チームを組んだ

 荒れた田畑や山肌に、何かが這いずった跡。

 そして、巨大な地竜の死骸が転がっている。

 もう動くことはないであろうその物体を、山の上から見下ろす人影。


「ったくよぉ~。ひっでぇ事しやがる。我らが守り神を何だと思ってやがんだ」


 フードを深く被った男は、楽しそうにニヤリと口元を歪める。

 その横に控える男たち。

 二人……いや、木々や岩陰にも潜んでいるようだ。

 代表して一人が答える。


「ポルタ様、いかがいたしましょうか?」

「いかがも何もねぇよ。あんなバケモン相手じゃ、何匹送ってもムダってもんだ。出直すしかねぇよ」

「まさか、あの者が予言の……」

「世界が混沌に染まる時、悪神ミィナカムイの使者が現れ、世界を滅ぼす。眉唾もんの教義と思っちゃいたが、案外本当かもな」

「では、に調べさせましょう。ご神体は……」

「分身体なんか放っとけ。……けど、失っちまったのは痛ぇよな。簡単な仕事だって思ったのに、俺もついてねぇ……」


 そう言い残し、男が山の中へと消えた。

 そして、控えていた男たちも、次々と姿を消していった。




 断ってもいいとは言われていたけど、断る理由も無いので、五人でチームを組むことにした。

 それはいいんだけど……


 なぜか私は、神の分身体アバターにして高位聖職者ハイプリースト賞金稼ぎバウンティハンターってことになった。

 もちろん、自分でも何を言っているのか分からない。


 私の身分は、水上国で保障してもらえることになった。

 これで私は、水上国の安月京で生まれた、水上一恵ってことになる。

 両親はおらず、孤児として教会に預けられた。

 だけど病弱で、隔離されて育つ。

 天啓を受け、聖職者プリーストとして目覚めると共に、身体も丈夫に……というストーリーが作られた。


 なんだか強引な話だけど、国王が後ろ盾になっているだけに、怖いものはない。

 年齢も、見た目から十五歳ってことになった。


 ちなみに、王都に教会は一つしかない。

 その教会は、万物の自然を神とし、ミナカミ様と崇めている。いわゆる、土着信仰という感じらしい。


 世界の脅威度を下げるのは、神様レベルを七にするための条件だけど、神様になった時に大神様に言われたのは「知的生命体を誕生させ、信仰を集めるように」って話だった。

 言ったのはナビだったのかも知れないけど、とにかく、神様の信仰を広めることも、後々必要になるみたいだから、この教会に頑張ってもらうのも、いいかも知れない。


 それはさておき……

 世界中を旅するなら、それなりの身分や許可が必要になる。


 こういう時は、冒険者になるのが一番……だと思ったんだけど、この世界には冒険者という職業は無かった。

 冒険者と言えば、様々な厄介事を片付けてくれる便利屋さんって感じだけど、冒険をするからこその冒険者。

 だけど、この世界は、冒険をするまでもなく危険で一杯だった。

 だから、冒険者っぽい職業といえば、便利屋さんになってしまう。

 その便利屋さんは、わざわざ他所の町や村へ出かけたりはしない。

 商人だと、利権が絡むだけに面倒事が一杯らしい。

 あとは、王国軍に入って斥候の任務に就くって感じだけど、それだと遠出はできないし、自由に動けない。

 そんなわけで、私の目的に合う職業は、賞金稼ぎバウンティハンターぐらいしかなかった。


 賞金稼ぎバウンティハンターになるには、賞金稼ぎ組合バウンティハンターギルドに登録する必要がある。

 そこで、職能タイプを見極めるために、ちょっとした審査があるんだけど……

 私は、絶対防御フルプロテクションを披露し、叩き壊した机を修復リカバリーで元通りにしたら、高位聖職者ハイプリーストの称号が与えられた。

 これは、教会とは全く関係なく、賞金稼ぎ組合バウンティハンターギルドが独自に「この人はこういう職能タイプですよ」と判別したものだけど……

 私も前衛タイプで登録しようかってちょっと思ってただけに、止めておいて良かったと心から思った。

 だって、神の分身体アバターにして高位聖職者ハイプリーストだったりするけど、兵士ソルジャー賞金稼ぎバウンティハンターをやってます……って、意味不明すぎる。


 ゴウとトキヤは兵士ソルジャー、サエは遊撃兵レンジャー、カズハは高位魔導士メイジと判定された。

 組合ギルドの人には、全員が上級判定されたことに驚きつつも、少数ながらもバランスの取れたいいチームだと褒められた。

 本来ならば、チームを組むなら最低でも十人は欲しいらしいけど、これなら大丈夫だろうと、チームの許可も下りた。

 そして今、五人は難しい顔をして、テーブルを囲んでいた……




 腕組みをして、う~んと唸り声を上げていたゴウが、ポツリと呟く。


「一点突破」


 今度は、トキヤが小さく首を振って答える。


「質実剛健」


 次は私の番だ。

 こういうのは、本当に苦手なんだけど……


「じゃあ、水上ハンターズ」

「それは、既に登録済みのようです」


 それに、サエが冷静に答える。

 仕方なく、もう一つ考えてみる。


「だったら、水上ファイターズ?」

「そんなの、ひとえ❤ふれんず、に決まっているのですよ」


 嬉々としてカズハがそう答える。


 何をしているかと言うと、登録するチーム名を考えているんだけど、それがなかなか大変だった。

 別にこだわりとかはないから、何でもいいんだけど、コレっていうものが出てこない。

 組合ギルドの人も、呆れた表情でこちらを見ている。


「そうだ。パニッシャーってどうかな。たしか罪を裁く者とかそんな感じだったと思うけど……」

「……それも、既に登録されてますね」


 紙束をめくって確認をしているサエが、無常にもそう告げ、私は机に突っ伏した。

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