憤りを刃に込めて

 結局、チーム名は「御掃除隊」になった。

 そのチーム名には登録した場所が加わって、「水上御掃除隊」ってことになるんだけど……


 ミナカミボンバーズとかにしなくて、本当に良かったと思う。

 それだと「水上ミナカミボンバーズ」ってことになってしまう。


 こうして無事に、賞金稼ぎ証明書ハンターライセンスが発行された。




 御掃除隊のメンバーと一緒に、武器を受け取りに工房へとやってきた。

 王様が立ち入りを許可してくれた工房だけど、外見はかなり古びている。

 なのに、中に入ると時代を間違えているかのような機器の数々が並んでいた。

 言ってみれば、時代劇にSFの設定が紛れ込んだかのような、そんな異様な感じがする。


 箱型機械の上に浮かぶ、空間ディスプレイって感じのものに、設計図らしきものが映し出されている。

 それがいくつも並び、工房技師たちが何か操作をしたり、真剣に見つめてたりする。

 何をしているのか、全くわからないけど……


「やっほ~。いらっしゃい、姫様、ヒトエ様」

「お疲れ様、天才技師様」


 出迎えてくれたのは、平賀夢ひらがゆめという女性。

 この工房長の孫にあたる、念動石ジェムを使った武具制作の天才技師だ。


 王国兵に支給されている『念弾武具ジェムバレットウェポン』シリーズは、彼女の祖父にして工房長の平賀源助ひらがげんすけが研究に大きく関わっていた。

 そして、この工房で、新たな武器が誕生する。

 いくつか作った試作品は、全く問題が無かったらしく、性能も素晴らしいものだったらしい。そして、今回が初めての製品版ってことになる。


 王様に言われた後、一度ここへ立ち寄ったんだけど、その時、なんだかすごく感謝された。


「あの地竜を倒したのって、アナタなんだって? ほんっとうにありがとう。おかげで純度の高い高品質で貴重な素材が手に入ったわ! これを使えば、絶対に上手くいくはず。だから、期待しててね。そうね。みんな、どんな武器がいいとか、何かリクエストとかある?」


 ……って感じで、とにかくよくしゃべる人だった。

 そんな感じで話し合いが進み、それぞれの戦闘スタイルに合わせて、相応しい武器を作ってもらえることになった。

 そんな簡単にできるの? ……って驚いたけど、この機械を使えば簡単らしい。


 聞き取り調査が終わると、準備に数日かかるからと言って、その間、念動石ジェムが組み込まれた念動変換機ジェムコンバーターというものを預かるように言われた。

 常に身に付けることで、使用者の念との親和性が増す、とかなんとか……


 まずはゴウからだった。

 腕に巻かれていた念動変換機ジェムコンバーターのベルトを外して、ユメに渡す。

 それを受け取ったユメは、ベルトなどの余計な部品を外して機械にセットする。


「うん、問題なさそうね。じゃあ、この椅子に座って楽にしててね」


 背もたれを倒し、斜めになった状態で、カプセルのように覆いが被せられる。


「どんな武器が欲しいのか思い浮かべながら、選んで……」


 そう伝えると、ユメは私たちを連れて隣の部屋へと向かった。


 透明の板越しに隣の部屋が見える。それに、壁には空間ディスプレイの内容が拡大して表示されていた。

 そこには様々な銃が現れては、スライドしたり、拡大縮小したり、目まぐるしく次々と変わっていく。

 やがて表示が落ち着きを取り戻すと、王国兵に支給されていたものに近い形状のものが映っていた。だけど、それが分解され、バラバラの部品になる。


「ヒトエ様、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。頭の中で、こうしたい、あーしたいって思えば、勝手に選ばれていくから。この人は突撃銃アサルトライフルを選んだみたいね。今は、いろんな場面を想定して、動きや戦い方を確認してるみたい。部品のひとつひとつまで最適化していくから、絶対に使いやすい武器になるはずよ」


 部品選択も徐々に落ち着いてきて、やがて、セレクトコンプリートの文字が現れた。


「うん、問題なさそうね。じゃあ、次の人ね」


 こうして順番に、自分の武器を選んでいった。




 驚いたことに、武器は数時間ほどで完成するらしい。

 なので、待っている間に、いろいろと見学をさせてもらいながら、内部や技術の説明をしてもらった。

 聞けば聞くほど詳しく教えてもらえるので、私には楽しかったんだけど、みんなには退屈だったみたいだ。


 だったらと、戦闘シミュレーターに案内された。

 ユメが、みんなの限界を知りたいとか言い出したので、久しぶりに思いっきり……は無理だとしても、施設を壊さない程度に力をセーブしながら、身体を動かした。

 剣術、格闘術、射撃、超遠距離射撃、トラップの設置、身体能力など……


「くっそ、なんだそれ。バケモンか」

「失礼ねっ! こう見えても私、神様よ? これでも手加減してるんだから」

「はいはい。神様なんていねぇっての」

「まっ、信じてもらえないのは仕方ないけど……。でもそれ、聖職者プリーストの前で言うなんて、罰当たりにも程があるわよ?」

「もう、この世界が天罰みてぇなもんじゃねぇか」

「なっ……!」


 悔しいが、言い返す言葉が出ない。

 私だって、こんな世界を作りたかったわけじゃない。

 できたら最初っからやり直したい。

 知らず知らずのうちに俯いてしまった……


「いてっ、いててて。ちょっ、おまっ、何しやが……るんですか」


 驚いて顔を上げると、サエがゴウに、関節技……だと思うんだけど、首と肩を不思議な技で締め上げていた。


「俺が悪かった。悪かったです。だから、許してください、冴様!」

「早く謝りなさい。二度と、そんな事は言わないと誓いなさい」


 サエの放った、一瞬の殺気はすごかった。

 あのゴウが、本気で怖がっている。


「すまん、ヒトエ。言葉が過ぎた。聖職者プリーストがいるんだから、神様もいるんだよな」


 解放されたゴウは、謝ってくれたけど、私としてはゴウの憤りも分かる。

 だから、その思いをしっかりと受け止めつつも……




 悔しがるゴウの横で、浮かんでもいない額の汗を、私は袖で拭うフリをする。


「ふぅ~、スッキリした」

「くっそ。やっぱ、バケモンだ……」


 剣を使った模擬対戦で、ゴウを一方的に斬りまくり、実力の差を存分に見せつけて完勝してあげた。

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