わった」


 安心するゴウを嘲笑うかのように、再びユメの説明が始まる。


「じゃあ、次は、剣のほうよね。こっちも、新しい念動石ジェム技術のおかげで画期的なものに仕上がったんだけど……。念動の力をを剣に浸透させることで、様々な効果を与える事に成功したの。それに、慣れれば刀身が無くても念動で刀身を生み出せるのよ。すごいと思わない?」

「すげぇ……な」


 ゴウの言葉は、どっちに対してなんだろう。

 画期的な技術にってわけじゃなく、たぶんユメの情熱に対してだと思う。


念動石ジェムの予備も渡しておくね。セットの仕方も、ちゃんとマニュアルに書いてあるから。それと、最低でも一つは予備を持っておいたほうがいいから、もし予備が無くなったらここへ戻って来てね。その時に、メンテナンスもしてあげるからね」


 まさに至れり尽くせり。


「何か質問、ある?」


 そう言われても、質問が出るところまで、みんなの理解が追いついていない。

 なので、私から二つの質問を投げかけた。


「じゃあこれからも、弾が手に入りやすくなるってことはないってこと?」

「そうね……。念弾武具ジェムバレットウェポンが広く使われるようになったから、弾の奪い合いになると思うわ。供給量が増えてもそれを上回る需要があったら、結局は弾不足のまんまだし」

「そっか。じゃあ、あとひとつ。なんで私たちに、ここまで良くしてくれるの? これだって、たぶんすっごい値段がするのを無償で提供してくれるんでしょ? それに念動石ジェムやメンテナンスまで」

「あはは……心配になるのも当然よね。工房としては国が全額負担してくれるからって理由なんだけど、国としても新たな輸出品にしたいんだと思うわ。念弾武具ジェムバレットウェポンは広く渡り、他国で製造もされるようになったし、消耗品の念弾ジェムバレットだって、一気に作る量が増やせないからね。だから、みんなの活躍は新兵器のいい宣伝になるのよ」

「そっか。じゃあ、しっかり活躍して、しっかり宣伝しないとね」

「まあ、そうなんだけど……」


 ユメが物憂げな表情を浮かべて近付き、私をギュッと抱き締める。


「私は、人々が怯えて暮らさなくてもいい場所を作りたいって思ってるの。だから、あんな化け物でも倒せるようにって武器なんかを作ってるんだけど……。私の一番の願いは、兵士のみなさんが無事に戻ってくること。もちろん、みんなもね。だから、絶対にみんなで、無事に戻って来てね」


 こうして私たちは、平賀工房の自信作、念動武具シャインウェポンシリーズと、ユメの思いを受け取った。

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